弁護士の永井です。
去る9月29日に福岡で、10月2日に大阪で、「対消費者庁・都道府県の訴訟経験から学ぶ 景品表示法解釈と当局調査対応のポイント」と題し、 以前在籍した事務所同僚の平山賢太郎弁護士(平山法律事務所)とともに景表法セミナーを実施しました。
景表法のみならず広く行政法、 行政訴訟に携わる一弁護士としての雑感を含めて、若干のフィードバックをさせていただきたいと思います。
セミナー概観
セミナーでは、まず平山弁護士から非常に分かりやすく充実した制度解説があり、 それを踏まえて、私の方から、措置命令事案の分析と解説、 行政訴訟に至るまでの手続きの概説をしました。その後、 2人で順に特商法や薬機法とのダブルリスクを解説したのち、 これまで景表法に関する紛争に携わってきた経験を踏まえたディス カッションをさせていただきました。
かなり突っ込んだ実践的(実戦的)な内容となったのは、 平山弁護士ともども、日頃のディスカッションを通じて抱いている問題意識が大きかった からだと思います。
昨今の措置命令事案に対する問題意識
消費者庁発表によると、令和2年度の措置命令4件、課徴金納付命令4件、都道府県等による命令5件となっており(8月末現在)、ここ2、3年の年間40~50件のペースから比較すると、コロナ禍の影響から少なくなっているといえます。
多くの報道に見られるように、 近時の消費者庁の活動や活躍には目まぐるしいものがあります。これは消費者一般からの期待( 国民生活センターへの苦情増といえるかもしれません) を受けてのものだと思います。
しかし、公権力の行使である以上、濫用は認められず、 また手続も適正でなければなりません。行政法全般に通じる問題です。 消費者保護のためという題目だけでは、たとえ処分の対象が商業的な表現である広告表示であっても、 これを直ちに制約できるものではありません。 処分の必要があるか、処分をするに相当な事案なのか、 きちんと証拠があるかなどスクリーニングが必要です。
昨今の消費者庁の措置命令の件数増加や、その内容(特に訴訟で争われているもの)を見るにつけ、 果たしてこれらを踏まえてなされたものなのかという疑問も湧いてきます。調査もそこそこに、担当官の印象だけで処分されるおそれは本当に ないといえるのか、内部的にきちんとした審査手続きをし ているのか、理由をきちんと説明して処分しているか・・・。都道府県等に至っては、人員も限られているでしょうから、消費者庁にもまして気がかりです。
仮に消費者庁や都道府県等が、適正に調査審理をしたうえで処分に至ったものでなければ、事業者を過度に委縮させる効果しかもたず、商業活動に何年にもわたって支障が出るほか、消費者が欲しい情報が量・内容ともに損なわれ、新しい商品サービスが世に広く問われる機会すら失われてしまいます。
フィードバックと雑感
セミナーでは、このような問題意識を踏まえ、あるべき表示の姿にも言及しました。表示に関わるガイドラインは諸々ありますが、 これは守っていればセーフという「セーフハーバー」でしかありません 。 消費者庁が示したガイドラインをはみ出したとしても、直ちにアウト(法律違反)ではありません。
それを判断するのは裁判所です。裁判例の積み重ねによって、今後明らかになる部分も出てくるでしょうし、民間サイドでも、これまでの事案を分析的かつ批判的に検討し、あるべき姿を探る努力をする必要はあるのではないでしょうか。 企業側で行政訴訟に携わる弁護士としては、少しでも多く処分取消しの判断を貰うことで貢献していきたいと思っています。
今後も景表法については裁判例の分析や考えるところをアップデートしていきたいと思います。
(執筆:弁護士 永井秀人)