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裁決事例の公表(消費税関連の一事例)

国税不服審判所は、1月下旬に令和5年4月~6月分の裁決例を公表しました。
その中で、消費税に関する良い裁決事例がありましたので、簡単にご紹介します。

国税不服審判所令和5年6月21日裁決

不動産会社が土地と建物を複数一括で取得した事例で、消費税の課税仕入れにかかる支払対価の額の計算にあたり、3つの建物の売買代金相当額の算出方法が争点となった事例です。審判所は、課税当局の算定方法が誤っているとして、原処分を一部取消しました。

要するに、建物と土地を一括して購入した場合、建物に係る支払対価の算定方法が問題となりました。
消費税法30条6項・1項の規定からは、「対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭等の額」を支払対価とするとあるため、建物と土地の売買金額が明確でない場合には、合理的な方法でそれぞれの売買代金を区分し、建物に係る支払対価を算定する必要があると解されると、審判所は解釈しました。

問題は、この合理的な方法、です。これは、取引事例に応じて様々でしょうけれども、今回のケースでは、売買に際して2つの建物について改修工事がされていたことをどう評価するか、不動産鑑定士による鑑定評価があることをどう考慮するか、がキーとなりました。

まず、請求人は建物の売買代金を決定するために、差引法や見積額等比あん分法を提案しました。
差引法とは、土地の取得年分の路線価にその土地の地積を乗じることによりその土地の売買代金相当額を算定した後、これを当該土地及び建物の売買代金の総額から差し引くことによりその建物の売買代金相当額を算定する方法です。
見積額等比あん分法とは、建物の新築工事見積書と土地の見積書を業者から取得して、その按分で建物の売買代金相当額を算定する方法です。
しかし、これらの方法は建物の実際の価値を正確に反映せず、不均衡を生じる可能性があると判断されました。

課税当局が処分にあたり採用した固定資産税評価額比あん分法も検討されました。
この方法は土地や建物の評価を公的な基準に基づいて行うため、一般的に合理的とされました。ただし、2つの建物に対する改修工事の影響が反映されていないことが指摘されました。

これらの2つの建物については、積算価格比あん分法が検討されました。この方法は、納税者が依頼した不動産鑑定士によって算定された、土地や建物の不動産鑑定評価に基づき、積算価格の比から建物の売買代金相当額を割り出しています。これは、特に、建物の改修工事を考慮しており、合理的であるとされました。

結論として、固定資産税評価額比あん分法は1つの建物に対しては合理的であるが、残り2つの建物に対しては合理的なものではなく、積算価格比あん分法によるべきだと判断されました。

寸評

バランスの取れた良い判断だと思われます。何が合理的な方法かを、双方の主張する方法毎に検討し、最終的には、納税者の主張の一部を合理的な方法であると認めています。審判所の考える合理的な方法の評価基準のようなものを先に定立し、それに基づいて、双方の主張する方法をスクリーニングする手法もできたかもしれません(審判所の守備範囲を超えるかもしれませんが)。

【利用規約】ECサイトの利用規約の作成上の留意点

はじめに

利用規約は、ECサイトを運営する際に非常に重要な文書です。なぜ重要かというと、利用規約が、ユーザーと事業者との間の契約であり、両者の権利や義務、取引条件を定めるものだからです。Shopifyなどテンプレートが用意されているプラットフォームもありますが、それでも、ある程度は、個々のECサイトの商品特性や運営状況に応じた特記は必要になると思います。

以下では、ECサイトで利用規約を作成するうえでのポイントを挙げてみたいと思います。

1. 明確な表現と用語の定義

利用規約は、ユーザーが理解しやすい言葉で書かれていることが重要です。また、重要な用語や条項を定義することで、誤解を避けることができます。

2. サービスの提供内容

利用規約には、ECサイトが提供するサービスや商品の内容、価格、手数料、支払い方法などを明確に記載する必要があります。

3. 利用条件

利用規約には、ユーザーがECサイトを利用する際の条件を明示する必要があります。たとえば、未成年者の利用制限、禁止行為、アカウントの作成手続きなどが含まれます。

4. プライバシーポリシー

利用規約には、ユーザーの個人情報の取り扱いに関するポリシーを明示する必要があります。

これには、情報の収集方法、使用目的、第三者への提供などが含まれます。昨今、個人情報保護法関連の改正、規定・ガイドライン等の整備が著しく、対応している必要があります。プライバシーポリシーは利用規約とは別建てにする場合も多いです。cookieポリシーも同様です。

5. 免責事項

利用規約には、サービス提供者の免責事項を明確に記載することが重要です。

例えば、サービスの中断や停止、情報の正確性や完全性に関する責任の免除が含まれます。

6. 知的財産権の保護

ECサイトが提供するコンテンツやロゴなどの知的財産権に関する条項を明示する必要があります。これには、ユーザーに対するライセンスの付与条件や知的財産権の侵害に対する対応策が含まれます。

7. 紛争解決手続き

利用規約には、ユーザーと事業者の間で生じた紛争を解決するための手続きを明示することが重要です。最初は協議による場合もあれば、裁判・仲裁による場合もあります。専属的管轄の合意を定める場合が多いです。

8. 利用規約の変更

利用規約には、事業者が必要に応じて変更する権利を有することを明示する必要があります。変更後にECサイト経由で取引をした場合、変更後の利用規約が適用される形にします。また、変更が行われた場合にユーザーへの通知方法を記載することが重要です。ユーザーは利用規約の改定日や通知をよく見て、自らに適用がある利用規約を参照する必要があります。

 

以上のポイントを考慮しながら、利用規約を作成することで、ユーザーとの関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐことができます。
それでも起きるのが紛争というものなのですが、それでも可能な限りあり得る事態を想定し、ユーザーが紛争を起こさないようにする、また仮に紛争を起こしても利用規約に書いてあったという理由で事業者が紛争に勝つような内容にしておく必要があります。

査察事件の流れ

はじめに

 国税の通常調査でも大変なのに、査察調査が突然来たら、多くの人はパニックになってしまいます。

 最近、弁護士・税理士向けに実施しました査察調査に関するセミナーでの発表内容から、簡単な流れや関心事になるであろうポイントをご報告します(セミナー自体はもっと詳細かつリアルな話でした)。

 

統計データ

 令和4年度の国税庁発表の査察の概要(令和5年6月発表)によれば、検察庁への告発件数が103件で、告発された脱税総額は100億円。1件当たりの脱税額は平均して97百万円でした。

 特に、コロナ下の令和3年度と比較すると、告発件数と脱税総額の両方が大幅に増加し、告発率も74.1%と、平成18年度以来の高水準となりました。

 消費税に関する事案も増加しており、令和4年度には34件の消費税事案が報告されています。これらの事案では、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正還付事案が多く、例えば、輸出物品販売場が外国人観光客に対して架空の課税仕入れや輸出免税売上を計上する事案などが告発されています。

 国際事案についても、令和4年度には25件の事案が報告され、外国当局との情報交換や外国法人を利用して不正を行った大規模な国際事案が告発されました。さらに、その他の社会的な事案として、トレーディングカード販売業者の法人税法に関する脱税事案や、SNSを利用して多数の求職者を勧誘する所得税不正還付事案、大手繊維会社の元従業員による無申告脱税事案が報告されました。

 

査察制度

 査察制度の趣旨は、悪質な脱税者を追及し、一罰百戒の効果を通じて適正で公平な課税を実現し、申告納税制度を維持することとされています。脱税とは、国税通則法や各税法に基づいて課税される税金を逃れる行為であり、節税や租税回避行為とは異なります。

 脱税者に対しては、罰金と納税(本税、重加算税、延滞税)が課されますから、かなりの金銭的負担となります。

 

内偵・臨場

 内偵は銀行調査や尾行などを含む事前の調査で、業種による傾向分析や財務諸表の分析などが行われます。一方、臨場(ガサ)は急襲捜査で、しばしば大規模なものになります。臨場を予知するのは難しいです。捜査のために必要な令状が裁判所から発行され、実施されます。捜査の過程で証拠の押収が行われます。なお、令状や黙秘権など、憲法上の権利は保障されています。

 

調査

 調査の行く末を知るため、国税査察官の立場からの視点が重要です。査察官の調査に使用する方法(フォレンジック調査など)を認識し、その進行具合を、査察部とコミュニケーションを取りながら、把握する必要があります。調査には非常に時間がかかります。これは、査察官が、脱税行為を緻密に立証するために、財務諸表や帳簿書類、取引関連の書類、契約書など多くの証拠を確認することになるためです。

 

身柄拘束

 査察事件で逮捕勾留されるケースは、他の刑事事件に比べてかなり少ないです。最近では、海外で脱税指南していたとされる個人が、帰国要請に応じて帰国後逮捕されたことが報道されていましたが、これは特殊なケースと言えるでしょう。

 

起訴と不起訴

 査察官が事案検討会などで調査結果を検討します。検察官も事実上検討内容を把握しており、告発になりそうな事案の情報共有をしています。ですので、告発された案件は、通常、起訴となります。

 しかし、必ずしも告発に至るわけではなく、脱税額が小さい、客観的な証拠が不足している、主観的な証拠が不足しているなどの理由で告発されない、不起訴となるケースはあります。弁護人は、不告発・不起訴に向けた弁護活動を行うこともあります。

 告発の段階で、報道がされることが多いです。重大な事件は、その後も、起訴、求刑、判決の都度、報道されることがあります。これにより、銀行取引、公共入札、取引先との取引に支障が出ることがあります。

 

刑事裁判

 刑事裁判では、個人、法人および法人代表者が刑事責任を追及されます。裁判は、通常3回から4回の期日で終わるべく進行します。証拠を詳細に検証されますが、証拠の内容で争われることは稀です。

 懲役刑と罰金が求刑され、多くのケースでは、判決により執行猶予が付きます。

 

修正申告と納税

 修正申告するとともに納税することで、告発を避けて不起訴を獲得することが容易になる場合があります。また、起訴後の刑事裁判においても、情状との関連で、裁判所から、必ず、本税、重加算税、延滞税等の納税の有無を聞かれますし、弁護人としても積極的に主張していきます。

 

まとめ

 査察事件になりましたら、関与されている税理士に相談するとともに、弁護士にも早めに相談するようにしてください。その後の流れも分からず、身柄を取られるか不安な状態でいるよりは、一刻も早く、専門家に相談することをお勧めします。

 

【役員報酬】不相当に高額な場合の損金不算入について

はじめに

京都市の有限会社京醍醐味噌が月額2.5億円等の役員報酬を支払っていたことについて、国税当局は、これを不相当に高額な役員報酬とし、高額な部分の金額の損金算入を認めない課税処分をしました。納税者は争いましたが、東京地裁は、令和5年3月23日、納税者の請求を棄却しました(詳細はこちら)。

役員給与の損金不算入とは

法人税法は、その34条や法人税法施行令69条において、役員の給与の原則損金不算入と、例外的な、①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与についての損金算入とを定めています。
これは、給与の全額損金算入を認めてしまった場合、所得を出したくない法人は、最大限給与を計上してしまうことになり、法人税法を確保できなくなるため、原則は損金不算入としたものです。他方、上記①ないし③のものは、一定の金額に収まることが予見されるので、損金算入もよしとされたのです。

不相当に高額な給与とは

そうすると、例えば、①の定期同額給与を用いて、可能な限り月額報酬額を高くして、予想される利益にぶつけることによって所得を下げようとする動きが生じます。
そこで、法人税法34条2項は、不相当に高額な役員報酬は、その不相当に高額な部分の金額を損金算入不可とすることで、このような動きを制約しています。

では、いったいどの金額から不相当に高額といわれるのでしょうか?

その金額について、法人税法施行令70条1項は、「不相当に高額な部分の金額」を、支給した報酬の金額のうち、定款の規定、株主総会の決議等により定められている役員報酬の限度額を基準とするもの(形式基準)、又は、法人が各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額が、①当該役員の職務の内容、②その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、③その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(同業類似法人)の役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を基準とするもの(実質基準)に区分し、支給した報酬の額のうち、形式基準又は実質基準に係る金額を超える部分の金額のいずれか多い金額とする旨規定しています。

冒頭に掲げた味噌会社の件では、同業類似法人の選定が問題となり、国税当局が「卸売業」の分類において類似法人を選定したことの是非が争われました。
納税者は、この味噌会社は、ファブレス経営として自社設備を持たないことから、国税当局が決めたような伝統的な卸売業といえるのかと疑問を呈したようです。

考察

判決は、卸売業であるとして、納税者の主張を退けていますが、裁判所の立場からするとやむを得ない判断なのかもしれません。ファブレス工場やファブレス型企業に該当する分類がない状況で、当てはまり得るのが「卸売業」くらいしかなかったのであれば、国税当局のした処分はやむを得ないものだったといえるからです。

しかし、果たしてそうでしょうか。

そもそもこの高額報酬を受け取った役員は、多額の所得税を払わなければならず、トータルで支払われる国税は、法人税法の税率が低い現状からすると、場合によってはむしろ多くなったはずです。つまり、高額報酬を受け取る役員は、安い法人税法の税率を享受する道を選ばず、高い税率の所得税を納める道を選んだわけです。所有と経営が分離されていない会社であればなおさらです。

私企業の利益処分は、株主等の所有者が行うことで、国があまり介入してその決め方を誘導するのもいかがなものでしょうか。ましてや基準が分からない(類似同業者基準など分からない)のに、後で、税務調査において、“後出しじゃんけん” で、当該会社のものではない基準を無理やり適用して課税するのは、適正納税をしようとしている企業にとって望ましい形ではないでしょう。これを、例えば、会社の業績に比例させたり、会社の過去の水準から導き出すなどして計算するするのであれば、株主等の意向に沿うでしょうし、基準も明確であるように思います。加えて、上記裁判において、納税者も主張したようですが、国税の基準に、新しいビジネスモデルの区分がないことも問題です。その法令の不整備のしわ寄せを納税者が被るのは、バランスを失しています。

他方、東京地裁は、判決で、「企業の意思決定として合理的とはいい難い」と述べたようですが、果たしてそうでしょうか。高額の報酬支出を決定したことは、税負担の軽減を目指す企業としては当然だったのではないでしょうか。

いずれにしても、納税者は控訴しているとのことですので、今後の裁判の推移には注視していきたいと思います。

(執筆: 弁護士・税理士 永井秀人)

【景品表示法】過大な景品類の提供の禁止

過大な景品類の提供の禁止について

過大な景品類の提供の禁止について、どのような規制内容なのでしょうか。簡単に触れたいと思います。

過大な景品類の提供の禁止は、豪華すぎるおまけの提供を過大景品として禁止するものです。本体商品に比べておまけが豪華すぎると、射幸心をあおり、真っ当な商取引をゆがめてしまうとして、規制されているのです。

景品類とは顧客を誘引するための手段として取引に付随して提供する経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するものをいいます。経済上の利益であればなんでもあり得るため、景品、クーポン、割引券、ポイント、サービスといった名称は問いません。また、内閣総理大臣が指定するものとは、定義告示といわれるものです。そこでは、「正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益」と「正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益」は、景品類に含まれないとされています。

景品の種類は
1.一般懸賞
2.共同懸賞
3. 総付景品(懸賞によらない景品類の提供)
に分かれており、各々について規制があります。

また、歴史的に見て景品類がつけられることが多い特定の業種における景品類の規制もあり、新聞業・雑誌業、不動產業、医療用医薬品業等については別途規制もあります。

オープン懸賞といって、商品を買ったり、サービスを利用することなく、誰でも応募できる懸賞は、取引に付随して提供するものではないため、景品表示法の規制の対象ではありません。ただ、取引に付随している可能性があれば、規制対象となりますので、注意が必要です。

 

1. 一般懸賞

商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供するものをいいます。例えば、抽せん券、じゃんけん等、当たり商品、クイズ等の解答、競技・遊技等の優劣によって提供するものがあります。

以下の図のとおり、取引価額ごとに提供しても良い景品類の最高額が定められています。

取引価額 景品類の最高額
1000円未満 200円
1000円以上 取引価額の20%

 

2. 共同懸賞

商店街や一定の地域内の同業者が共同して行う懸賞をいいます。ショッピングモールの店舗が、歳末セール、クリスマスセールなど共同で実施するような景品類の提供です。なお、この場合、年3回、年通算70日までにしなければなりません。

以下の図のとおり、提供される景品類については、最高額と総額のそれぞれで限度額が定められています。

最高額 総額
取引価額に関わらず30万円 懸賞に係る売上予想総額の3%

 

3. 総付景品

商品の購入者や来店者(全員、先着順など)に対し、もれなく行う景品類の提供をいいます。

対象者全員にわたるものとはいえ、懸賞に係る取引価額ごとに、以下の図のとおり、景品類について、最高額と総額のそれぞれで限度額が定められています。

懸賞に係る取引価額 最高額 総額
5000円未満 取引価額の20倍 懸賞に係る売上予想総額の2%
5000円以上 10万円

 

近年の問題

景品かどうかが問題になることが近年問題になることがあります。

コンプガチャ

例えば、オンラインゲームの”コンプガチャ”については、カード合わせという懸賞景品の一種として規制されるケースがあります(リンク)。

ポイント・マイレージ

ポイントカードやマイレージは、商品やサービスの購入者に対し、ポイントやマイルを、次回以降の買い物の際、支払いの一部に充当できるようにする仕組みですが、これらは、取引通念上妥当と認められる限り、自己との商品・サービスの取引における値引であり、景品表示法上の景品類には該当しません。
ただ、ポイントやマイルが、自己のみならず、他店と共通となる場合(ショッピングモール共通ポイントとか)は、値引にはなりません。景品類の提供に該当します。
ただ、自店・他店で共通して使用できる同額の割引となるものは、正常な商慣習に照らして適当と認められるものであれば、総付告示により、総付景品規制は適用されないとされています。

もちろん、懸賞でポイントやマイルが与えられるような場合には、懸賞に関する規制(懸賞告示)が適用されます。

【特定商取引法】通信販売のクーリング・オフについて

はじめに

特定商取引法は、消費者と事業者との間のトラブルを防止し、その救済を容易にするなどの機能を強化するため、消費者による契約の解除(クーリング・オフ)、取消しなどを認め、また、事業者による法外な損害賠償請求を制限するなどのルールを定めています(消費者庁・特定商取引法ガイド)。

ここで、クーリング・オフとは、契約の申込み又は締結の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間内に、無条件で解約することです。

クーリング・オフの期間は、訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入について8日以内、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引については20日以内とされていますが、通信販売にはクーリング・オフに関する規定はありません。

このため、通信販売には、クーリング・オフが効かない、という話があります。
しかし、インターネットショッピングで、「思っていた色と違う」、「間違って買ってしまった」ということは往々にして起こります。消費者は、我慢しなければならないのでしょうか。
 
また、事業者は、これに常に対処しなければならないのでしょうか。

 

通信販売における契約の申込みの撤回又は契約の解除

特定商取引法は、その15条の3において、通信販売では、消費者が売買契約を申し込んだり、締結したりした場合でも、その契約に係る商品の引渡し(特定権利の移転)を受けた日から数えて8日以内であれば、消費者は事業者に対して、契約申込みの撤回や解除ができ、消費者の送料負担で返品ができると定めています。

この条文では、通信販売については、訪問販売等と異なり、消費者の自主性が損なわれる程度が小さいこと(つまり、消費者は商品をじっくり検討し、2段階でクリックして購入するのが通販では普通であろうということです)から、強行規定としていわゆるクーリング・オフを定めることはしませんでした。一方で、通信販売でも、返品や交換に関するトラブルは少なくないため、業者と消費者という両当事者にとって分かりやすい形での調整を行う必要があるとして、消費者に商品又は特定権利*の売買契約の申込みの撤回等を原則可能としました。

*特定権利の売買とは、施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるもの(スポーツ施設の利用権、映画、音楽等の芸術やスポーツの鑑賞権、語学のレッスン権)、社債その他の金銭債権、株式会社の株式、合同会社等の社員の持分その他の法人の社員権などです。
 

ですので、消費者は、間違って商品を買った場合、8日以内に、送料負担で返品して、契約の申込みの撤回ができます。

もっとも、事業者が広告であらかじめ、この契約申込みの撤回や解除につき、特約を表示していた場合は、特約によります。
例えば契約や約款で、申込みの撤回や解除ができないようにしてしまう規定をして、それに消費者の合意を得れば、申込みの撤回や解除の対象外となります。

しかも、通信販売の形態で、サービスを提供している場合は、この商品の売買契約または特定権利の売買契約に入りません。ですので、この場合も、申込の撤回等の対象外となります。
 
このように、通信販売事業者としては、申込みの撤回や解除の対象外とすることを望む場合、例えば、購入申込の際の購入者へのご案内や契約、約款において、一度購入する申込をすれば、撤回や解除ができないものであることを謳っておいた方がいいでしょう。
 

広告の表示規制

 また、特定商取引法は、その11条において、通信販売の広告において、申込みの撤回や解除に関する条件や返品特約を謳っておく必要があると定めており、通信販売事業者としてはこの点にも注意する必要があります。
 
通信販売事業者がしばしば用いるウェブ広告の場合、ウェブ広告に記載するスペースがないことのほうが多いです。
その場合は、広告からリンク先に飛ぶようになっているケースが大半だと思いますので、そのリンク先に、きちんとクーリングオフの対象外であることを示す内容が書かれているようにする必要があります。
 
 

【労働法】有期労働契約~雇止めと無期転換~

はじめに

 今日、企業において、いわゆる正社員(期限の定めのない労働契約を締結している労働者)ではなく、有期労働契約を締結している労働者が数多く存在していることは皆様もご存じだと思います。

 さて、このような有期労働契約を締結している労働者について、労働法がどのような保護を図っているか、皆様はご存じでしょうか。

 以下では、主に、有期労働契約をしている企業に向けて、一般的な留意点を解説したいと思います。

 

「雇止め」とは

 まずは、いわゆる「雇止め」です

 雇止めは以下のように定義されています。

 雇止め:期間を定めた労働契約の期間満了に際し、使用者が契約の更新を拒絶すること

  良く知られているように、有期労働契約期間が5年を超えると、無期転換権(期間の労働契約に転換することができる権利)が発生し、これにより、当該労働者は、期間定めのない労働契約を会社に対して申し込むことができます。

 この有期労働契約期間の5年目に際して、雇止めの問題が生じるのです。

 すなわち、無期転換権を定めたのは、有期労働者の雇用の安定を図るためであり、発生要件である労働期間が「5年」の直前でなされた雇止めは、脱法行為である疑いがあるとして、雇止めをしなければならない必要性が相当に強固な場合を除き、雇止めが無効とされる場合が相対的に高くなります。

 企業としては、労働契約法18条、19条により雇い止め法理が制定法化され、労働者の保護がより強化されたことに留意する必要があります。

 では、2年間や3年間勤務した場合の労働者に雇止めをすることについては、問題ないのでしょうか。

 結論としては、2、3年後の雇止めでも、必ずしも労働契約法19条に抵触しないわけではありません。過去の判例でも、5年に満たない場合であっても雇止めを無効とした事例が存在します。5年を経過するギリギリに雇止めを行うことはもちろん、2、3年であっても、労働契約法の趣旨を潜脱するものとして、労働契約法19条1号、2号の該当性を検討され、場合によっては、雇止めを無効と判断される場合があるのです。

 

雇止めが無効とされる場合

 具体的に、どのような場合に雇止めが無効とされるのでしょうか。

 まず、労働契約法19条を見てみましょう。

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(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

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 通達(平成24年8月10日付基発0810第2号。リンク)によれば、労働契約法19条1号、2号に該当する場合には、雇止めが無効であることを示しつつ、これまでの裁判例と同じような判断枠組みを用いて検討するとしています。

 通達は、以下のような判断要素を例示列挙し、これらを総合考慮して、個々の事案ごとに判断するとしています。

  1. 当該雇用の臨時性・常用性
  2. 更新の回数
  3. 雇用の通算期間
  4. 契約期間管理の状況
  5. 雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無

 そして、通達は、労働契約法19条2号の「満了時に」とは、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものである、としています。

 つまり、通達は、一度労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、有期労働契約の契約期間の満了前に、使用者が、更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに労働契約法19条2号に該当しなくなることにはならないと解しているのであり、通達は、2、3年後の雇止めでも労働契約法19条に抵触する可能性を否定していません。

 また、労働者との合意(申込みと承諾)ではなく、使用者が一方的に契約の不更新を通告することは避けた方が良いでしょう。このような場合、多くの裁判例によれば、労働者の合理的な期待を失わせることは相当でないとして、雇止めが無効であると判断されています。

 

労働契約法18条からの視点

 また、労働契約法18条2項も要注意です。

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(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

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 18条2項は、要するに、契約期間中、働いていない空白期間が6か月以上ある場合は、当該5年間に算入されない、というものです。
 ですので、休職期間などで勤務していない期間がある場合には、空白期間のチェックが必要です。空白期間が相当期間ある場合、労働した期間は2、3年と短いのに雇止めの問題が生じ得ることになります。

 

無期転換ルールに関する注意点

 労働契約法18条により、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルール、すなわち無期転換ルールが法定化されています。

 企業としては、この無期転換申込権を事前に労働者に放棄させたい、と考えることはママあるのですが、このように事前に放棄させることは、公序良俗に反し無効であると解されています。

 また、労働者による無期転換請求権の行使を受け入れる場合にも注意をするべき点があります。

 無期転換を受け入れる場合、当該有期期間満了前の翌日から無期労働契約が成立します。したがって、それ以降、労働者を解雇する場合には、期間の定めのない労働者(端的には、正社員)と同様、労働契約法16条(解雇に関する定め)の適用があります。

 他方、無期転換後の労働条件は、「現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件」であり、労働条件が同一であることを前提としています。正社員と同一の労働条件となるものではありません。
 また、無期転換後の労働条件については、個別の合意、就業規則、労働協約など別途定めておき、正社員と違いを設けておくことは可能です。
 もっとも、無期転換労働者について、新たな就業規則が作成され、その条件が従前の労働条件を不利に変更するものであるときには、労働契約法9条・10条の不利益変更禁止の規定が(類推)適用され、変更に至った経緯や、内容の相当性、労働者が被る不利益の程度などの事情を総合考慮して、その内容が「合理的」であると認められなければ、その部分の就業規則は無効となります。

 

小括

 雇止めについてまとめると・・・

  • 5年ギリギリで雇止めをすることは無期転換の制度を潜脱するものとして無効となる可能性が相当程度高い。
  • 空白期間(休職などで労働していない状態等)が6か月以上ある場合、その期間は無期転換の5年間に通算しない。
  • (そのこともあって)2年間や3年間労働した場合でも、場合によっては労働契約法19条によって、雇止めが無効とされる場合もある。
  • いわゆる不更新条項(次回からは契約を更新しない旨の合意)については、労働者の真に自由な意思によりなされた場合には、有効なものとなるが、そうは評価されない場合、雇止めは無効となる。
  • 無期転換を受け容れた場合、労働条件の変更には注意を要する。

 ということになろうかと思います。

 多少複雑なように見えますが、紛争になるケースも数多くみられるところですので、企業運営上欠かせないルールであると言えます。

 次回は、労働組合対応についての一般論を解説したいと思います。

執筆: 弁護士 森村 直貴

 

【国際税務】タックスヘイブン対策税制について

はじめに

 しばしば、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)による課税がなされたという報道に接することがあります。直近でいうと、次のようなニュースです。

サンリオは2日、東京国税局から2021年3月期までの5年間について、約13億円の追徴課税処分を受けたと発表した。香港と台湾にある子会社の所得約42億円を親会社と合わせて申告すべきだと判断された。日本で支払う税金を不当に減らすのを防ぐ「タックスヘイブン対策税制」が適用されたという。”(朝日新聞デジタル

 タックスヘイブン対策税制は、このような大きな会社だけの問題ではありません。中小企業や個人事業者であっても、商取引の国際化により、気軽に海外に法人を作って、海外取引をしたり、国内の法人株式等の資産管理をさせたり、資産運用や投資をしたり、場合によっては、本業の日本の会社の収益を”逃したり”しようとすることもあります。その場合に気を付けなければならないのが、この税制です。

 タックスヘイブン対策税制とは、租税負担の軽い国や地域に所在する外国子会社等を通じて得た所得を、日本国内の法人の所得とみなす、あるいは日本居住者の所得とみなすことにより、軽課税国で課税されなかった(課税を逃れた)所得についても日本での所得と合算して課税しようとするものです。

 なお、「Tax Haven」は、歌にもなっているので、聞いたことがある人もいるかもしれません・・・(Amazonで見てみてください。聞いたことのある人は、タックスヘイブン対策税制をよく知っている人だと思いますが・・・)。

 

タックスヘイブン対策税制の諸々の要件論

 タックスヘイブン対策税制に関する条文、例えば租税特別措置法66条の6は、非常に難解な条文で、その定義に当てはまるか否か、要件一つ一つをチェックする必要があります。しかも、タックスヘイブン対策税制は、平成29年税制改正により大幅に改正がされました。その後も改正が続いています。

 また、仮に当該税制に該当するとされたとしても、その合算される所得の計算も外国の会計処理との照合等で苦労することが多く、また確定申告と同時に提出しなければならない書面があるなど、複雑になっています。

 さらにいえば、個人(株主)が外国関係会社を保有している場合、雑所得課税となりますが、この雑所得課税については、外国関係会社からの配当があった場合配当所得課税の調整規定があり、それにも書面提出要件があるなど、税理士にとっては、ひと手間ふた手間かかる構造になっています。

 税制の適用に当たって、主に問題となる要件は、次のとおりです。

1 外国関係会社

 以下の要件のいずれかを充足する外国法人を「外国関係会社」といい、その所得が検討されることになります。
① 居住者および内国法人が直接または間接にその株式の50%超を保有している外国法人(複数の会社を挟んで間接になっている場合は、掛け算方式ではなく、50%超が連鎖しているかで検討)
② 居住者または内国法人との間に実質支配関係がある外国法人

2 経済活動基準

 外国関係会社のうち、下記①~④の要件をすべて満たす場合においては、租税負担割合が20%未満のときは、受動的所得(利子、配当〔25%以上の出資先からのものなどを除く〕、リース料、知財に関するロイヤルティ、為替差損益等)のみが合算の対象になり、下記①~④の要件のいずれかを満たさない場合においては、租税負担割合が20%未満のときは、その外国関係会社の所得が合算の対象となります。なお、外国関係会社の租税負担割合の計算も詳細ありますが、簡便に、外国関係会社の所在地国の税率と捉えておけばよいでしょう。

① 事業基準:主な事業が株式の保有、知財の提供、船舶リース等でないこと(但し、地域統括会社など一定の例外有。次項の判例参照)
② 実体基準:本店所在地国に主たる事業に必要な事業所等を有すること
③ 管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること
④ 所在地国基準または非関連者基準:主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機リース業以外の場合、主たる事業を主として本店所在地国で行っていること。主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機リース業の場合、非関連者との取引割合が50%超であること

3 特定外国子会社

 外国関係会社の租税負担割合が20%以上の場合は合算課税が生じないのが原則です。しかし、外国関係会社の租税負担割合が30%未満であっても、次のAからCに該当する特定外国子会社に該当する場合には、外国関係会社の所得が合算の対象となります。なお、ペーパーカンパニーでないことを証明するため、実体基準および管理支配基準など、基準を満たす書類(国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A」参照)を準備する必要があります。

A ペーパーカンパニー: 実体基準(上記②)と管理支配基準(上記③)のいずれも該当しない外国関係会社や、一定の要件を満たす持株会社、不動産保有会社または資源開発プロジェクト会社などに該当しない外国関係会社

B 事実上のキャッシュボックス: 一定の受動的所得(事業会社の場合、保険所得及び異常所得以外の所得)に該当する所得の合計額÷総資産の額 > 30%であり、かつ、(有価証券+貸付金+無形固定資産等)÷総資産の額 > 50%の外国関係会社

C ブラックリスト国所在法人: 租税に関する情報の交換に非協力的な国または地域として財務大臣が指定する国または地域に本店等を有する外国関係会社(今のところしていはない)。

 

合算課税適用の判定チャート

 このような要件該当性を踏まえて、合算課税がされるかどうか判定するチャートが諸々出されています(前掲・国税庁Q&A参照)。ここでは、マインドマップを用いて、チャート化してみました(リンク:https://mm.tt/2373549954)。

 

要件該当性が争われた代表例

 上記諸要件のうち、事業基準(主な事業が株式の保有、知財の提供、船舶リース等でないこと)が争われた事例の嚆矢として挙げられるのが、最高裁平成29年10月24日判決(デンソー事件)です。

 この事件は、納税者のシンガポールにおける外国関係会社の主な事業が「株式の保有」業であって事業基準を満たさないとして、納税者が、外国関係会社の所得を合算課税する処分を受けたことから、納税者がこれを不服として争ったものです。最高裁は、主たる事業の判断要素を諸々掲げたうえで、外国関係会社の地域統括業務が、相当の規模と実体を有していたことや、受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても、事業活動として大きな比重を占めていたことから、これを主たる事業と認めました。そのうえで、条文の趣旨や改正の趣旨から、このような地域統括業務を主たる事業とする場合も、なお事業基準を充足すると判断しました。

 理屈はさておき、このような判断は、最高裁ではないと出せないものであり、内容も妥当だと思います。これに対して、(判断内容を最高裁にひっくり返されることになった)原審高裁は、事業基準の例外要件である地域統括業務を行う事業持株会社以外の地域統括会社の行う地域統括業務は、株式の保有業務の中に含まれるとしていたのですが、ビジネスはそんなものでしょうか。ビジネス的な見地からは、やはり不自然に思います。納税者が最高裁に諮ったことは至極当然だったと思います(この点に、高裁の限界を感じます。人や場所にもよりますが、高裁は、法文と下級審で出された資料しか見ないうえ、税務に不案内な裁判官が保守的に対応する傾向にあると思っています)。

 

まとめ

 タックスヘイブン対策税制による所得税・法人税課税は、意外に多く存在します。税務調査での指摘や課税処分もまた多いところです。

 ところが、要件論は非常に複雑で、解釈を要する場面も少なくありません。当然、要件の解釈をめぐって、当局と対立することもあります。当局も、特段、普段から指導したり、調査に当たっても要件をサポートする資料を、敢えて要求したりしないため、税務調査において要件不充足として課税を言われて戸惑うことがあります。また関与税理士次第では、調査で指摘されるまで、税制の適用や存在すら感じていない場合もあります。

 このように、タックスヘイブン対策税制をはじめ国際税務の諸論点は、非常に緻密な議論になることも少なくありませんので、タックスヘイブン対策税制や国際税務に詳しい税理士や弁護士に、税務調査段階から(少しでも不安があれば申告段階から)依頼するのが望ましいでしょう。

(執筆者: 弁護士・税理士 永井秀人)

【Business Management Visa】経営管理ビザと法令遵守

経営管理ビザとコンプライアンス

経営・管理ビザで在留する外国人は、事業の運営を適正に行うことが求められています。

例えば、租税法との関係では、租税関係法令を遵守し、また、所得税、法人税、消費税や地方税を適切に納付している必要があります(「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」出入国在留管理庁)。

法令が遵守されていない場合には、ビザの更新が拒絶されることがあります。経営管理ビザは通常1年更新ですが、2期以上連続黒字決算など安定経営をしている場合は、3年や5年もありますが、法令遵守違反があった場合、それらの地位も、日本で築き上げた生活基盤も台無しになるリスクがあります。

 

税務コンプライアンス

税務の面で更新の際に問題となるのは、脱税をしていたような刑事事件の場合は当然ですが、次のような場合には、注意が必要です。

  • 消費税の不正還付行為をしていた場合
  • 重加算税の賦課決定を受けた場合
  • 徴収逃れや長期滞納をしている場合

これらは、ビザの更新において、大きな問題になることが多いので、注意が必要です。経営管理ビザの経営者は、税務調査に気楽に応じたり、納税資金が足りず言葉の問題があるからと督促に応じなかったりしていると、ビザの更新の際に思わぬ処分を受けることがありますので、注意が必要です。

 

労務コンプライアンス

労働関係法令の遵守も注意が必要です。端的に言えば、社会保険に加入して、適切に保険料を納付していることが求められます。

経営管理ビザの経営者は、時として、労務コンプライアンスをそこまで重要に考えず、気軽に知人などを雇っていたりすることもありますが、ビザの更新の際に思わぬ処分を受けることがありますので、注意が必要です。

 

 

まとめ

一度、更新不許可となるとこれを覆すのはとても困難です。したがって、コンプライアンスに十分配慮した経営をするとともに、税務調査や労働基準監督署からの問い合わせに対しては、専門家に相談の上、専門家とともに対応するなどして、大きな問題とならないようリスクをコントロールする必要があります。

リーズ法律事務所では、外国人の顧客に対しても、税務問題、労務問題について積極的にアドバイスしています。

執筆: 弁護士・税理士 永井秀人

 

Business Management Visa and Tax/Labor Compliance

Foreign nationals residing in Japan on a business management visa (a.k.a business manager visa or executive visa) are required to operate their businesses properly.  For example, in relation to tax laws, they must comply with tax-related laws and regulations, and must also properly pay income tax, corporate tax, consumption tax and local taxes (外国人経営者の在留資格基準の明確化についてin Japanese) . Otherwise, the visa renewal may be denied.

Problems will always arise if the manager or the company he or she manages has committed tax fraud or has engaged in fraudulent consumption tax refunds. Even if it is not that serious, there are cases where the company or manager has received a decision to impose additional penalty taxes, evaded collection, or been in delinquency for a long period of time.

In addition to tax-related matters, the company or manager is required to comply with labor-related laws and regulations, typically by providing social insurance for their employees and paying the appropriate insurance fees.

Managers with a business/management visa sometimes casually respond to tax audits and receive penalty taxes or casually hire acquaintances without paying social insurances or legally required wages, but they may receive unexpected sanctions when renewing their visas.

Once a non-renewal is denied, it is difficult to reverse the decision. Therefore, it is necessary to control the risks to avoid major problems by paying sufficient attention to compliance in management, as well as by consulting with  specialists to respond to tax  investigations and inquiries from the Labor Standards Inspection Office.

【相続税・財産評価通達6項】最高裁令和4年4月19日判決

財産評価通達6項に基づく鑑定評価額により更正処分を行った一審、二審判決は妥当であるとした最高裁令和4年4月19日判決について

はじめに

 この度、リーズ法律事務所に入所しました、弁護士の森村直貴と申します。このブログなどを通じて皆様に少しでも有益な情報をお伝えできればと思います。

 さて、タイトルの最高裁判決は、新聞やニュースを賑わせた判決として有名です。今回は、この最高裁の判示内容について、いくつかのポイントに分けてご紹介していきたいと思います。

 

事案の概要

 本件は、被相続人から相続人が相続した各不動産(甲不動産、乙不動産)について、評価通達の定める方法に従い相続税の申告をしたところ(路線価に基づく評価額)、税務署長から「評価通達の定めにより評価することが著しく不適当」とされ、評価通達6項に基づく鑑定による評価額で評価すべきとして、更正処分を受けた事案です。

 本件の特殊性として、被相続人は、相続開始前に銀行などからの借入金で各不動産を購入している点です。この行動は、相続にかかる相続税の負担を少なくすることを期待して行ったものであるとされています。また、本件各不動産の通達評価額と鑑定評価額とが著しくかい離していることも明らかとなっています。なお、相続人らの相続税の申告書では、基礎控除(相続税法15条)の結果、相続税の総額は0円となっていました。

 納税者は、本件における更正処分が、相続税法22条に違反していること、また、同処分が平等原則に違反していること、を主張していました。そこで、判決文を適宜引用しながら最高裁がどのような判示をしたのか見ていきたいと思います。

 

財産評価基本通達6項とは?

 まず本件更正処分にあたって、適用された財産評価基本通達(評価通達)6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されています。

 もっとも、この規定からは、どのような場合に「評価することが著しく不適当」であるかが判然としません。もっとも、最高裁は、以下に述べるように平等原則に触れつつ、通達の定めに従って評価することが著しく不当かどうかを判断しています。

 

平等原則違反か?

 平等原則は憲法14条に由来するものです。平等原則とは、多少平たく言えば同じようなものは同じように取り扱うことを意味します。
 最高裁は、この原則は租税法にも当てはまるとしつつ、課税庁が評価通達を基準として画一的に相続財産の評価の一般的な方法を定めているのであるから、特定の者をいわば狙い撃ちのような形で評価通達の方法により評価した価額を上回る価額によるものとするのは合理的な理由がないかぎり許されないと考えているようです。つまり、評価通達によって画一的に課税額を決定している以上、それと異なる取り扱いは原則として許されない、ということです。

 もっとも、例外的に、画一的な評価を行うことが実質的に見て租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由があるとして平等原則に反しない、とも判示しています。
 
 どのような事情が租税負担の公平に反する事情といえるかは事案ごとに異なると考えられ、個別具体的に判断されると考えてよいでしょう。

 

本件での個別事情

 本件ではなぜ評価通達6項に基づく鑑定評価額による更正処分がなされたのでしょうか。

 最高裁は、①本件各不動産の通達評価額と鑑定評価額とがかい離していることに加え、②被相続人の行為により相続税の負担が著しく軽減されたこと、③被相続人などが節税の意図を有していたこと、を理由に、このような事情がある以上、他の納税者と上告人らとの間に不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反するとして、評価通達6項の適用を認めています。つまり、本件では上記の合理的な理由があると最高裁は判断しているようです。
 評価通達6項の「著しく不適当な場合」については、本件では明確な基準は打ち出されなかったものの、大きなくくりでいえば、他の納税者との間に不均衡が生じる程度が大きい場合には「著しく不適当」な場合に当たりうるといえるでしょう。

 なお、本件では、本件更正処分が相続税法22条に反しないかどうかも争われていますので、参考までにご紹介します。

 

相続税法22条との関係

 また、納税者は、更正処分が相続税法22条に違反していると主張していました。
 相続税法22条は、「相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得時の時価による」としていますが、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されています。
 最高裁は、評価通達は、その時価の評価方法を定めたものではあるものの、通達の性質上国民に対して直接の法的効力を有しないとして、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値を上回らない限り、同条に違反するものではないとして、本件各更正処分に係る各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であるから、相続税法22条には違反しない、と判示しました。

 通達とは、上級行政機関から下級行政機関に対する命令と考えられていますので、直接国民に対するなんらかの法的効力を有さないと一般に解されています。上記最高裁判の判示は、このような通達の性質も勘案したうえで、【財産の取得時における客観的な交換価値 ≧ 課税価格に算入される財産の価額】であれば、同所に違反しないと考えているといえます。

執筆: 弁護士 森村 直貴

今後の実務に与える影響

 評価通達総則6項は、伝家の宝刀といわれてきました。国税当局としても、「国税庁長官の指示を受け」る必要が(内部手順的には)あるわけですから、容易に抜けない刀ではあり続けると思います。

 今回の判決は、総則6項が適用されるための客観的な要素を明確に打ち出すようなものではありませんでしたが、それでも、上記①~③の要素は打ち出して、これらの事情があれば実質的な租税負担の公平に反するため平等原則違反ではない、としたのです。今後は、①~③の基準の深化と評価が、実務上定められていくものと思います。

 とはいえ、租税負担の軽減の意図、一言でいうと節税の意図は、世間一般誰でも持ちうる感覚ですので、あまり重視され過ぎるのもよろしくないと思います。

執筆: 弁護士・税理士・元国税審判官 永井秀人