【国際相続】ジョイント・アカウントの課税上の留意点(3)

 以前、ジョイント・テナンシーに関する課税上の留意点に触れました(第1回第2回)。今回は、国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・アカウントにかかわる相続時の課税上の留意点を取り上げます。

ジョイント・アカウント

 結論からいうと、ジョイント・アカウントも、生存者財産権や死亡時支払条項付である場合が多いと思います。その場合、ジョイント・テナンシーと同じです。
 順を追って説明します。
 
 さて、金融取引や人的交流の国際化によって、海外に銀行口座を残したまま死んだら、その相続はどうなるのでしょうか。
 特に、外国銀行のジョイント・アカウントの預金は、相続手続なしで、もう一人の共同名義人の財産となり、課税関係は生じないなんてことはあるのでしょうか。
 

日本における共有名義口座と民法(相続関係)の改正

 もし、日本法で共有名義の預金口座があった場合にはどうなるでしょうか。
 例えば、夫婦2名の共有である預金口座があり、夫が妻と娘を残して、遺言なく死亡した場合を想定してみましょう。
 まず、預金債権は可分債権なので、預金口座に入っている共有のお金のうち、1/2(夫の分)は、妻と娘がこれをそれぞれ1/2ずつ相続します。妻の分1/2は、そのまま妻のものです。
 その結果、預金全部のうち、妻が3/4、娘が1/4をとることになります。
 
 なお、預金も遺産分割対象となるということが、最高裁大法廷平成28年12月19日決定で判断され、これを前提とした民法(相続関係。いわゆる相続法)が改正されました。すなわち、相続人による預貯金債権の一部払い戻し(各債権×1/3×払戻人の法定相続分。金融機関当たり150万円まで)を可能とする改正です(改正後民法909条の2)。この改正は、令和元年7月1日に施行されます。
 

海外における共有名義口座

 閑話休題して、例えば、米国にあるジョイント・アカウントの預金について、検討してみたいと思います。
 預金口座がアメリカにあることで、故人は日本国籍で日本で亡くなっても、準拠法をどうするか、相続手続きをどうするかといった話になってきます。
 まず、日本国籍の被相続人が亡くなったとき、相続は、「被相続人の本国法によ(り)」(法適用通則法36)決せられ、本国法とは死亡時の国籍法であるため、日本法で規律されることになります。
もっとも、ジョイント・アカウントの預金債権が法的にどういうものと解するか、という財産的な側面は、アメリカの法律で解釈されることになります。
 
 では、例えば、アメリカの例えばUniform Probate Codeに準拠するハワイ州法などからすると、生存者財産権付ジョイント・アカウントの預金は、死んだら相手方が全部権利を有することになり、相続財産ではないことになりますが、日本人でもそういうことになるのでしょうか?
これについては、裁判例があります。
 

東京地判平26.7.8(請求棄却)

 故人(被相続人)が公正証書遺言で、金融資産の10分の6を先妻との子に、それ以外は後妻に相続させるとしていたところ、先妻の子(原告)が、後妻(被告)に対し、生存者財産権付ジョイントアカウントとなっている預金の10分の6を求めて訴えたものです。
 
 争点は、ハワイ州のジョイント・アカウントの預金が相続財産を構成するか?
というものでした。
 
 裁判所は、概要、次のように判断しています。
 被相続人が日本人なので、準拠法は日本である(法適用通則法36)が、預金契約という法律行為の準拠法はハワイ州法である(法適用通則法7、8)。
本件のジョイント・アカウントの預金は、銀行との預金契約やハワイ州の採用するUniform Probate Code(統一遺産管理法典)に照らして生存者財産権(survivorship)が認められ、相続の客体にならないものであるから、相続財産を構成しない。
 

相続手続き

 では、ハワイ州などアメリカでの相続手続はどうなるのでしょうか?
 一般に、ジョイント・アカウントで、生存者財産権付ジョイント・テナント(joint tenants with rights of survivorship; JTWROS)である旨の記載や、死亡時支払条項(POD)や死亡時移転条項(transfer on death; TOD)付のものは、生存者へ権利帰属することになります。Survivorshipのあるジョイント・テナンシー、トラスト(信託)と同様、プロベートは不要です。
 

日本での課税

 プロベートなしに無事相続した外国銀行の預金ですが、日本の相続税の申告は不要でしょうか?
 答えはおそらくノーです。
 
 すでに第2回(リンク)で述べたとおり、「対価を支払わないで利益を受けた場合」(相続税法9条)に該当し、みなし贈与と判断される可能性があります。
 国税不服審判所平27.8.4裁決において、生存者財産権付ジョイント・テナンシーで生存者(ジョイント・テナンツ)が受けた経済的利益をみなし贈与と判断されたこと、また、国税庁ウェブサイトの質疑応答事例(リンク)において、みなし贈与と死因贈与とが併記されていることからすると、この例と同様に考え、いずれにせよ、相続税が課税される可能性があるのです。
 

まとめ

 したがって、例えば米国でこのようなジョイント・アカウントが問題になった場合の処理においても、生存者財産権付ジョイント・テナンシーと同様に処理するのが安全といえるでしょう。
 

(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)

 

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