【事業承継】会社役員の分掌変更に伴う退職金の税務上の留意点(上)

 経営者が築き上げた事業をどのように、どういった点に気を付けて次世代にバトンタッチすればよいのでしょうか。

 何回かに分けて、さまざまな留意点についてコメントしたいと思います。

分掌変更に伴う留意点

 今回は、経営者が、無事、事業を子どもなどに承継する目途がついたあとに訪れる、気が抜けないポイントについて解説します。
 特に、事業承継後もお元気な先代経営者には頭の痛い話となります。

 例えば、先代経営者が、子どもなどの後継者に事業を譲って、常勤取締役から非常勤取締役や監査役になり、この分掌変更に際して退職金を受け取ることが多々あります。この分掌変更に伴う退職金の支給は、「退職給与」(役員の退職に起因して支払われる給与)とは異なるため、原則として損金不算入となります(法人税法34条1項)。

 しかし、例外として、通達は、「退職」の範囲を広げることで、一定の場合に限り、分掌変更に伴う退職金の支給も退職給与として取り扱い、損金算入を認めています。

「退職」の範囲

通達と裁判例

 具体的には、通達は、次の3つを例示として挙げています(法基通9-3-32。https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm)。

 ①常勤役員が非常勤役員になったこと、

 ②取締役が監査役になったこと、

 ③分掌変更後の役員の給与が激変(おおむね50%以上の減少)したことの3つ

 ただし、いずれの分掌変更後の役員についても、代表権がある場合や、実質的に法人の経営上主要な地位を占めている場合を除くなどとされています。

 これらの例示を踏まえ、通達は、分掌変更によりその役員の地位または職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによって支給した退職金の支給も、退職給与として取り扱うことができるとしています。

 なお、この通達の規定は、複数の裁判例でも支持されています(裁判所は明示的に支持するとはいっていませんが、同じ実質退職基準を用いて判断しています。例:東京地裁平成27年2月26日判決)。

要するに・・・

 よりかみ砕いていうと、要するに、法人としては、分掌変更後の先代が、実質的に法人の経営上主要な地位を占めていないか、地位や職務内容が激変し、実質的な退職状況にあるか、という点をクリアしないと、分掌変更に伴って先代に対して支払った退職金を、損金として算入できないことになります。

 課税庁側からいうと、分掌変更後も、先代が経営をコントロールしていたり、相変わらず銀行などの主要取引先との取引に関与していたりするといった事情を見つけて、損金算入を否認することになります(さらに、たとえ実質的な退職状況にあったとしても、課税庁側は、退職給与が不相当に高額だとして、過大部分について否認することがあり、この点も重要なポイントです。ここは稿を改めて解説したいと思います)。

 では、どうすれば、分掌変更後の先代経営者が、実質的に法人の経営上主要な地位を占めていない、地位や職務内容が激変し、実質的な退職状況にある、という点をクリアできるのでしょうか。

 これは次回検討したいと思います。

(弁護士 永井秀人)

 

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