【法人税】同族会社の行為計算否認と第三者割当増資

はじめに

 今回は、グループ法人税制回避のために行われた第三者割当増資において、同族会社の行為計算否認規定(後述)が適用されたケース(国税不服審判所平成28年1月6日裁決・TAINSコードF0-2-629)を取り上げたいと思います。

 このケースでは、従業員に対して行った第三者割当増資が、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為であり、当該割当増資によって、法人税法61条の13の適用要件(完全支配関係)を不充足とすることで譲渡損失額を損金算入したことが、法人税法132条(同族会社の行為計算否認規定)に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となるものに該当するため、税法上、当該同族会社が行った行為は否認され、課税される結果になりました。

 このケースは、数年前の事案であり、その間、グループ法人税制もグループ通算制度へと推移しています。それでもなお、同族会社の行為計算否認規定の適否について考えるうえで有意義な裁決例であると考えられます。

事案の概要

 同族会社である審査請求人(請求人)は、A社との間に完全支配関係がありましたが、平成22年12月27日、従業員(1名)に対する第三者割当増資を行い、その結果、請求人との問に完全支配関係を有しないこととなったA社に対し、譲渡損益調整資産を譲渡し、当該譲渡に係る譲渡利益額と譲渡損失額の差額を損金の額に算入して申告しました。

 これに対して、原処分庁は、法人税法132条1項の規定(同族会社等の行為又は計算の否認規定)を適用して、上記第三者割当増資を否認し、請求人とA社との間には完全支配関係があるとして、同法61条の13第1項の規定に基づき、その損金算入額等を否認(損金算入額等の繰延処理)して更正処分等をしました。

 これに対し、請求人が、同法132条1項の適用要件を欠くとして、原処分の全部の取消しを求めた事案です。

 なお、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入され、法人税法61条の13第1項では、内国法人が(平成22年10月1日以後に)その有する譲渡損益調整資産を完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、当該譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額をないものとみなし、課税関係を繰り延べることとされていました。本件で、審査請求人は、譲渡実施時に、完全支配関係を有さない状況にあったため、このグループ法人税制から外れる取引をしたのです。

裁決の概要

 本裁決の判断内容においては、法人税法132条の適用に関する法令解釈がまずもって重要になってきます。

 この点について、本裁決は、先行して出された東京高裁平成27年3月25日判決(国側敗訴。最高裁平成28年2月18日不受理決定)において示された判示事項を踏まえて、法人税法132条の不当性の判断基準及びその判断要素(租税回避目的の必要性)について、次のとおり判断しています。

 すなわち、不当性の判断基準については、同条1項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」であるか否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解するのが相当であるとしました。

 そして、不当性の判断要素(租税回避目的の必要性)については、同条1項は、否認の要件として、同族会社の「行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ことを必要としているにとどまり、その文理上、否認対象となる同族会社の行為又は計算が専ら租税回避目的でされたことを必要としておらず、同項の趣旨に照らしても、同族会社の行為又は計算の目的ないし意図が考慮されることはあるが、他方で、請求人が主張するように、専ら租税回避目的と認められることを常に必要とすべき理由はない、としました。

 これに対し、審査請求人は、従業員に対して第三者割当増資(本件割当増資)したことにより取得条項付株式を発行したことに伴って、審査請求人との間に完全支配関係を有しないこととなった法人(A社)に対し、譲渡損益調整資産を譲渡し、これにより、当該譲渡に係る譲渡損失額を各事業年度の損金の額に算入したことについては、①請求人の税負担の軽減を講じつつ、種々の取引を行うこと自体は禁止されているものではないし、②本件割当増資は従業員の士気高揚という目的もあるなどとして、法人税法132条の規定の適用はできない旨主張しました。

 しかしながら、審判所は、詳細に事実を認定したうえで、まず、本件割当増資は、審査請求人の事業規模に照らして資金調達等の経済的効果はないに等しいと評価できるとしました。

 そもそも、第三者割当増資というものが、資金調達等の目的で行われるはずだという経済的な視点があり、その観点で見ると、本件割当増資における発行条件等(発行価額、取得条項)は、法人税法61条の13第1項の規定の適用を免れる観点から定められたものと認められるとしています。このことについて、経済的合理性の観点から、財産状況や経営状態等を具体的に勘案した形跡がうかがわれないことから不合理性が裏付けられるとしています。発行状況も、募集事項の立案検討に関与した従業員一人のみに当該株式が発行され、同人以外の従業員には募集の周知すらしていないことも認定しています。

 審判所は、このような観点から、本件割当増資を、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為であると言わざるを得ないと結論付け、本件割当増資によって、法人税法61条の13の適用要件である完全支配関係を不充足とすることにより、本来繰り延べられるべき譲渡損失額を損金の額に算入したと認定、このことは、法人税法132条に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となるものと認めることができるとしました。

寸評

 本裁決における事実認定については、第三者割当増資を行った目的や経緯及び実際に行った内容など、詳細に検討し、上記の法令解釈にあてはめて判断しています。結論としては妥当と言わざるを得ないでしょう。

 今回は第三者割当増資という形でしたが、同族会社間では節税策も考えつつ様々な取引に取り組もうとすることも多いと思います。同族会社における取引は、取引の条件や内容、更には財産状況や経営状態等を経済的合理性の観点から具体的に検討されることになりますので、税効果だけをみて取り組むことのないようにしたいものです。

 

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