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【労働法】有期労働契約~雇止めと無期転換~

はじめに

 今日、企業において、いわゆる正社員(期限の定めのない労働契約を締結している労働者)ではなく、有期労働契約を締結している労働者が数多く存在していることは皆様もご存じだと思います。

 さて、このような有期労働契約を締結している労働者について、労働法がどのような保護を図っているか、皆様はご存じでしょうか。

 以下では、主に、有期労働契約をしている企業に向けて、一般的な留意点を解説したいと思います。

 

「雇止め」とは

 まずは、いわゆる「雇止め」です

 雇止めは以下のように定義されています。

 雇止め:期間を定めた労働契約の期間満了に際し、使用者が契約の更新を拒絶すること

  良く知られているように、有期労働契約期間が5年を超えると、無期転換権(期間の労働契約に転換することができる権利)が発生し、これにより、当該労働者は、期間定めのない労働契約を会社に対して申し込むことができます。

 この有期労働契約期間の5年目に際して、雇止めの問題が生じるのです。

 すなわち、無期転換権を定めたのは、有期労働者の雇用の安定を図るためであり、発生要件である労働期間が「5年」の直前でなされた雇止めは、脱法行為である疑いがあるとして、雇止めをしなければならない必要性が相当に強固な場合を除き、雇止めが無効とされる場合が相対的に高くなります。

 企業としては、労働契約法18条、19条により雇い止め法理が制定法化され、労働者の保護がより強化されたことに留意する必要があります。

 では、2年間や3年間勤務した場合の労働者に雇止めをすることについては、問題ないのでしょうか。

 結論としては、2、3年後の雇止めでも、必ずしも労働契約法19条に抵触しないわけではありません。過去の判例でも、5年に満たない場合であっても雇止めを無効とした事例が存在します。5年を経過するギリギリに雇止めを行うことはもちろん、2、3年であっても、労働契約法の趣旨を潜脱するものとして、労働契約法19条1号、2号の該当性を検討され、場合によっては、雇止めを無効と判断される場合があるのです。

 

雇止めが無効とされる場合

 具体的に、どのような場合に雇止めが無効とされるのでしょうか。

 まず、労働契約法19条を見てみましょう。

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(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

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 通達(平成24年8月10日付基発0810第2号。リンク)によれば、労働契約法19条1号、2号に該当する場合には、雇止めが無効であることを示しつつ、これまでの裁判例と同じような判断枠組みを用いて検討するとしています。

 通達は、以下のような判断要素を例示列挙し、これらを総合考慮して、個々の事案ごとに判断するとしています。

  1. 当該雇用の臨時性・常用性
  2. 更新の回数
  3. 雇用の通算期間
  4. 契約期間管理の状況
  5. 雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無

 そして、通達は、労働契約法19条2号の「満了時に」とは、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものである、としています。

 つまり、通達は、一度労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、有期労働契約の契約期間の満了前に、使用者が、更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに労働契約法19条2号に該当しなくなることにはならないと解しているのであり、通達は、2、3年後の雇止めでも労働契約法19条に抵触する可能性を否定していません。

 また、労働者との合意(申込みと承諾)ではなく、使用者が一方的に契約の不更新を通告することは避けた方が良いでしょう。このような場合、多くの裁判例によれば、労働者の合理的な期待を失わせることは相当でないとして、雇止めが無効であると判断されています。

 

労働契約法18条からの視点

 また、労働契約法18条2項も要注意です。

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(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

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 18条2項は、要するに、契約期間中、働いていない空白期間が6か月以上ある場合は、当該5年間に算入されない、というものです。
 ですので、休職期間などで勤務していない期間がある場合には、空白期間のチェックが必要です。空白期間が相当期間ある場合、労働した期間は2、3年と短いのに雇止めの問題が生じ得ることになります。

 

無期転換ルールに関する注意点

 労働契約法18条により、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約.(無期労働契約)に転換できるルール、すなわち無期転換ルールが法定化されています。

 企業としては、この無期転換申込権を事前に労働者に放棄させたい、と考えることはママあるのですが、このように事前に放棄させることは、公序良俗に反し無効であると解されています。

 また、労働者による無期転換請求権の行使を受け入れる場合にも注意をするべき点があります。

 無期転換を受け入れる場合、当該有期期間満了前の翌日から無期労働契約が成立します。したがって、それ以降、労働者を解雇する場合には、期間の定めのない労働者(端的には、正社員)と同様、労働契約法16条(解雇に関する定め)の適用があります。

 他方、無期転換後の労働条件は、「現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件」であり、労働条件が同一であることを前提としています。正社員と同一の労働条件となるものではありません。
 また、無期転換後の労働条件については、個別の合意、就業規則、労働協約など別途定めておき、正社員と違いを設けておくことは可能です。
 もっとも、無期転換労働者について、新たな就業規則が作成され、その条件が従前の労働条件を不利に変更するものであるときには、労働契約法9条・10条の不利益変更禁止の規定が(類推)適用され、変更に至った経緯や、内容の相当性、労働者が被る不利益の程度などの事情を総合考慮して、その内容が「合理的」であると認められなければ、その部分の就業規則は無効となります。

 

小括

 雇止めについてまとめると・・・

  • 5年ギリギリで雇止めをすることは無期転換の制度を潜脱するものとして無効となる可能性が相当程度高い。
  • 空白期間(休職などで労働していない状態等)が6か月以上ある場合、その期間は無期転換の5年間に通算しない。
  • (そのこともあって)2年間や3年間労働した場合でも、場合によっては労働契約法19条によって、雇止めが無効とされる場合もある。
  • いわゆる不更新条項(次回からは契約を更新しない旨の合意)については、労働者の真に自由な意思によりなされた場合には、有効なものとなるが、そうは評価されない場合、雇止めは無効となる。
  • 無期転換を受け容れた場合、労働条件の変更には注意を要する。

 ということになろうかと思います。

 多少複雑なように見えますが、紛争になるケースも数多くみられるところですので、企業運営上欠かせないルールであると言えます。

 次回は、労働組合対応についての一般論を解説したいと思います。

執筆: 弁護士 森村 直貴

 

【国際税務】タックスヘイブン対策税制について

はじめに

 しばしば、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)による課税がなされたという報道に接することがあります。直近でいうと、次のようなニュースです。

サンリオは2日、東京国税局から2021年3月期までの5年間について、約13億円の追徴課税処分を受けたと発表した。香港と台湾にある子会社の所得約42億円を親会社と合わせて申告すべきだと判断された。日本で支払う税金を不当に減らすのを防ぐ「タックスヘイブン対策税制」が適用されたという。”(朝日新聞デジタル

 タックスヘイブン対策税制は、このような大きな会社だけの問題ではありません。中小企業や個人事業者であっても、商取引の国際化により、気軽に海外に法人を作って、海外取引をしたり、国内の法人株式等の資産管理をさせたり、資産運用や投資をしたり、場合によっては、本業の日本の会社の収益を”逃したり”しようとすることもあります。その場合に気を付けなければならないのが、この税制です。

 タックスヘイブン対策税制とは、租税負担の軽い国や地域に所在する外国子会社等を通じて得た所得を、日本国内の法人の所得とみなす、あるいは日本居住者の所得とみなすことにより、軽課税国で課税されなかった(課税を逃れた)所得についても日本での所得と合算して課税しようとするものです。

 なお、「Tax Haven」は、歌にもなっているので、聞いたことがある人もいるかもしれません・・・(Amazonで見てみてください。聞いたことのある人は、タックスヘイブン対策税制をよく知っている人だと思いますが・・・)。

 

タックスヘイブン対策税制の諸々の要件論

 タックスヘイブン対策税制に関する条文、例えば租税特別措置法66条の6は、非常に難解な条文で、その定義に当てはまるか否か、要件一つ一つをチェックする必要があります。しかも、タックスヘイブン対策税制は、平成29年税制改正により大幅に改正がされました。その後も改正が続いています。

 また、仮に当該税制に該当するとされたとしても、その合算される所得の計算も外国の会計処理との照合等で苦労することが多く、また確定申告と同時に提出しなければならない書面があるなど、複雑になっています。

 さらにいえば、個人(株主)が外国関係会社を保有している場合、雑所得課税となりますが、この雑所得課税については、外国関係会社からの配当があった場合配当所得課税の調整規定があり、それにも書面提出要件があるなど、税理士にとっては、ひと手間ふた手間かかる構造になっています。

 税制の適用に当たって、主に問題となる要件は、次のとおりです。

1 外国関係会社

 以下の要件のいずれかを充足する外国法人を「外国関係会社」といい、その所得が検討されることになります。
① 居住者および内国法人が直接または間接にその株式の50%超を保有している外国法人(複数の会社を挟んで間接になっている場合は、掛け算方式ではなく、50%超が連鎖しているかで検討)
② 居住者または内国法人との間に実質支配関係がある外国法人

2 経済活動基準

 外国関係会社のうち、下記①~④の要件をすべて満たす場合においては、租税負担割合が20%未満のときは、受動的所得(利子、配当〔25%以上の出資先からのものなどを除く〕、リース料、知財に関するロイヤルティ、為替差損益等)のみが合算の対象になり、下記①~④の要件のいずれかを満たさない場合においては、租税負担割合が20%未満のときは、その外国関係会社の所得が合算の対象となります。なお、外国関係会社の租税負担割合の計算も詳細ありますが、簡便に、外国関係会社の所在地国の税率と捉えておけばよいでしょう。

① 事業基準:主な事業が株式の保有、知財の提供、船舶リース等でないこと(但し、地域統括会社など一定の例外有。次項の判例参照)
② 実体基準:本店所在地国に主たる事業に必要な事業所等を有すること
③ 管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること
④ 所在地国基準または非関連者基準:主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機リース業以外の場合、主たる事業を主として本店所在地国で行っていること。主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機リース業の場合、非関連者との取引割合が50%超であること

3 特定外国子会社

 外国関係会社の租税負担割合が20%以上の場合は合算課税が生じないのが原則です。しかし、外国関係会社の租税負担割合が30%未満であっても、次のAからCに該当する特定外国子会社に該当する場合には、外国関係会社の所得が合算の対象となります。なお、ペーパーカンパニーでないことを証明するため、実体基準および管理支配基準など、基準を満たす書類(国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A」参照)を準備する必要があります。

A ペーパーカンパニー: 実体基準(上記②)と管理支配基準(上記③)のいずれも該当しない外国関係会社や、一定の要件を満たす持株会社、不動産保有会社または資源開発プロジェクト会社などに該当しない外国関係会社

B 事実上のキャッシュボックス: 一定の受動的所得(事業会社の場合、保険所得及び異常所得以外の所得)に該当する所得の合計額÷総資産の額 > 30%であり、かつ、(有価証券+貸付金+無形固定資産等)÷総資産の額 > 50%の外国関係会社

C ブラックリスト国所在法人: 租税に関する情報の交換に非協力的な国または地域として財務大臣が指定する国または地域に本店等を有する外国関係会社(今のところしていはない)。

 

合算課税適用の判定チャート

 このような要件該当性を踏まえて、合算課税がされるかどうか判定するチャートが諸々出されています(前掲・国税庁Q&A参照)。ここでは、マインドマップを用いて、チャート化してみました(リンク:https://mm.tt/2373549954)。

 

要件該当性が争われた代表例

 上記諸要件のうち、事業基準(主な事業が株式の保有、知財の提供、船舶リース等でないこと)が争われた事例の嚆矢として挙げられるのが、最高裁平成29年10月24日判決(デンソー事件)です。

 この事件は、納税者のシンガポールにおける外国関係会社の主な事業が「株式の保有」業であって事業基準を満たさないとして、納税者が、外国関係会社の所得を合算課税する処分を受けたことから、納税者がこれを不服として争ったものです。最高裁は、主たる事業の判断要素を諸々掲げたうえで、外国関係会社の地域統括業務が、相当の規模と実体を有していたことや、受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても、事業活動として大きな比重を占めていたことから、これを主たる事業と認めました。そのうえで、条文の趣旨や改正の趣旨から、このような地域統括業務を主たる事業とする場合も、なお事業基準を充足すると判断しました。

 理屈はさておき、このような判断は、最高裁ではないと出せないものであり、内容も妥当だと思います。これに対して、(判断内容を最高裁にひっくり返されることになった)原審高裁は、事業基準の例外要件である地域統括業務を行う事業持株会社以外の地域統括会社の行う地域統括業務は、株式の保有業務の中に含まれるとしていたのですが、ビジネスはそんなものでしょうか。ビジネス的な見地からは、やはり不自然に思います。納税者が最高裁に諮ったことは至極当然だったと思います(この点に、高裁の限界を感じます。人や場所にもよりますが、高裁は、法文と下級審で出された資料しか見ないうえ、税務に不案内な裁判官が保守的に対応する傾向にあると思っています)。

 

まとめ

 タックスヘイブン対策税制による所得税・法人税課税は、意外に多く存在します。税務調査での指摘や課税処分もまた多いところです。

 ところが、要件論は非常に複雑で、解釈を要する場面も少なくありません。当然、要件の解釈をめぐって、当局と対立することもあります。当局も、特段、普段から指導したり、調査に当たっても要件をサポートする資料を、敢えて要求したりしないため、税務調査において要件不充足として課税を言われて戸惑うことがあります。また関与税理士次第では、調査で指摘されるまで、税制の適用や存在すら感じていない場合もあります。

 このように、タックスヘイブン対策税制をはじめ国際税務の諸論点は、非常に緻密な議論になることも少なくありませんので、タックスヘイブン対策税制や国際税務に詳しい税理士や弁護士に、税務調査段階から(少しでも不安があれば申告段階から)依頼するのが望ましいでしょう。

(執筆者: 弁護士・税理士 永井秀人)

近年急増するペット問題 どのように対応する?


 近年、動物愛護法の改正があり、同法に違反した者をより厳しく罰する方向(厳罰化)の改正がなされています。今回は、物心ついた時から犬猫と共に暮らしてきた一人の愛犬・愛猫家として、ペット問題、次号でペット訴訟について考察していきたいと思います。

執筆者: 弁護士 森村直貴

いわゆる里親詐欺

 まず、ペット問題といっても、動物虐待から医療過誤まで多岐に亘ります。

 例えば、しばしば問題となるのが、いわゆる里親詐欺です。これは、どういうものかというと、犬や猫を里子に出す際、いわゆるお試し期間であるトライアル期間を設けることがあります。この期間中に里子候補である犬猫がその家にきちんと適応できるかを判断します。もしもその家にうまくなじめない、問題行動を起こす場合には犬猫は返却されることになります。

 しかし、このような事態にあるにもかかわらず、譲渡元に何ら連絡を行わず、そのまま犬猫を返却しないという事態に陥ります。これがいわゆる里親詐欺です。

 トライアル期間中は犬猫の所有権が保護主に留保されているケースがほとんどですので、このような場合にはトライアル先は犬猫の返還に応じなければなりません。

 このようなときにはどのように対応すべきでしょうか。

 解決策としては、様々な方法がありますが、上記のケースのような場合保護主が単に「返せ」と言っても素直に要求には応じないでしょう(だからこそ素直に返還に応じないわけですから・・・)

 例えば、弁護士に相談したうえで、内容証明郵便などにより、返還を要求することも考えられます。相手方としては、弁護士の名前で書面が出されることにより要求に応じる可能性は比較的高くなると思われます。また、相手方本人と直接交渉するという手段も考えられるでしょう。もっとも、これらの策が功を奏しなかった場合には次の手段としてどのようなものがあるのか、そのメリットとデメリットを次回で解説したいと思います。

 

医療過誤案件

 次に問題となりえるのは、医療過誤案件です。

 動物病院で不適切な処置が行われた、あるいは病気の見落としなどにより、残念ながらペットが亡くなってしまうケースです。人間と同様にペットについても医療過誤案件はあります。また、医療過誤そのものではありませんが、トリミングの際にハサミなどでペットを傷つけてしまい死に至らしめてしまった例も見受けられます。

 これらのケースでは、病院側、ペットサロン側の対応がどのようなものであったのか、しっかりヒアリングをして、本来あるべき(処置すべき)状態と実際の処置が妥当でなかったことを把握することが肝要であると思われます。

 

 次回は、ペット問題について実際に裁判所を利用した調停や訴訟について解説したいと思います。

【Business Management Visa】経営管理ビザと法令遵守

経営管理ビザとコンプライアンス

経営・管理ビザで在留する外国人は、事業の運営を適正に行うことが求められています。

例えば、租税法との関係では、租税関係法令を遵守し、また、所得税、法人税、消費税や地方税を適切に納付している必要があります(「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」出入国在留管理庁)。

法令が遵守されていない場合には、ビザの更新が拒絶されることがあります。経営管理ビザは通常1年更新ですが、2期以上連続黒字決算など安定経営をしている場合は、3年や5年もありますが、法令遵守違反があった場合、それらの地位も、日本で築き上げた生活基盤も台無しになるリスクがあります。

 

税務コンプライアンス

税務の面で更新の際に問題となるのは、脱税をしていたような刑事事件の場合は当然ですが、次のような場合には、注意が必要です。

  • 消費税の不正還付行為をしていた場合
  • 重加算税の賦課決定を受けた場合
  • 徴収逃れや長期滞納をしている場合

これらは、ビザの更新において、大きな問題になることが多いので、注意が必要です。経営管理ビザの経営者は、税務調査に気楽に応じたり、納税資金が足りず言葉の問題があるからと督促に応じなかったりしていると、ビザの更新の際に思わぬ処分を受けることがありますので、注意が必要です。

 

労務コンプライアンス

労働関係法令の遵守も注意が必要です。端的に言えば、社会保険に加入して、適切に保険料を納付していることが求められます。

経営管理ビザの経営者は、時として、労務コンプライアンスをそこまで重要に考えず、気軽に知人などを雇っていたりすることもありますが、ビザの更新の際に思わぬ処分を受けることがありますので、注意が必要です。

 

 

まとめ

一度、更新不許可となるとこれを覆すのはとても困難です。したがって、コンプライアンスに十分配慮した経営をするとともに、税務調査や労働基準監督署からの問い合わせに対しては、専門家に相談の上、専門家とともに対応するなどして、大きな問題とならないようリスクをコントロールする必要があります。

リーズ法律事務所では、外国人の顧客に対しても、税務問題、労務問題について積極的にアドバイスしています。

執筆: 弁護士・税理士 永井秀人

 

Business Management Visa and Tax/Labor Compliance

Foreign nationals residing in Japan on a business management visa (a.k.a business manager visa or executive visa) are required to operate their businesses properly.  For example, in relation to tax laws, they must comply with tax-related laws and regulations, and must also properly pay income tax, corporate tax, consumption tax and local taxes (外国人経営者の在留資格基準の明確化についてin Japanese) . Otherwise, the visa renewal may be denied.

Problems will always arise if the manager or the company he or she manages has committed tax fraud or has engaged in fraudulent consumption tax refunds. Even if it is not that serious, there are cases where the company or manager has received a decision to impose additional penalty taxes, evaded collection, or been in delinquency for a long period of time.

In addition to tax-related matters, the company or manager is required to comply with labor-related laws and regulations, typically by providing social insurance for their employees and paying the appropriate insurance fees.

Managers with a business/management visa sometimes casually respond to tax audits and receive penalty taxes or casually hire acquaintances without paying social insurances or legally required wages, but they may receive unexpected sanctions when renewing their visas.

Once a non-renewal is denied, it is difficult to reverse the decision. Therefore, it is necessary to control the risks to avoid major problems by paying sufficient attention to compliance in management, as well as by consulting with  specialists to respond to tax  investigations and inquiries from the Labor Standards Inspection Office.

【民法改正】「所有者不明土地」問題解消と不動産の有効活用

はじめに

 不動産の取引や相続手続をしている際に、何十年も前に亡くなった人の登記となっていて、誰が相続しているのか分からない不動産と出会うことがあります。これにより土地が有効活用されず、近隣の開発が遅れ、不経済な状況が続いていることがあります。また、隣接地の建物や構築物が、何年も放置され、今にも崩れてきて被害が及んできそうなのに、誰が所有者か判明しないこともあります。

 これらの問題について、近時、民法が改正され、土地建物の有効活用や、近隣問題の解決に大きな前進が見られました。

 

現行民法

 現行民法では、隣接地に倒壊寸前の所有者不明の建物がある場合、自己の土地の所有権に基づき妨害予防を裁判上請求することになります。
 しかし、裁判は、とても手続的に“面倒”なものです。例えば、一番最初に訴状を送達しないといけませんが、そのためには相手方を明確にしなければならないのです。何度も相続が発生している場合には、だれを相手方にするのか・・・考えるだけでゾッとします。

 そこで、不在者財産管理制度や、相続については相続財産管理制度があります。
 いずれも、家庭裁判所が弁護士などのなかから管理人を選任し、この管理人に、財産の管理・保存を行わせる制度です(現行民法25条1項、952条1項)。

 しかし、これらの財産管理制度は、管理人が、財産全般を管理するため、管理人の報酬を含む予納金も50万円から100万円程度と高額になりがちで、個別の土地・建物だけ管理させたいときに、不便となっていました。

 

改正民法(来年4月1日~)

 そこで、改正民法では、隣接地の住民などの利害関係人が、管理人の選任を裁判所に請求して、特定の土地・建物に特化した管理早急かつ比較的安価に行わせる手続として、所有者不明土地・建物管理制度や、管理不全土地・建物管理制度を導入します。

 利害関係人としては比較的広く考えられており、相続が複層的に重なった結果、一部の共有者が不明となっているような場合の他の共有者や、その不動産を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者、対象不動産を時効取得したと主張する者等も含まれるとされています。

 例えば、不動産業者や宅建業者であっても、土地の権利の大半が集まったものの、共有者の一部が不明であるような場合や、古い分譲マンションの一部の所有者が不明で、取壊しの合意を取ろうとするような場合(ただし、要件次第では区分所有者の5分の4の賛成で決定はできます)、裁判所から、所在等不明共有者持分の譲渡の許可をもらい、所在不明者の持分の価格に相当する金額を供託することで、共有物件全体を第三者に売却できるようになります(改正民法262条の3)。また、共有物の管理についても、裁判所が一定期間の公告や通知を行った上で、所在不明者を除いた共有者の持分の過半数でおこなえるようになります(改正民法252条2項、改正非訟事件手続法85条2項、3項)。

 不動産業者、宅建業者、不動産管理会社にとっては、これまで扱いにくかった土地・建物を動かす、ビジネスチャンスが生まれるものと思います。

 とはいえ、裁判上の申立には、所有者の調査をしたが判明しないことや所有者の所在を知ることができなかったこと、及び管理の必要性について疎明する必要があり、大変な作業が発生することは変わりません。その過程で所在が判明する場合も少なくなく、所在が判明した場合には、結局、多数の相手と交渉が必要になります。

 

お知らせ

 今般、当事務所の弁護士・税理士 永井秀人が執筆に参加しました月刊「税理」(2022年4月臨時増刊号) 「所有者不明土地解消の法務と税務」がぎょうせいより刊行されました。今般改正のあった所有者不明土地に関する最新かつ有益な情報が網羅されておりますので、是非、お手に取っていただけますと幸いです。

 リンク:ぎょうせいHP

 

所有者不明土地に限らず、不動産の諸問題全般についてもリーズ法律事務所にご相談ください

【スポーツ法】スポーツ問題に対してどのように向き合うべきか

 今回は、小学生のころから野球に親しんできた身として、しばしばニュースや新聞で取り上げられる、スポーツ問題、とりわけ部活動などにおける問題について考えてみようと思います。

 執筆者 弁護士 森村直貴

1 部活動、クラブチームの活動の体罰、いじめ問題

 まず、スポーツの世界においては上下関係が根付いている場合がほとんどです。もちろん、それ自体は悪いことではありません。指導者や先輩、後輩の関係を通じて、礼儀作法や話し方など社会人になってからも役に立つ事柄は非常に多いからです。

  しかし、このような上下関係が時として行き過ぎた行動に変化することがあります。それが、今回取り上げたい体罰、いじめ問題です。

  例えば指導者が選手を指導する時に、単なる指導にとどまらず、暴力を用いた指導という名の体罰が行われることがあります。これはマスメディアでしばしば取り上げられているところです。例えば柔道部の指導者が、選手に執拗に柔道技をかけ、選手がケガをしたり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になって転校してしまう、といったケースも過去には存在しています。

 また、先輩から後輩に対する暴力が行われている場合もあります。

 もっとも、このようなケースはあまり表沙汰にならない場合が多いです。これは指導者がそもそも事情を知らない場合と、仮に知ったとしてもそれを外部に公表せず、学校の中で(無理やりの場合もありますが)解決しようとしている場合とが想定されます。

 

指導者や先輩からの暴力は法的にどう分析できるのか

 さて、上記で取り上げたケースですが、法的にはどのように分析できるでしょうか。

 まず一番最初に思いつくのは暴行罪、傷害罪といった犯罪に該当し得る、ということでしょう。学校内、部活中に起こったから犯罪にはならない、ということはありません。

 また、体罰やいじめなどにより身体的、精神的にダメージを負ってしまった場合には、民事上、加害者に対して治療費の請求や慰謝料の請求も行える場合があります。

 

すぐに警察や弁護士などに相談すべきか?

 大事な子供を傷つけられ、お怒りになるご両親も多いかと思います。実際に、警察に被害届を提出したり、弁護士を通して学校や加害者との話し合いをする場合もあるかと思います。

 もっとも、このような場合には少し留意すべき点があると考えています。

 それは、一旦このようなアクションを起こすと、生徒自身が部活動や学校生活を送りにくくなる可能性があるということです。生徒は転校しない限りは卒業まで同じ学校にいます。そして、このような場合、被害者である生徒さん自身は、周囲が思っているよりも学校生活を送りにくくなる場合が想定されます。例えば、警察に被害届を出したことによりそれがマスメディアに報道され(実名は伏せられますが学校の生徒は誰が被害届を出したのか、瞬く間に情報が拡散されます)、結果として友達付き合いといった従前の学校生活が送りにくくなるのです。

 今日の学校生活は、授業や部活が終わり、帰宅してもラインやSNSなどで容易に友人などとコミュニケーションが取れます。それは裏を返せば、家にいても学校での人間関係から離れることは容易ではないということです。いったん問題が解決したと思っても、ラインなどで恨み節を書かれるケースも想定できます。

 このような事態が起こった際には、問題の解決はもちろんですが、生徒さんが今後、学校生活を過ごしやすいものとする観点からも、慎重に考える必要があるでしょう。その際には、弁護士などの専門家を入れたうえで問題を解決する方がより納得のいく解決策を提示できると思います。

 

2 部活動中の事故について

 近年の気温の上昇により、夏場は気温が非常に高くなってきています。それに伴い、部活動中の熱中症などといった部活動中の事故も頻繁に報道されるようになっています。部活動自体は、生徒がある程度自主性をもって行われるものですが、基本的には顧問等の指導・監督によって行われる場合がほとんどです。

 そうすると、部活動の顧問は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、事故の発生を未然に防ぎ、部活動中の生徒を保護すべき注意義務を負っていると解されています(最高裁平成18年3月13日判決・集民219号703頁)。

 このような注意義務に違反すれば、不法行為(民法709条)や、顧問の使用者である学校にも責任を追及することができます(民法715条)。なお、公立学校の場合には、教師や顧問は公務員にあたりますので、この場合には民法ではなく、国家賠償法1条に基づき損害賠償責任を追及することになるでしょう。

 また、近年では、熱中症の予防対策について、熱中症の病型や救急措置などを解説している「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」が公益財団法人日本体育協会により公表されています(リンク)。このなかの熱中症予防運動指針において、WBGT(暑さ指数)という指数が部活動を行う際の環境が適切であるかを示す指標となっています。WBGTは、気温、湿度、周辺の環境なども考慮して、部活動を行う環境かどうかを測定する数値であり、熱中症予防には非常に有効であるといえます。

 また、裁判例でも、生徒が熱中症になった当時のWBGTはどうであったのか、といった観点から判決を下しているものも見受けられ(大阪地判平成29年6月23日判決、大阪高判平成28年12月22日判決)、WBGTの計測装置は今や部活動を行う上で必要不可欠な物となりつつあります。

(続く)

次回は、スポーツ分野の中でも少し視点を変えて、エンターテインメントとしての側面から、スポーツがどのような位置づけにあるのかを解説してみたいと思います。

【相続税・財産評価通達6項】最高裁令和4年4月19日判決

財産評価通達6項に基づく鑑定評価額により更正処分を行った一審、二審判決は妥当であるとした最高裁令和4年4月19日判決について

はじめに

 この度、リーズ法律事務所に入所しました、弁護士の森村直貴と申します。このブログなどを通じて皆様に少しでも有益な情報をお伝えできればと思います。

 さて、タイトルの最高裁判決は、新聞やニュースを賑わせた判決として有名です。今回は、この最高裁の判示内容について、いくつかのポイントに分けてご紹介していきたいと思います。

 

事案の概要

 本件は、被相続人から相続人が相続した各不動産(甲不動産、乙不動産)について、評価通達の定める方法に従い相続税の申告をしたところ(路線価に基づく評価額)、税務署長から「評価通達の定めにより評価することが著しく不適当」とされ、評価通達6項に基づく鑑定による評価額で評価すべきとして、更正処分を受けた事案です。

 本件の特殊性として、被相続人は、相続開始前に銀行などからの借入金で各不動産を購入している点です。この行動は、相続にかかる相続税の負担を少なくすることを期待して行ったものであるとされています。また、本件各不動産の通達評価額と鑑定評価額とが著しくかい離していることも明らかとなっています。なお、相続人らの相続税の申告書では、基礎控除(相続税法15条)の結果、相続税の総額は0円となっていました。

 納税者は、本件における更正処分が、相続税法22条に違反していること、また、同処分が平等原則に違反していること、を主張していました。そこで、判決文を適宜引用しながら最高裁がどのような判示をしたのか見ていきたいと思います。

 

財産評価基本通達6項とは?

 まず本件更正処分にあたって、適用された財産評価基本通達(評価通達)6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されています。

 もっとも、この規定からは、どのような場合に「評価することが著しく不適当」であるかが判然としません。もっとも、最高裁は、以下に述べるように平等原則に触れつつ、通達の定めに従って評価することが著しく不当かどうかを判断しています。

 

平等原則違反か?

 平等原則は憲法14条に由来するものです。平等原則とは、多少平たく言えば同じようなものは同じように取り扱うことを意味します。
 最高裁は、この原則は租税法にも当てはまるとしつつ、課税庁が評価通達を基準として画一的に相続財産の評価の一般的な方法を定めているのであるから、特定の者をいわば狙い撃ちのような形で評価通達の方法により評価した価額を上回る価額によるものとするのは合理的な理由がないかぎり許されないと考えているようです。つまり、評価通達によって画一的に課税額を決定している以上、それと異なる取り扱いは原則として許されない、ということです。

 もっとも、例外的に、画一的な評価を行うことが実質的に見て租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由があるとして平等原則に反しない、とも判示しています。
 
 どのような事情が租税負担の公平に反する事情といえるかは事案ごとに異なると考えられ、個別具体的に判断されると考えてよいでしょう。

 

本件での個別事情

 本件ではなぜ評価通達6項に基づく鑑定評価額による更正処分がなされたのでしょうか。

 最高裁は、①本件各不動産の通達評価額と鑑定評価額とがかい離していることに加え、②被相続人の行為により相続税の負担が著しく軽減されたこと、③被相続人などが節税の意図を有していたこと、を理由に、このような事情がある以上、他の納税者と上告人らとの間に不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反するとして、評価通達6項の適用を認めています。つまり、本件では上記の合理的な理由があると最高裁は判断しているようです。
 評価通達6項の「著しく不適当な場合」については、本件では明確な基準は打ち出されなかったものの、大きなくくりでいえば、他の納税者との間に不均衡が生じる程度が大きい場合には「著しく不適当」な場合に当たりうるといえるでしょう。

 なお、本件では、本件更正処分が相続税法22条に反しないかどうかも争われていますので、参考までにご紹介します。

 

相続税法22条との関係

 また、納税者は、更正処分が相続税法22条に違反していると主張していました。
 相続税法22条は、「相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得時の時価による」としていますが、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されています。
 最高裁は、評価通達は、その時価の評価方法を定めたものではあるものの、通達の性質上国民に対して直接の法的効力を有しないとして、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値を上回らない限り、同条に違反するものではないとして、本件各更正処分に係る各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であるから、相続税法22条には違反しない、と判示しました。

 通達とは、上級行政機関から下級行政機関に対する命令と考えられていますので、直接国民に対するなんらかの法的効力を有さないと一般に解されています。上記最高裁判の判示は、このような通達の性質も勘案したうえで、【財産の取得時における客観的な交換価値 ≧ 課税価格に算入される財産の価額】であれば、同所に違反しないと考えているといえます。

執筆: 弁護士 森村 直貴

今後の実務に与える影響

 評価通達総則6項は、伝家の宝刀といわれてきました。国税当局としても、「国税庁長官の指示を受け」る必要が(内部手順的には)あるわけですから、容易に抜けない刀ではあり続けると思います。

 今回の判決は、総則6項が適用されるための客観的な要素を明確に打ち出すようなものではありませんでしたが、それでも、上記①~③の要素は打ち出して、これらの事情があれば実質的な租税負担の公平に反するため平等原則違反ではない、としたのです。今後は、①~③の基準の深化と評価が、実務上定められていくものと思います。

 とはいえ、租税負担の軽減の意図、一言でいうと節税の意図は、世間一般誰でも持ちうる感覚ですので、あまり重視され過ぎるのもよろしくないと思います。

執筆: 弁護士・税理士・元国税審判官 永井秀人

【景品表示法】違反した場合どうなるか?どうするか?(2)

取消訴訟等の実際

【命令前】措置命令の仮差止申立

 まず、措置命令とは、どのような措置を命じられるでしょうか?

 ・不当表示の取りやめ
 ・いわゆる社告・謝罪広告(日刊紙2紙以上に掲載+ウェブサイトのトップページに1か月掲載)
 などが挙げられます。大きいのは後者です。

 そして、措置命令が出ると、多くの場合報道されます。

 このため、事業者にとっては、このタイミングで措置命令を出されると困る! という場合があると思います。その場合、仮に命令を差し止めるよう申し立てるのです。

 この措置命令の仮の差止め(行政事件訴訟法37条の5第2項)は、「償うことのできない損害」を「避けるため緊急の必要」があることを要件としています。ですので、取引停止や風評被害などの損害が想定される場合には使える手段です。

 そして、「本案について理由があるとみえる」場合には、仮差止めが認められます。

 実際に行われる手続では、当局側は、行われようとしている措置命令が違法という申立人(事業者側)の説明に対し、「理由があるとみえる」旨主張していくことになりますから、当局は、これから行う措置命令が違法でないと裁判所に説明するため、様々な証拠(疎明資料)を提出することになります。

 したがって、これを申し立てる事業者は、うまくいけば措置命令を仮に差止めることができますし(そして多くの場合命令は打たれないことになり手続は終了します)、仮にうまくいかなくても、当局の手持ち証拠を開示させることができます。

 しかし、仮の差止めが認められたケースはそれほど多くありません(認容例の代表てきなものに、大阪高裁平成27年1月7日決定・タクシー運賃変更命令の仮の差止め申立についてした決定に対する抗告事件があります)。


【命令後】措置命令の執行停止申立

 ところで、措置命令は、命令が出されるとただちに効力を生じます。

 理論上は、命令取消を求めて訴訟を提起しても止まりません。

 したがって、措置命令を出されて不服に感じていたり、謝罪広告など出したくない、と主張する事業者は、特別の申立によって、裁判所の判決があるまで命令の効力をいったん停止しておく必要があります。

 これが、措置命令の執行停止の申立てです。

 申立が認められると、通常、第一審(地方裁判所)の判決が確定するまで効力が停止されることになります。

 執行停止の要件(行政事件訴訟法25条2項~4項)には、次のようなものがあります。
 ・「重大な損害」
 ・ 「避けるため緊急の必要」

 そして、これらに反論する当局が主張すべき要件として、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」があることがあります。

 その結果、「本案について理由がないとみえる」と判断される場合には、執行停止が認められます。この要件でわかるように、執行停止の申立においても、本案について、つまり措置命令が合法か否かが争点となりますので、後に述べる命令取消訴訟と同様の攻防となります。このため、 執行停止申立の審理は1年~2年とかなり長期化することがあります。


【命令後】措置命令の取消請求訴訟

 「本案」の訴訟が命令の取消請求訴訟です。処分の違法性が争われることになります。処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起しなければなりませんので、その間に、様々な証拠を集めて、訴訟を提起することになります。 

 様々な主張をすることが考えられますが、処分の違法性として、景品表示法の定める法令上の要件に該当しないことを主張する(とりわけ、ガイドラインには違反していない旨などを主張する)ことになります。また、ガイドライン自体が法から外れているとして、ガイドラインの違法性を主張することもできなくはないでしょう。
 また、手続の違法性として、調査手続きに違法性があったことを主張したり(例えば、調査時に暴言を受けたとか、弁明の機会の付与がなかったなど)、処分理由に不備があることを主張したりします。そのほか、行政法上の一般原則に基づく主張もあり得るでしょう。

 

まとめ

 よく使われるのは、執行停止の申立と取消請求訴訟の併用です。

 景品表示法上の措置命令で執行停止申立や取消訴訟に至った事例は、数件しかありません。しかし、今後の消費者行政の一層の拡充方向を考えると、さまざまな処分に対して、これまで以上に争う機会が増えてくるものと思われます。

 ところで、現在の当局の措置命令書に書かれた処分理由は、コンパクトに過ぎるように思われます。これは消費者庁などのマンパワー不足からくるものかもしれません。

 しかし、不利益処分をするとき、処分の理由は書面により示さなければならず(行政手続法14条条3項)、その趣旨は、①行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すること、②処分の理由を名あて人に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあります。現在の当局の措置命令書のようなコンパクトな処分理由では、不服の申立てにおいて不便という場面は多いでしょうし、コンパクトな処分理由からは果たして当局が慎重に調査したのか疑念を抱かざるを得ない場合もあるように思います。
 理由が不十分な場合、処分は違法、取消しになるため(最高裁平成23年6月7日判決・一級建築士免許取消処分等取消請求事件)、措置命令の理由なども、十分にウォッチしていかなければならないでしょう。

 このように、いずれの手続をとるにせよ、法的な論点について高度な議論をすることになります。景品表示法上の調査を受けた場合、手続に不安がある場合、命令に不服がある場合には、なるべく措置命令を打たれる前ーーできれば弁明の機会の付与のあたりから(つまり、上記紛争メニューを選択する前から)、専門家に相談する方がいいでしょう。

 ちなみに、以上の手続以外にも、命令後に、行政不服審査法に基づく審査請求も可能ではあります。しかし、消費者庁長官に対し審査請求することになるため、同じ結論になることが見えていると判断される場合が多く、審査請求が選択される場合は多くありません。

 

 ~ 景品表示法に関係する商品表示の問題にお悩みの事業者の方は、当事務所までお気軽にご相談ください~

   (執筆: 弁護士 永井 秀人)

【景品表示法】違反した場合どうなるか?どうするか?(1)

はじめに

昨今、インターネットなどで痩身効果などを強調する多くの宣伝広告を見ることがあります。また、新型コロナウイルス感染症に関する除菌グッズなど、日常お世話になっているような製品について、消費者庁が景品表示法(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」)違反として措置命令を行う報道に接します(これらのいくつかの事例については、また機会を改めて論じたいと思います)。

そこで、景品表示法に違反する行為を行った場合、どうなるのか、どうすればよいのか、について解説したいと思います。

 

措置命令

消費者庁は、消費者からの通報や国民生活センターからの情報提供などを通じて、景品表示法に違反する不当表示や、過大な景品類の提供を知ることになります。

景品表示法における不当表示(法5条)としては、商品やサービスについて、実際のものよりも著しく優良であることを示す優良誤認表示、商品やサービスの価格や取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であることを示す有利誤認表示などが挙げられます。

消費者庁は、これらの不当表示行為に関する関連資料を収集したり、事業者に事情聴取をしたりして、調査を行います。

調査の結果、違反と判断すると、消費者庁は、事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命じます。これを、措置命令といいます。なお、違反の程度が大きくない場合、違反のおそれにすぎない場合などには、行政指導がなされます。

 

課徴金納付命令

事業者が優良誤認表示や有利誤認表示といった不当表示をした場合、消費者庁は、事業者に対し、課徴金の納付を命じます(課徴金納付命令)。課徴金の額は、違反事業者の、対象となる表示行為をしていた期間の違反対象商品・サービスの売上額の3%とされていますが、売上が5000万円に満たない場合は課されません(景品表示法8条1項)。また、違反行為を止めて5年以上前の表示には課されません(同12条7項)。

図にすると、以下のとおりです(消費者庁HPより)。

 

違反と言われた場合どうすればよいのか?

景品表示法違反として調査を受けた事業者はどうすればよいのでしょうか?

調査を受けている事業者にとっては、行政側がどのような証拠を集めて、どのような判断をしようとしているのかが分からないことがあります。深刻な事態になりそうだと判断した段階で、早期に専門家を伴って調査に臨み、担当官に問いかけていくことが必要となります。

また、上の図のとおり、事業者には、行政手続法上、処分に先立って、弁明の機会の付与という手続きが認められており、事業者は、通常は弁明書という書面とそれを裏付ける証拠を出して、表示に至った理由や表示が違反していない旨の弁明を行います。その際に、消費者庁から、予定される措置命令の内容が通知されますので、これに反論するような形になります。

消費者庁の判断内容に不服がある、意に反する処分が出されそうだ、という場合には、どうすればよいのでしょうか?

これについては、事業者がとることのできる手段が、何通りかありますので、次回、整理してみたいと思います。

 

(加筆)
これまで、景品表示法の違反事例については、セミナーなどを通じてご紹介する機会を何度かいただいてきました。
引き続き景品表示法問題については研究を深めているところです。
景品表示法の問題について、関心やご質問のある事業者の方、広告に関与されている方は、LINE相談窓口を作ってみましたので、ご活用ください。

 【景表法LINE相談👉🏻】

(執筆:弁護士 永井秀人)

【税務】税法における「居住者」・「住所」の問題

はじめに

 日本の税法、とくに相続税法や所得税法では、「住所」の有無によって納税義務の存在そのものや、その範囲が変わってきます。この住所が日本にあるか、海外にあるかという問題は、その定義もさることながら、さまざまな事実関係からどこが住所なのか、特定していく作業が必要になります。
 当然のことながら、日本の課税当局としては、日本に住所があるとして課税しようとします。このため、海外との関係が深い納税者との間で、しばしば大きな議論――紛争になることがあります。

 

代表的な事例

 代表的な紛争の例は、納税者側が勝訴した武富士事件(最高裁平成23年2月18日判決)です。

 この事件において、最高裁は、 「住所」とは、判例上、「生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきもの」と解されると述べたうえで、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かを判断するには、①その者の所在や滞在日数、②職業を中心に、③居宅、④親族の居所、⑤資産の所在、⑥各種届出等の状況といった要素が総合考慮されるべきである、と考慮要素を例示しました。

 これらのうち、どこに、どのくらいの長さ滞在していたか(①)と、どのような職業にどのように従事していたか(②)が大きなポイントとなるといえます。

 ちなみに、住所は単一であるとされており、住所は2か所以上ないことが前提とされています(武富士事件判決の補足意見や相続税法基本通達1の3・1の4共―5参照)。

 

所在・滞在日数

 「住所」といえるためには長期間の居住が不可欠といえます。

 これは、生活の本拠があると認められるためには、ある程度長期的な生活基盤の形成が前提となるため、時間、期間又は恒久性といった時間的長さにかかる要素は不可欠かつ重要な判断要素となるためです。

 逆に、一時的、臨時的な滞在は除かれることになります。例えば、相続税法における国外勤務者の住所の判定においては、国外における勤務がおおむね1年以内の短期間の滞在が見込まれる者は、一時的に日本を離れているものとして、日本に住所があると取り扱われています(相続税法基本通達1の3・1の4共-6(2))。所得税法においても、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」を「居住者」というとしていますし(所得税法2条3号)、例えば国内において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合には国内に住所を有すると推定されています(所得税法施行令14条1項1号)。

 ですので、問題となる事例の多くは、1年内に国内滞在日数と海外滞在日数とが拮抗している場合です。

 武富士事件でも、最高裁は、贈与の前後3年半の間の国外赴任期間における国内居宅と国外居宅の滞在日数を検討したうえで、その期間が香港65.8%、日本26.2%であったことを重視して、国内に住所がなかったと認めています。

 

職業

 税というのは納税者や被相続人が稼得した所得や資産に対してかかるものですから、納税者・被相続人の稼得の根拠となった社会的生活の本拠がどこにあったかという点も重視するのは当然です。

 武富士事件では、納税者は香港法人でも日本法人でも役員を務めていましたので、どちらが主軸であったかという話になりました。例えば、最近の事例である、東京地裁令和3年11月25日判決でも、海外と日本とどちらが主軸で仕事をしていたかが検討された結果、役員報酬の多さから職業活動の中心は台湾やシンガポールといった海外にあったと判断されながらも、海外は各法人業務のための便宜的な滞在場所であるとか、滞在日数的には日本が多いので、海外業務は日本でもできた業務であったなどと判断されています。

 他方、例えば、職業的にシンガポールが便宜だったと認められるので、職業活動の本拠はシンガポールとしたものなどもあります(東京高裁令和1年11月27日判決・東京地裁令和1年5月30日判決。東京高裁平成20年2月28日判決も参照)。

 

その他の要素

 海外の就労ビザの有無は、当然考慮に入れられるものの、就労ビザがあっても日本に住所と認められたケースもあるので(例えば、東京高裁平成17年9月21日判決)、他の要素との兼ね合いで考慮されるに過ぎないといえそうです。

 また、海外に転出届を出しているか、住民票をそのままにしているかどうかについても、当然考慮に入れられるものの、個人保証との兼ね合いや印鑑証明書の準備の便宜などで国内に住民票を置いたままにしていたとして、この点をさほど重要視しなかった事例(東京高裁令和1年11月27日判決)、海外滞在日数などほかの要素が大きくて、日本のマンションに住民票があったことを重要視しなかった事例(国税不服審判所平成29年8月31日裁決)など、あまり重要視しない事例も少なくありません。

 

まとめ

 このように、「住所」が国内にあったか否かを判断するに際しては、武富士事件をベースにしつつ、令和期に入っても複数事例が存在しており、引き続き議論・紛争が続いています。
 納税者や被相続人にとって、生活の本拠、つまり生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心といえる場所がどこになるのかについては、これらの事例と比較したうえで、丁寧に事実と証拠を洗い出し、積み上げることで、課税当局に対して積極的に納税者側の意見を打ち出していく必要があります。
 そして、このような事実と証拠の積み上げがうまくいった事例においては、納税者側が勝訴している例も少なくありません。

 当事務所の弁護士は複数回このような問題に対応したことがあります。もし、このような「住所」や「居住者」性が問題となる事例に直面した場合には、税務調査の段階から、税理士のみならず判例分析や事実認定のあり方に慣れた弁護士に相談するほうがよいでしょう。