【国際相続】ジョイント・テナンシー等の課税上の留意点(1)

 今回は、いわゆる国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・テナンシーやジョイント・アカウントにかかわる課税上の留意点を取り上げます。

はじめに

 近年、海外が身近になるにつれ、海外投資家や海外在住経験者(筆者もそうですが)などが、日本に住みながら、英米系の国、特に米国に対する不動産投資をするようになっています。その際、家族や夫婦で共有する場合が多く見られます。

 典型的なものは、ジョイント・テナンシー(合有不動産権)で不動産を購入したり、ジョイント・アカウントで銀行口座を作ったりすることかと思います。夫婦や親子で取り組むことで、相続時の、費用も時間も掛かる検認裁判(Probate)を避けるための法技術です。

 しかし、これらをめぐる課税については、別途少し慎重に考える必要があります。Probateの煩を避けたために、贈与税がかかるとしたら望ましくありません。今回は、課税上、どういうところに留意したらいいのか、公表された裁判例や国税不服審判所の裁決例から、簡単に検討してみたいと思います。

ジョイント・テナンシー

 ジョイント・テナンシー(joint tenancy)は、right of survivorship(生存者財産権)付き、すなわち一方が死亡した場合、他方が自動的に全部支配することになる権利の付いた不動産権です。ジョイント・テナントとしての権利は、譲渡可能ですが、遺贈や相続はできないとされています。

投資時の留意点

  1. 名古屋地判平成29年10月19日

     ジョイント・テナンシーの形式で不動産を購入した際に、妻(原告)に、半分の金銭的負担がなかったから、夫から妻に対して、経済的利益の移転があったとして、みなし贈与(相続税法9条)該当性が問題となったごく最近の事例です。

     裁判所は、課税庁の贈与税課税を極めてあっさりと認めました。論理は、こうです。

     夫妻はジョイント・テナンツとして、それぞれ2分の1の持分を有する。
     そうすると、不動産取得に際し、購入代金の全額を夫が出したことになるので、妻は、対価の支払なく、2分の1相当の経済的利益を得たということができる。
     このことからすると、「対価を支払わないで・・・利益を受けた場合」(相続税法9条)にあたるため、みなし贈与に該当する。

  2. 東京高判平成19年10月10日(一審:静岡地判平成19年3月23日の多くを引用)
     夫婦がカリフォルニアでジョイント・テナンシーの形式で不動産を購入し、その後、現地在住の子ども夫婦に贈与。3年以内に夫が死亡。夫が代金全部を出していたため、夫から妻への2分の1相当の贈与と、その後の子ども夫婦に対する贈与について、3年内贈与加算が問題となった事例です。
     裁判所は、名古屋地判と同じ論理で夫婦間のみなし贈与を認定し、さらに子ども夫婦に対する贈与についても認めています。

簡単なまとめ

 このように、投資にあたっては、両方がお金を出しあって購入するという(ある意味当たり前ですが)権利の内容と整合した資金の手当てが必要といえるでしょう。夫婦の一方など、共有相手に資金がない場合は、資金を貸し付けて実施することも考えられますが、その際には、金銭消費貸借契約書を整えて利息をもらうなどしておく必要があるでしょう。資力や返済能力以上に貸してしまうと、贈与ではないかとの印象を与えかねません。

 次回は、相続時の留意点を検討したいと思います。

(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)

 

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