【役員報酬の税務】役員が役員報酬とは別に経営指導料等を貰う場合

はじめに

ある役員が、役員報酬とは別に会社から金員を貰いたいと思う場合や、ある会社が(儲けたために)定額で定まった役員報酬とは別に、役員に何らかの金員を支給して損金を計上したいと考える場合があります。

例えば、役員の一部が研究者も兼ねているなどして、会社から役員に対して、役員報酬とは別に、研究費や開発にかかるコンサルティング料を支給しようとする場合です。

認定賞与

役員の地位にある個人に対して、役員報酬や役員賞与以外の何らかの名目(経営指導料やコンサルティング料など)で報酬を出すことは技術的には考えられます。

しかし、役員の地位にある以上、会社の経営をしたり、職務上、事業部などに対して何らかの助言をしたりすることは当然です。
このため、通常、役員の地位にある個人が経営指導料やコンサルティング料などを受け取っていた場合、そのような金員は法人からの報酬そのものと考えられ、税務調査においては、税務当局から報酬や賞与と認定されることが多く見受けられます(いわゆる認定賞与)。

裁決にみる事例

国税不服審判所の裁決例を見ても、報酬や賞与と認定され、争った結果、棄却されている事例には事欠きません。

例えば、国税不服審判所昭和55年12月24日裁決(裁決事例集No.21・116頁)では、ゴルフ会員権の売買を事業とする法人において、役員に対して管理職給という名目で支払った金員について、審査請求人である法人は、役員個人に対し別途委任したゴルフ会員権の販売代理権の獲得等の業務の対価であると主張したものの、①まず、これらの業務を別途委任したことを証するに足りる証拠がないこと、②また、これらの業務に直接携わっていない管理職的地位にある使用人にも支給している事実があることから、これらの業務との対価性を欠く金員であると認められること、③仮に本件金員が業務の対価の名目で支払われたとしても、請求人の事業目的がゴルフ会員権の売買であることから、これらの業務そのものは、役員の業務執行の範囲に含まれ、これらの役員業務を含む役員業務一般に対する対価として支給されたとみられることから、本件金員は賞与と認定されています。

考え方

そうすると、役員の地位にある者が、役員報酬や役員賞与以外に何らかの名目で報酬を受け、損金算入が認められることはないのでしょうか。

結論としては、認められる可能性はあると考えます。例えば、弁護士や税理士資格を有する役員が、法人から役員報酬とは別に弁護士・税理士業務に係る報酬を受け取ることはありえますし、この場合賞与と認定されることはないように思われます。

問題は、認定賞与とされるか否かの限界点、閾値です。

私見では、その役員の経歴・経験及び属性、報酬を受けようとする事務内容(の横展開可能性)、法人の現在及び将来の事業内容、それら各内容の関連性ないし独立性などを基礎に、客観的視点から決せられるように思われます。つまり、外から見たとき、報酬を受けようとする事務内容が法人における役員の業務内容と見られるものか否かによって決せられるように思われるのです。

役員の地位にある者が、法人の現在進出している分野又は今後進出しようとする業務分野とは関連性の低い職域・分野に秀でており、その分野における知識や技能を基礎に、法人に対してサービスを提供するというような場合があれば、その者に対する報酬は、客観的にみて、単なる外部者から受けたサービスに対する報酬とみることができるでしょう。
もっとも、あまりにも法人と事業関連性が低いとして、経費性が否認されない程度のものである必要はあります。

発展

例えば、同族会社によくみられる認定賞与の問題もあります。

国税不服審判所平成4年11月18日裁決(裁決事例集No.44・234頁)では、審査請求人である同族会社が、代表取締役の長男(大学在学中)に対し、給料名義の金員を支給していたところ、税務当局から、代表取締役に対する役員報酬、役員賞与と認定された事案で、①請求人は長男に対して従業員としての管理等をしておらず、長男が請求人に勤務した事実も認められないこと、②請求人は代表取締役がその株式の過半数を所有する同族会社であり、代表取締役がその事業を主宰していること、③また、長男に対する給料名義の金員は、代表取締役の妻が受け取り、管理し、代表取締役の報酬等と併せて代表取締役の生活費等に充てられていたことなどから、本件金員は、代表取締役に対して支給された役員報酬、賞与であると認定しています。

同族会社では、より上記の認定賞与の閾値が問題となり、上記事例のように、受給者の経歴、経験、属性、業務内容等が証拠の有無とともに検討されることになると思われます。

まとめ

税務調査で指摘された場合は、多くの場合、立証や事実認定の問題となり、さらにはこれをどのように処理するといった問題が生じます。
このような報酬の支出を決定する場合には、あるいは税務調査で指摘された場合には、専門家に相談されることをお勧めします。

弁護士・税理士 永井 秀人