【景品表示法】アフィリエイト広告を用いた販売業者への処分

はじめに

 景品表示法(景表法)は、事業者が、自己の供給する商品又は役務の取引について、実際よりも著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)や著しく有利であると誤認される表示(有利誤認表示)をしてはならないと定めています(法5条)。

 このため、表示してはならないとされる処分の対象者は、「事業者」であり、広告会社は該当しないとされていますが、アフィリエイト広告、つまりアフィリエイターの出す広告について、ASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)はともかく、事業者が景表法上の処分を受けるかどうか議論となっていました。

 これについて、消費者庁は、令和3年3月3日、株式会社T.Sコーポレーションに対し、アフィリエイターを用いた育毛剤の広告について優良誤認表示があったとして措置命令をした旨公表しました(https://www.caa.go.jp/notice/entry/023295/)。

 

T.Sコーポレーションに対する件(令和3年3月3日)

 消費者庁の認定によれば、

”(同社は)アフィリエイトプログラム を実現するシステムをサービスとして提供する「アフィリエイトサービスプロバイ ダー」と称する事業者を通じて、本件商品に係る本件アフィリエイトサイトの表示内容を自ら決定している。”(下線強調は執筆者)

とのことであり、事業者が表示内容を決定していたという点で、アフィリエイターの表示行為が、事業者の表示行為と同一視される事情があったことが決め手となり、消費者庁も、比較的容易に優良誤認を認めたといえそうです。

 なお、アフィリエイター自身は対象となっていません。もちろん、ASPも対象外です。

分析

総論

 過去には、消費者庁は、アフィリエイターは商品・サービスを自ら供給する者ではないので、景表法上の問題が生じることはないとしていたことがありました。

 しかし、近時、アフィリエイト広告の問題については、その広告手法が盛んになるにつれ、調査検討が進められてきていました。

 そのような折に、これまで消費者庁によるストレートな判断や処分が少ないところに発令された本件の措置命令は、今後の消費者庁の対応方針を見るうえで、一つの大きなヒントになると思われます。

 過去には、自社ウェブサイトの内容を踏まえた口コミ、ブログを作成させ、ウェブサイトへのハイパーリンクとともにアフィリエイトサイトに掲載させていたと認定して処分を行った事例があり、基本的に本件も同様の判断と思われますが、今回の件での記載ぶりは、「表示内容を自ら決定している」か否かがポイントである点を明確にしたように思われます。逆に、どのような点を捉えて、「表示内容を自ら決定している」としたのかは明らかではありません。

 なお、過去に埼玉県が発令した命令があります。

参考となる裁判例

 裁判所は、不当表示をした「事業者」について、何度か判断したことがあります。例えば、

”メーカー、卸売業者、小売事業者等いかなる生産・流通段階にある事業者かを問わず、一般消費者に伝達された表示内容を主体的に決定した事業者はもとより、当該表示内容を認識・認容し、自己の表示として使用することによって利益を得る事業者も、表示内容を間接的に決定した者として、これに含まれると解するのが相当である。” (ビームス事件:東京高裁平成19年10月12日判決)

としたり、また、「事業者」とは、表示内容の決定に関与した事業者としたうえで、

”「表示内容の決定に関与した事業者」とは、「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず、「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。そして、上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは、他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい、また、上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは、自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。”(ベイクルーズ事件:東京高裁平成20年5月23日判決)

としたものがありました。

今回の措置命令から分かること

 今回の措置命令の判断は、これらの高裁判決の規範内容に照らしても、問題なく、”アフィリエイターの表示=販売業者の表示”と言える実態があり、T.S社が不当表示をした「事業者」と言うことのできた事例だったと思われます。

 逆に言うと、このような実態があれば、消費者庁はアフィリエイト広告でも積極的に措置命令をするというメッセージであるように読めます。

 このため、本件と同じ処分が、例えば、アフィリエイト広告を使って販売する販売業者すべてに言えるわけでは到底ありません。また、今回、「表示内容を自ら決定している」として処分されたことの裏返しで、表示内容を自ら決定せず、アフィリエイターに決定させていれば大丈夫かというと、そこは判断されていないため、断言はできません。自ら決定していなくても、アフィリエイターによる著しく優良であると示す表示を、販売業者が知っていて積極的に放置した場合は、どうでしょうか。

 コンプライアンスを遵守しようとする販売業者は、実質的にも、アフィリエイターの表示イコール販売業者の表示とみられないように注意しておくべきなのでしょう。

 少なくとも、アフィリエイターの表示イコール販売業者の表示とみられるかどうかは、事実、実態に即して検討されるはずです。したがって、例えば、広告内容の指導、監督状況、アフィリエイターとの接触頻度や態様、報酬の決定方法などが検討されるものと思われます。

 具体的には、なかなか難しい点もありますが、アフィリエイターを監督しない、きちんとしたASPを通すなどして、広告内容に積極的に関与したといわれないようにする。あまりに著しい内容にならないように、契約上、釘を刺しておく、責任分配をしておく。可能なら、報酬も完全成果報酬のようにせずに固定や緩やかにしておく、などの事前に対策できるところもあるのではないでしょうか。

発展(インフルエンサーを用いた企業案件) 

 商品やサービスをユーチューバーやインスタグラマーなど、インフルエンサーを用いて宣伝しようとするいわゆる企業案件についても、基本的には、以上の内容と同じことがいえます。

 企業がインフルエンサーと直接契約する場合も少なくありませんし、商品提供もなされますから、よりインフルエンサーの表示イコール販売業者の表示とみられる可能性を含む行為が行われそうです。

 これらの点については、まだ処分基準が明確ではない新しい広告分野です。だからといって、コンプライアンス上問題とならないわけではありません。以上で述べたアフィリエイト広告と同じ問題が生じうることを認識のうえで、取り組む必要があると思われます。

執筆: 弁護士 永井 秀人

(一部加筆修正を行いました)