【税務訴訟・審査請求】租税訴訟と租税不服申立(2)

 
 今回は、審査請求と再調査請求のメリット・デメリットを検討したいと思います。
 

審査請求のメリット

 審査請求には、次のようなメリットがありますので、すぐに訴訟に行くよりも、審査請求という手段をとることをお勧めします。

・無料

 裁判において印紙代などがかかるのとは異なり、無料です。ただし、原処分庁から提出された資料などをコピーしようとすると、コピー代は当然かかります。

・迅速

 直近の1年内処理率99%超は立派です。

・非公開

 税金のような機微に触れる問題は、裁判のように公開法廷でしたくないものです。もっとも、裁判(税務訴訟)においても、すぐに弁論準備手続に付するなど非公開化に配慮しています。

・職権調査

 審判所は、処分庁とは異なる視点で職権で調査を行いますので、場合によっては、請求人に有利な事実も認定してくれるでしょう。
 ただし、注意が必要なのは、審判所においては、必ずしも納税者側に立った調査がなされるわけではないという点です。また調査の練度や深さは、担当審判官など合議体のレベル、資質などに左右されます。納税者は、ともすると代理人も、審判所は公正な機関なので、職権で何でもかんでも調査して、きっと納税者側に有利に正しい判断をしてくれるという思いを抱きがちですが、審判所は判断機関ですので、そのような考え方は安易です。裁判同様、一当事者として、自ら主張立証を尽くすべきでしょう。

・一定程度の質の担保

 裁決に至る過程で、弁護士、税理士、公認会計士出身の任期付国税審判官、裁判官、検察官、キャリア職員・国税プロパー職員など様々な人の目を通ります。
 このうち、弁護士、税理士、公認会計士出身の任期付国税審判官が全国で50名おり、ほぼ必ず合議体に1名ないし2名は入る計算となっていますので、民間の声を反映するという任期付審判官制度導入の趣旨は具体化されています。もっとも、審判所支部ごとに、また年度ごとに、その構成に変動があり、自ず質に変動があることは否めません。
 また、国税不服審判所は霞が関にある本部と、札幌、仙台、関信、東京、名古屋、金沢、大阪、高松、広島、福岡、熊本、沖縄の各支部から構成されており、基本的に各支部で事件を処理するのですが、本部が審判所としての判断を一定程度統一すべく、各支部の判断に関与する場合があります。
 それを悪くいう人もいますが、実際問題として、人的リソースの問題から、支部ごとの判断の質にばらつきが出る事態はあり得ます。都会だからいいというわけではありません。ただ、大阪支部では、代々、支部所長に裁判官が就任することから、一定程度の質を維持できる傾向にあるといえるでしょう。

・出廷が不要

 審判所は、裁判と異なり、当事者双方が出廷して準備書面の陳述や証拠調べなどはありません。基本的には書類のやり取りで終始します。請求人や代理人にとっては楽といえます。逆に、請求人にとっては、「聞いてもらった感」を感じにくいかもしれません。そういう場合は、口頭意見陳述などの手続きを利用するとよいでしょう。

・その結果・・・

 これらのメリットから、最近では、直接審査請求のルートを選ぶ請求人が多数で、国税不服審判所の業務量もかなり多くなっています。
 

審査請求のデメリット

・通達に事実上拘束される

 国税不服審判所は、通達という国税庁長官の示した法令解釈に従う必要はないのですが、基本的には、通達に従った運用をしています(評価通達などについては、裁判所もこれに則って判断しています)。もっとも、審判所でも、通達の適法性や合理性が問題となる事例も少ないので、この点が大きくクローズアップされる事案も少ないと思います。

・税務行政部内の救済機関である位置づけ

 国税不服審判所長の裁決は、税務行政部内における最終判断であって、原処分を一部でも取り消すと、原処分庁は、裁判所の判断を求めて提訴できません。そうすると、どうしてもギリギリの場面では、裁判所のように独立に判断を下そうとする考え方とは異なる考え方、すなわち原処分を維持して、難しい問題は訴訟で判断してもらおうとする考えに傾く余地はあります。とりわけ、法令の解釈や適用に関する問題については、その傾向が強くなるのではないでしょうか。

・国税プロパー職員の関与

 巷間、国税プロパーが人事異動で国税不服審判所に勤務することとなり、判断に関与することになることから、国税不服審判所が国税寄りの判断をする恐れがあるという、いわゆる「同じ穴の狢(むじな)」論がありますが、審判所にいる国税プロパー職員も様々です。後輩のした原処分にきわめて厳しい視線を向ける職員が審判所に大勢いることは特筆すべき点かと思います。

まとめると・・・

 私が国税不服審判所に勤務した経験を有するから、というわけではありませんが、審査請求手続は、(もちろん改善すべき点はあるでしょうが)比較的よくできた制度であり、お勧めできます。
 

再調査請求

 そうすると、再調査請求は不要なのでしょうか。再調査請求のメリット・デメリットを考えてみます。
 
 デメリットというわけではないのですが、やはり、課税処分をしたその課税庁(再調査審理庁)に対して、課税処分をもう一度考え直してほしい、という再調査の請求については、心情的に「やっても無駄」と感じる納税者も多いと思います。
 また、再調査の請求に対して、例えば一部認容する決定が出たとして、納税者がそこで最終的に満足するかどうかは疑問です。多くの場合、全面的に処分を取り消す決定が出ない限り、審査請求に移行するのではないでしょうか。それであれば、最初から審査請求でいいという考えはあると思います。
 
 しかし、場合によっては、再調査の請求が有益な場合があります。
 再調査の請求は、実際に調査、処分した担当者がもう一度やり直すわけではなく、他の担当者が違う視点から検討します。特に計算の仕方や取引の仕組みの捉え方などのちょっとした違いによって処分額に差異がでるような事件であれば、再調査の請求のルートを検討する意味はあるでしょう。
 また、再調査請求後に、審査請求をすることを見据えた場合、再調査請求時に、課税庁(再調査審理庁)がどのような主張立証をするのかは把握できますので、納税者側として、攻撃内容を充実させることができるというメリットもあります。
 
 ただ、再調査請求から審査請求という流れですと、3か月近く余計に時間がかかります。なお、納税者は、再調査の請求から3か月を経過しても再調査の請求に係る決定がない場合には、国税不服審判所長に対して審査請求を行うことができます。また、再調査決定も、3か月を標準審理期間とし、直近の実績で、実に96%超の事件において3か月以内に決定を出していますので、さほど時間はかからない印象です。
 

小括

 今回は、審査請求と再調査請求のメリット・デメリットを検討しました。結局のところ、事件の性格に応じて、使い分けるという(単純な)結論に落ち着くのですが、納税者の方にはその辺りの判断が難しいといえます。やはり、このような手続きに慣れた専門家に委ねるのが、費用は掛かるけれども、有効である気がしています。
 
(弁護士・税理士 永井秀人)
 

【リーズ法律事務所では、国税不服審判所に国税審判官として勤務した弁護士・税理士が、納税者の方々の権利のために、税務訴訟や審査請求などの税務紛争、争いのある税務調査に積極的に関与しております。メールにて気軽にご相談ください。】