【税務調査】税務調査とはなにか(2)

 さて、国税局や税務署から納税者が受ける「税務調査」ですが、税務調査とはいったいなんでしょうか?

 今回は、前回に続き、税務調査について、とくに法人や個人事業主における税務調査の注意点について、深く堀りさげて解説していきたいと思います。

 

売上調査

 法人や個人事業主の所得に関する調査において、必ず問題となるのは、売上と原価、経費の問題です。

 

チェック項目

 このうち、売り上げについては、

 ・売上除外、計上漏れ、繰延べはないか。

 ・翌期に計上すべき赤字取引を当期に計上していないか。

 ・売上値引きの計上時期は妥当か。

といった点がチェックされることになります。そして、それらを確認するために、調査官は、受注から出荷、代金回収に至るまでの流れを質問したり、その流れに沿って、どのような帳簿にどのように記載し、どの時点で売上計上するのかを問いただしたりすることになります。

 その前提として、まずそもそも帳簿がきちんと出せることが重要です。消費税の観点からは特に重要です。調査時に帳簿や請求書等の提示がなければ、仕入税額控除が認められなくなる可能性があるからです(消費税法30条。参考:国税庁タックスアンサー(リンク))。そのうえで、調査官は、帳簿類を互いに突合したり、反面調査で他から把握した資料と突合したりして、正確性をチェックします。また、現金商売であれば、現金出納帳とレジの残高とをリアルに突合します。

 法人については、売上の計上時期が検討されることがあります。税法では、原則、製品等の引渡しがあった日とされていますので(法人税法22条の2第1項)、商品の移動状況(出荷、船積み、着荷、持ち込みなど)、相手方の検収の状況からみて、売上計上日が妥当か検討されます。
 もっとも、会計原則・会計慣行において、引渡しの日以外の日を基準として収益を認識する会計原則・会計慣行に従った処理を是認してきました。このような引渡し等の日以外の日に収益計上した場合への対応として、契約の効力が生ずる日もしくは資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日の属する事業年度において収益として経理したときは、これを認めることが明らかにされています(同第2項)。

 また、値引き、リベート、返金などがあれば、値引き等をしたあとの対価を引渡し時の価額として収益を計上しますが、それ以外にも、通達で細かく定められています。

 

対策

 調査を受ける法人は事前にどう対策をすればよいでしょうか?

 調査におけるチェック項目の裏返しですが、 帳簿類をきちんと備えておき、帳簿類などをもとに、発注から納品、代金決済までの流れを示し、その流れに即して実際の売上が計上されているかを説明できるようにしておくことです。

 また、売上計上に期ズレが生じていないか、常日頃から注意して見ておくのも良いでしょう。つまり翌期首付近の納品書等を確認しておくことで、納品日より前に前期の売上として計上すべきものを発見できます。

 

事例(棚卸調査)

 さて、ここからはより具体的な調査対象にフォーカスして、どういう調査がされるのかを検討していきたいと思います。

 取締役会などで経費削減、棚卸削減を指示されたとき、手っ取り早く過小な棚卸を報告することが行われてないでしょうか?(注:棚卸金額が少なくなると、売上原価が高く算出されますので、利益が少なくなることになり、所得金額を圧縮できます。)

 これは危険な行為です。にもかかわらず、経理部等に対して期末の棚卸報告する際に、数量を過少報告する行為は散見されます。

 

棚卸調査の進め方

 調査官は常に疑いの目で見ておりますので、期末棚卸に際して数量、その評価、評価損や廃棄損の計上の正確性や、廃棄されるべきものがきちんと廃棄されているかなどを常日頃からチェックする、チェックできる体制を作っておくことが大切です。

 棚卸調査にあたっては、棚卸の際の原始記録を確認するとともに、期末棚卸の実施方法、状況を聞いてきます。期末前後は特に要注意です。仕入の状況や単価もチェック項目です。

 税務当局は、法人の経理部だけではなく、必要と判断すれば、工場、支店等に臨場し現地確認するほか、従業員の方への聴き取り、棚卸の原票を確認するなどの調査を行います。

対策

 期末棚卸の際の原始記録は必ず保管する必要があります。原始記録から、決算書の期末棚卸高をどのように計算、集計したかというプロセスを説明できるようにすると良いでしょう。倉庫業者に預けている場合は、それもチェックしなければなりません。

 また、棚卸商品の単価の算定根拠、評価減の理由などを明らかにできるようにしておくとよいでしょう。

 

事例(機械類)

 大型プラント・機械などを導入する場合、減価償却、特別償却等の税の特典を受けられる場合があります。その場合には、税の特典に条件がありますので、機械の稼働状況など、その条件を満たしているか確認することが必要です。

 また、機械でいえば、修理・修繕の内容が改造になるような場合には、修理等にかかった費用を経費として認められず、資本的支出として減価償却を行う必要があるとされる場合もあります(参考:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm)。

 これらに通達等から外れた処理があれば、税務調査で指摘されることになります。

 

不正発見!

 さて、このようにして税務調査が行われ、不正が発見されることがあります。

 代表的なのは、

 ・売上金の着服(簿外取引、不自然な値引き・返品の処理)

 ・経費の水増し(架空経費計上、架空仕入、仕入の繰上げ計上)

です。

 例えば、交際費捻出のため、下請先と通謀して、架空の請求書、納品書を発行させ、いったん支払ったのち、一部を手数料として下請先に支払って、残りを現金で還流させる方法があります。また、架空ではなくても、実際の経費部分に水増しして請求をさせ、後日、現金で還流させる方法も同じです。

 調査担当者は、証憑類や請求書の不自然さ(手書き、番号の飛び、不自然に丸い数字など)や、不自然な現金払取引、単発の取引及び遠隔地との取引、期末に急に現れたりする取引などを、関心をもってみています。

  仮に、証拠書類の修正や改ざんなどを行った場合、たとえ修正・改ざんの当事者に悪意がなくても、隠ぺいや仮装とされることがあります。調査の際の資料提出にあたっては、安易に操作することなく提示、提出するべきでしょう。

 また、簿外取引・架空計上等は、役員や使用人の会社に対する業務上横領背任とみられることも少なくありません。「税務署のおかげで、社内不正が見つかった。それはそれでよかったかな・・・」と思うのもつかの間、会社を大変な事態が襲うことになるのです(業務上横領の大変な点については、次回に触れたいと思います)。

 

 今回は、やや掘り下げて税務調査について解説しました。税務調査でお悩みのかたは、当事務所の元国税審判官の弁護士・税理士までご相談ください。調査対応力に秀でた国税OB税理士とも連携し対応します。

(執筆:弁護士・税理士・元国税審判官 永井 秀人)