【事業承継】会社役員の分掌変更に伴う退職金の税務上の留意点(下)

 前回に続いて、どうすれば、分掌変更後の先代経営者が、法人の経営上主要な地位を占めていない、実質的な退職状況にある、という点をクリアできるのかという具体的な内容について解説します。

結論からいいますと・・・

 先代経営者にとっては覚悟がいる話ではありますが、分掌変更後の給与は年金と思って、自らは経営への未練を断ち切って、子どもなどの後継者に任せること。それが、実質的に経営上主要な地位を占めていないと判断されるポイントです。
 
 具体的な判断要素を検討する前に、通達は、3つの例示を出していますから、それをその通りやれば、職務内容が激変し、実質的な退職状況にあるといえるので、否認されないのではないか、という疑問もあるでしょう。

 しかし、これらはあくまで「例示」にすぎません。あくまで、実質で判断されるのです。

 では、実質的に判断する際の、判断要素はなんでしょうか。例えば、次のようなものが考えられます。

判断要素

(1)社内での扱い

(a)役職(非常勤、監査役など)
(b)給与(半減以下か)
(c)「会長」等の呼ばれ方

など処遇の変化

(2)社内の業務

(a)取締役会、経営会議、常務会などのマネージメントによる会合、社内の重要な会議に出席しているか否か。
(b)社内の重要な決定・変更事項(人事、給与、設備投資、資金調達、営業所・工場設置など)に関与しているか。
 
 ただし、会議出席の点は、非常勤取締役として取締役会に出る立場でもありますので、本当は、さらに議事においてどういう関与をしたかが検討されることとなるはずです。 

(3)対外的な業務

(a)銀行や取引先との会議に出席しているか否か。
(b)会社にとって重要な商談や折衝に同席しているか。

具体的にどうすれば?

 これらの判断要素のなかには、強い弱いがあると思います。

 また、判断要素の中には、事後的に証明しにくいものも少なくありません。特に、同族会社などで、取締役会議事録を作成、保管していないところもあるでしょう。
 ですので、事後的に、取締役会に形式的に出ていただけで、途中で退席したことや発言しなかったことを立証しようとしても、困難となります。
逆に、こういったことを事後的に立証できれば、実質的な退職状況があるということに近づくでしょう。

 先代経営者の場合、大株主であることも多く、経営に通暁しているのですから、ただですら、経営上主要な地位を占めているといわれかねない地位にあります。
 これを、どのように社内体制にするのか、どのように証拠固めをするのか、という点が非常に重要になってきます。

 このような事実と証拠の整理については、個々の法人・経営者ごとに個性があり、専門家であってもなかなか一朝一夕に実施できるものではありません。このような点に不安を抱える法人や経営者の方々は、分掌変更の前後から、この分野に精通した専門家に相談されることをお勧めします。 

(弁護士 永井秀人)


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