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【相続税・財産評価通達6項】最高裁令和4年4月19日判決

財産評価通達6項に基づく鑑定評価額により更正処分を行った一審、二審判決は妥当であるとした最高裁令和4年4月19日判決について

はじめに

 この度、リーズ法律事務所に入所しました、弁護士の森村直貴と申します。このブログなどを通じて皆様に少しでも有益な情報をお伝えできればと思います。

 さて、タイトルの最高裁判決は、新聞やニュースを賑わせた判決として有名です。今回は、この最高裁の判示内容について、いくつかのポイントに分けてご紹介していきたいと思います。

 

事案の概要

 本件は、被相続人から相続人が相続した各不動産(甲不動産、乙不動産)について、評価通達の定める方法に従い相続税の申告をしたところ(路線価に基づく評価額)、税務署長から「評価通達の定めにより評価することが著しく不適当」とされ、評価通達6項に基づく鑑定による評価額で評価すべきとして、更正処分を受けた事案です。

 本件の特殊性として、被相続人は、相続開始前に銀行などからの借入金で各不動産を購入している点です。この行動は、相続にかかる相続税の負担を少なくすることを期待して行ったものであるとされています。また、本件各不動産の通達評価額と鑑定評価額とが著しくかい離していることも明らかとなっています。なお、相続人らの相続税の申告書では、基礎控除(相続税法15条)の結果、相続税の総額は0円となっていました。

 納税者は、本件における更正処分が、相続税法22条に違反していること、また、同処分が平等原則に違反していること、を主張していました。そこで、判決文を適宜引用しながら最高裁がどのような判示をしたのか見ていきたいと思います。

 

財産評価基本通達6項とは?

 まず本件更正処分にあたって、適用された財産評価基本通達(評価通達)6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されています。

 もっとも、この規定からは、どのような場合に「評価することが著しく不適当」であるかが判然としません。もっとも、最高裁は、以下に述べるように平等原則に触れつつ、通達の定めに従って評価することが著しく不当かどうかを判断しています。

 

平等原則違反か?

 平等原則は憲法14条に由来するものです。平等原則とは、多少平たく言えば同じようなものは同じように取り扱うことを意味します。
 最高裁は、この原則は租税法にも当てはまるとしつつ、課税庁が評価通達を基準として画一的に相続財産の評価の一般的な方法を定めているのであるから、特定の者をいわば狙い撃ちのような形で評価通達の方法により評価した価額を上回る価額によるものとするのは合理的な理由がないかぎり許されないと考えているようです。つまり、評価通達によって画一的に課税額を決定している以上、それと異なる取り扱いは原則として許されない、ということです。

 もっとも、例外的に、画一的な評価を行うことが実質的に見て租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由があるとして平等原則に反しない、とも判示しています。
 
 どのような事情が租税負担の公平に反する事情といえるかは事案ごとに異なると考えられ、個別具体的に判断されると考えてよいでしょう。

 

本件での個別事情

 本件ではなぜ評価通達6項に基づく鑑定評価額による更正処分がなされたのでしょうか。

 最高裁は、①本件各不動産の通達評価額と鑑定評価額とがかい離していることに加え、②被相続人などが節税の意図を有していたこと、そして実際にその行為があったことを理由に、このような事情がある以上、他の納税者と上告人らとの間に不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反するとして、評価通達6項の適用を認めています。つまり、本件では上記の合理的な理由があると最高裁は判断しているようです。
 評価通達6項の「著しく不適当な場合」については、本件では明確な基準は打ち出されなかったものの、大きなくくりでいえば、他の納税者との間に不均衡が生じる程度が大きい場合には「著しく不適当」な場合に当たりうるといえるでしょう。

 なお、本件では、本件更正処分が相続税法22条に反しないかどうかも争われていますので、参考までにご紹介します。

 

相続税法22条との関係

 また、納税者は、更正処分が相続税法22条に違反していると主張していました。
 相続税法22条は、「相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得時の時価による」としていますが、ここにいう時価とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されています。
 最高裁は、評価通達は、その時価の評価方法を定めたものではあるものの、通達の性質上国民に対して直接の法的効力を有しないとして、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値を上回らない限り、同条に違反するものではないとして、本件各更正処分に係る各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であるから、相続税法22条には違反しない、と判示しました。

 通達とは、上級行政機関から下級行政機関に対する命令と考えられていますので、直接国民に対するなんらかの法的効力を有さないと一般に解されています。上記最高裁判の判示は、このような通達の性質も勘案したうえで、【財産の取得時における客観的な交換価値 ≧ 課税価格に算入される財産の価額】であれば、同所に違反しないと考えているといえます。

執筆: 弁護士 森村 直貴

【景品表示法】違反した場合どうなるか?どうするか?(2)

取消訴訟等の実際

【命令前】措置命令の仮差止申立

 まず、措置命令とは、どのような措置を命じられるでしょうか?

 ・不当表示の取りやめ
 ・いわゆる社告・謝罪広告(日刊紙2紙以上に掲載+ウェブサイトのトップページに1か月掲載)
 などが挙げられます。大きいのは後者です。

 そして、措置命令が出ると、多くの場合報道されます。

 このため、事業者にとっては、このタイミングで措置命令を出されると困る! という場合があると思います。その場合、仮に命令を差し止めるよう申し立てるのです。

 この措置命令の仮の差止め(行政事件訴訟法37条の5第2項)は、「償うことのできない損害」を「避けるため緊急の必要」があることを要件としています。ですので、取引停止や風評被害などの損害が想定される場合には使える手段です。

 そして、「本案について理由があるとみえる」場合には、仮差止めが認められます。

 実際に行われる手続では、当局側は、行われようとしている措置命令が違法という申立人(事業者側)の説明に対し、「理由があるとみえる」旨主張していくことになりますから、当局は、これから行う措置命令が違法でないと裁判所に説明するため、様々な証拠(疎明資料)を提出することになります。

 したがって、これを申し立てる事業者は、うまくいけば措置命令を仮に差止めることができますし(そして多くの場合命令は打たれないことになり手続は終了します)、仮にうまくいかなくても、当局の手持ち証拠を開示させることができます。

 しかし、仮の差止めが認められたケースはそれほど多くありません(認容例の代表てきなものに、大阪高裁平成27年1月7日決定・タクシー運賃変更命令の仮の差止め申立についてした決定に対する抗告事件があります)。


【命令後】措置命令の執行停止申立

 ところで、措置命令は、命令が出されるとただちに効力を生じます。

 理論上は、命令取消を求めて訴訟を提起しても止まりません。

 したがって、措置命令を出されて不服に感じていたり、謝罪広告など出したくない、と主張する事業者は、特別の申立によって、裁判所の判決があるまで命令の効力をいったん停止しておく必要があります。

 これが、措置命令の執行停止の申立てです。

 申立が認められると、通常、第一審(地方裁判所)の判決が確定するまで効力が停止されることになります。

 執行停止の要件(行政事件訴訟法25条2項~4項)には、次のようなものがあります。
 ・「重大な損害」
 ・ 「避けるため緊急の必要」

 そして、これらに反論する当局が主張すべき要件として、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」があることがあります。

 その結果、「本案について理由がないとみえる」と判断される場合には、執行停止が認められます。この要件でわかるように、執行停止の申立においても、本案について、つまり措置命令が合法か否かが争点となりますので、後に述べる命令取消訴訟と同様の攻防となります。このため、 執行停止申立の審理は1年~2年とかなり長期化することがあります。


【命令後】措置命令の取消請求訴訟

 「本案」の訴訟が命令の取消請求訴訟です。処分の違法性が争われることになります。処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起しなければなりませんので、その間に、様々な証拠を集めて、訴訟を提起することになります。 

 様々な主張をすることが考えられますが、処分の違法性として、景品表示法の定める法令上の要件に該当しないことを主張する(とりわけ、ガイドラインには違反していない旨などを主張する)ことになります。また、ガイドライン自体が法から外れているとして、ガイドラインの違法性を主張することもできなくはないでしょう。
 また、手続の違法性として、調査手続きに違法性があったことを主張したり(例えば、調査時に暴言を受けたとか、弁明の機会の付与がなかったなど)、処分理由に不備があることを主張したりします。そのほか、行政法上の一般原則に基づく主張もあり得るでしょう。

 

まとめ

 よく使われるのは、執行停止の申立と取消請求訴訟の併用です。

 景品表示法上の措置命令で執行停止申立や取消訴訟に至った事例は、数件しかありません。しかし、今後の消費者行政の一層の拡充方向を考えると、さまざまな処分に対して、これまで以上に争う機会が増えてくるものと思われます。

 ところで、現在の当局の措置命令書に書かれた処分理由は、コンパクトに過ぎるように思われます。これは消費者庁などのマンパワー不足からくるものかもしれません。

 しかし、不利益処分をするとき、処分の理由は書面により示さなければならず(行政手続法14条条3項)、その趣旨は、①行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すること、②処分の理由を名あて人に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあります。現在の当局の措置命令書のようなコンパクトな処分理由では、不服の申立てにおいて不便という場面は多いでしょうし、コンパクトな処分理由からは果たして当局が慎重に調査したのか疑念を抱かざるを得ない場合もあるように思います。
 理由が不十分な場合、処分は違法、取消しになるため(最高裁平成23年6月7日判決・一級建築士免許取消処分等取消請求事件)、措置命令の理由なども、十分にウォッチしていかなければならないでしょう。

 このように、いずれの手続をとるにせよ、法的な論点について高度な議論をすることになります。景品表示法上の調査を受けた場合、手続に不安がある場合、命令に不服がある場合には、なるべく措置命令を打たれる前ーーできれば弁明の機会の付与のあたりから(つまり、上記紛争メニューを選択する前から)、専門家に相談する方がいいでしょう。

 ちなみに、以上の手続以外にも、命令後に、行政不服審査法に基づく審査請求も可能ではあります。しかし、消費者庁長官に対し審査請求することになるため、同じ結論になることが見えていると判断される場合が多く、審査請求が選択される場合は多くありません。

 

 ~ 景品表示法に関係する商品表示の問題にお悩みの事業者の方は、当事務所までお気軽にご相談ください~

   (執筆: 弁護士 永井 秀人)

【景品表示法】違反した場合どうなるか?どうするか?(1)

はじめに

昨今、インターネットなどで痩身効果などを強調する多くの宣伝広告を見ることがあります。また、新型コロナウイルス感染症に関する除菌グッズなど、日常お世話になっているような製品について、消費者庁が景品表示法(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」)違反として措置命令を行う報道に接します(これらのいくつかの事例については、また機会を改めて論じたいと思います)。

そこで、景品表示法に違反する行為を行った場合、どうなるのか、どうすればよいのか、について解説したいと思います。

 

措置命令

消費者庁は、消費者からの通報や国民生活センターからの情報提供などを通じて、景品表示法に違反する不当表示や、過大な景品類の提供を知ることになります。

景品表示法における不当表示(法5条)としては、商品やサービスについて、実際のものよりも著しく優良であることを示す優良誤認表示、商品やサービスの価格や取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であることを示す有利誤認表示などが挙げられます。

消費者庁は、これらの不当表示行為に関する関連資料を収集したり、事業者に事情聴取をしたりして、調査を行います。

調査の結果、違反と判断すると、消費者庁は、事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命じます。これを、措置命令といいます。なお、違反の程度が大きくない場合、違反のおそれにすぎない場合などには、行政指導がなされます。

 

課徴金納付命令

事業者が優良誤認表示や有利誤認表示といった不当表示をした場合、消費者庁は、事業者に対し、課徴金の納付を命じます(課徴金納付命令)。課徴金の額は、違反事業者の、対象となる表示行為をしていた期間の違反対象商品・サービスの売上額の3%とされていますが、売上が5000万円に満たない場合は課されません(景品表示法8条1項)。また、違反行為を止めて5年以上前の表示には課されません(同12条7項)。

図にすると、以下のとおりです(消費者庁HPより)。

 

違反と言われた場合どうすればよいのか?

景品表示法違反として調査を受けた事業者はどうすればよいのでしょうか?

調査を受けている事業者にとっては、行政側がどのような証拠を集めて、どのような判断をしようとしているのかが分からないことがあります。深刻な事態になりそうだと判断した段階で、早期に専門家を伴って調査に臨み、担当官に問いかけていくことが必要となります。

また、上の図のとおり、事業者には、行政手続法上、処分に先立って、弁明の機会の付与という手続きが認められており、事業者は、通常は弁明書という書面とそれを裏付ける証拠を出して、表示に至った理由や表示が違反していない旨の弁明を行います。その際に、消費者庁から、予定される措置命令の内容が通知されますので、これに反論するような形になります。

消費者庁の判断内容に不服がある、意に反する処分が出されそうだ、という場合には、どうすればよいのでしょうか?

これについては、事業者がとることのできる手段が、何通りかありますので、次回、整理してみたいと思います。

 

(加筆)
これまで、景品表示法の違反事例については、セミナーなどを通じてご紹介する機会を何度かいただいてきました。
引き続き景品表示法問題については研究を深めているところです。
景品表示法の問題について、関心やご質問のある事業者の方、広告に関与されている方は、LINE相談窓口を作ってみましたので、ご活用ください。

 【景表法LINE相談👉🏻】

(執筆:弁護士 永井秀人)

【税務】税法における「居住者」・「住所」の問題

はじめに

 日本の税法、とくに相続税法や所得税法では、「住所」の有無によって納税義務の存在そのものや、その範囲が変わってきます。この住所が日本にあるか、海外にあるかという問題は、その定義もさることながら、さまざまな事実関係からどこが住所なのか、特定していく作業が必要になります。
 当然のことながら、日本の課税当局としては、日本に住所があるとして課税しようとします。このため、海外との関係が深い納税者との間で、しばしば大きな議論――紛争になることがあります。

 

代表的な事例

 代表的な紛争の例は、納税者側が勝訴した武富士事件(最高裁平成23年2月18日判決)です。

 この事件において、最高裁は、 「住所」とは、判例上、「生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきもの」と解されると述べたうえで、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かを判断するには、①その者の所在や滞在日数、②職業を中心に、③居宅、④親族の居所、⑤資産の所在、⑥各種届出等の状況といった要素が総合考慮されるべきである、と考慮要素を例示しました。

 これらのうち、どこに、どのくらいの長さ滞在していたか(①)と、どのような職業にどのように従事していたか(②)が大きなポイントとなるといえます。

 ちなみに、住所は単一であるとされており、住所は2か所以上ないことが前提とされています(武富士事件判決の補足意見や相続税法基本通達1の3・1の4共―5参照)。

 

所在・滞在日数

 「住所」といえるためには長期間の居住が不可欠といえます。

 これは、生活の本拠があると認められるためには、ある程度長期的な生活基盤の形成が前提となるため、時間、期間又は恒久性といった時間的長さにかかる要素は不可欠かつ重要な判断要素となるためです。

 逆に、一時的、臨時的な滞在は除かれることになります。例えば、相続税法における国外勤務者の住所の判定においては、国外における勤務がおおむね1年以内の短期間の滞在が見込まれる者は、一時的に日本を離れているものとして、日本に住所があると取り扱われています(相続税法基本通達1の3・1の4共-6(2))。所得税法においても、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」を「居住者」というとしていますし(所得税法2条3号)、例えば国内において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合には国内に住所を有すると推定されています(所得税法施行令14条1項1号)。

 ですので、問題となる事例の多くは、1年内に国内滞在日数と海外滞在日数とが拮抗している場合です。

 武富士事件でも、最高裁は、贈与の前後3年半の間の国外赴任期間における国内居宅と国外居宅の滞在日数を検討したうえで、その期間が香港65.8%、日本26.2%であったことを重視して、国内に住所がなかったと認めています。

 

職業

 税というのは納税者や被相続人が稼得した所得や資産に対してかかるものですから、納税者・被相続人の稼得の根拠となった社会的生活の本拠がどこにあったかという点も重視するのは当然です。

 武富士事件では、納税者は香港法人でも日本法人でも役員を務めていましたので、どちらが主軸であったかという話になりました。例えば、最近の事例である、東京地裁令和3年11月25日判決でも、海外と日本とどちらが主軸で仕事をしていたかが検討された結果、役員報酬の多さから職業活動の中心は台湾やシンガポールといった海外にあったと判断されながらも、海外は各法人業務のための便宜的な滞在場所であるとか、滞在日数的には日本が多いので、海外業務は日本でもできた業務であったなどと判断されています。

 他方、例えば、職業的にシンガポールが便宜だったと認められるので、職業活動の本拠はシンガポールとしたものなどもあります(東京高裁令和1年11月27日判決・東京地裁令和1年5月30日判決。東京高裁平成20年2月28日判決も参照)。

 

その他の要素

 海外の就労ビザの有無は、当然考慮に入れられるものの、就労ビザがあっても日本に住所と認められたケースもあるので(例えば、東京高裁平成17年9月21日判決)、他の要素との兼ね合いで考慮されるに過ぎないといえそうです。

 また、海外に転出届を出しているか、住民票をそのままにしているかどうかについても、当然考慮に入れられるものの、個人保証との兼ね合いや印鑑証明書の準備の便宜などで国内に住民票を置いたままにしていたとして、この点をさほど重要視しなかった事例(東京高裁令和1年11月27日判決)、海外滞在日数などほかの要素が大きくて、日本のマンションに住民票があったことを重要視しなかった事例(国税不服審判所平成29年8月31日裁決)など、あまり重要視しない事例も少なくありません。

 

まとめ

 このように、「住所」が国内にあったか否かを判断するに際しては、武富士事件をベースにしつつ、令和期に入っても複数事例が存在しており、引き続き議論・紛争が続いています。
 納税者や被相続人にとって、生活の本拠、つまり生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心といえる場所がどこになるのかについては、これらの事例と比較したうえで、丁寧に事実と証拠を洗い出し、積み上げることで、課税当局に対して積極的に納税者側の意見を打ち出していく必要があります。
 そして、このような事実と証拠の積み上げがうまくいった事例においては、納税者側が勝訴している例も少なくありません。

 当事務所の弁護士は複数回このような問題に対応したことがあります。もし、このような「住所」や「居住者」性が問題となる事例に直面した場合には、税務調査の段階から、税理士のみならず判例分析や事実認定のあり方に慣れた弁護士に相談するほうがよいでしょう。

【税務調査】暗号資産で得た所得に対する課税

 

はじめに

 最近、仮想通貨(暗号資産)についての税務調査や申告漏れのニュースをよく目にするようになりました。大きく報道されたもののなかには、ビットコインなどの仮装通貨取引によって得た利益を申告から除外し、所得税を意図的に免れたとして起訴された脱税事件までありました(なお、執行猶予付き判決で終わっています)。

 当事務所にも、最近でこそ少なくなりましたが、仮装通貨についての税務調査を受けて困っているという相談がありました。

 仮装通貨がインターネットで気軽に取引でき、匿名性が高いこと(実際には、金融庁登録の国内取引所は本人確認を徹底しており、マネーロンダリング対策の観点からも、匿名性は失われていることも多いです)や投資商品としての新しさ、急激な値動きから、故意に、あるいは勘違いや納税資金不足から、無申告や申告漏れが生じることが多く起こっているものと思われます。

 国税庁は、平成30年ころから仮装通貨の税務上の取扱いについて検討した内容を公表し、申告時の所得金額の計算書を公開し、これらをアップデートしてきており、最新のものは「暗号資産に関する税務上の取扱いについてFAQ」(リンク)などとしてまとめられています(呼称も、仮装通貨から資金決済法2条に規定する「暗号資産」に変わっています)。

 本稿では、所得税法・法人税法上の取扱いを簡単にまとめたうえで、よくあるミスについて考察してみたいと思います。

 

暗号資産とは

 資金決済法2条5項では、「暗号資産」とは、概ね、①不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、不特定の者を相手に購入や売却できる財産的価値で、②電子的に記録され、移転でき、③法定通貨や法定通貨建資産ではないもの、と規定されています。代表的には、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)など多数存在することはご承知のとおりです。

 

所得税・法人税の取扱い 

暗号資産を売却して、円に換金した場合、所得金額は、

売却価額(譲渡価額)-取得価額(譲渡原価)

となります。売却時の手数料、取引のためのインターネット回線の利用料やパソコン購入費用など必要経費があれば、必要経費も差し引くことができます(ただし、暗号資産の売却のために必要なものに限ります)。円への換金ではなく、商品を購入した場合も上記の式と同様です。

 しばしば問題となってくるのは、暗号資産を頻繁に売ったり買ったりしてきたなかで、譲渡対象となった暗号資産の原価をどのように計算するか、具体的には、総平均法と移動平均法という二つの計算方法のうちいずれを使うべきかという問題です。国税庁が指針を出すまでは、税務調査で高いほうで計算されて課税される事例もありましたが、今は、総平均法と移動平均法という二つの計算方法のうち、当事者が選択した方法(選択届出しない場合、個人においては総平均法、法人においては移動平均法)により計算した金額となるとされており、国税庁HPでも計算書も公表されています。多くの場合、取引所から年間取引報告書が交付されますので、その報告書で取得価額や売却価額を確認し、国税庁HPの計算書を使って計算すればよいでしょう。

 また、有名な話ですが、暗号資産の取引から生じた所得は、原則として雑所得となります。雑所得の場合、総合課税となるため、場合によっては最高税率が課され、せっかくリスクをとって稼得したのに、大半を税金で持っていかれるような事態が生じます。なおかつ、雑所得ですので、損失が出たとしても、ほかの所得と通算することはできません。

 もちろん、仮に暗号資産取引自体で生計を立てているなど事業性があれば、事業所得とすることができる場合もあります。ただ、その場合であっても、税務署から雑所得課税を言われる場合に備えて、事業性を説明することができるようにしておく必要があります。

 他方、法人については、暗号資産に係る譲渡損益を、譲渡の生じた事業年度において益金又は損金の額として計上することになります。のみならず、暗号資産を事業年度末に保有している場合には、帳簿価額をその事業年度末の時価で評価し、評価損益をその事業年度の益金、損金に算入しなければなりません。そして、翌事業年度は事業年度末の時価で洗い替えた価額を帳簿価額とします。この作業は忘れないようにしなければなりません。

 

落とし穴

 投資家が、頻繁に取引をしていると、保有する暗号資産Aで別の暗号資産Bを買うということがよく行われます。その場合、暗号資産Aにおける含み益が実現するということに注意しないといけません。つまり、この取引では、暗号資産Aを譲渡したとされ、暗号資産Aに含み益があれば所得が発生するのです。

 例えば、購入時100万円、時価120万円の1ビットコインで40リップルを購入する場合、投資家としては、100万円が40リップルになっていると理解しますが、税務上は、一旦100万円の1ビットコインが120万円で譲渡され、20万円の含み益が実現したので申告が必要となり、40リップルの取得価額は1リップルあたり3万円と考えるのです。

 したがって、仮にその後リップルが1万円に暴落した場合であっても、ビットコインに関する含み益に関する申告は免れることができないのです。リップルで含み損を抱えていると思っている投資家は、儲かっていないから申告しないでいると、思いがけない課税を受けることになる点は要注意です。

 

まとめ

  国税庁の近年の調査実績などによると、暗号資産に対して重点的に税務調査や課税が行われていることが窺えます。それは裏を返すと納税者のミスが多発していて、かつ税金を取りやすい分野だからです。

 納税者としては、冒頭にあげた国税庁のFAQに照らしてもう一度自らの申告内容をチェックしたり、専門家の力を借りて申告内容などに問題がないか確認したりするによって、税務リスクを減らすとともに、万が一、税務調査を受けた場合には、専門家にいち早く相談して対応するべきでしょう。  

【相続税】経営者の「貸付金」を相続財産としないためには?

はじめに

 会社経営者に相続が発生した場合、特にオーナーが会社に貸し付けていた場合に、この貸付金が相続財産としてカウントされることがあります。
残された相続人は、この貸付金に関して過大な(そして、余分な)相続税を払わなければならないことが往々にして起こります。
 会社経営者としては、あるいは、相続人となる周囲の親族としては、この経営者貸付金を生前に処理することを頭に入れておいたほうがよいでしょう。
 しかし、会社経営者が高齢化しても(場合によっては引退したあとになっても、あるいは会社経営者が重度の認知障害になったがために)、これらの検討を放置したために、実際に相続が発生した場合に大変な課税を受けることが多々あります。

 

分析

 経営者貸付金には二つの側面が含まれている場合があります。
 一つは、「貸付金」が本当に貸付金か、という貸付の実在の問題です。もう一つは、死後、相続財産としてカウントされなくするよう処理する方法とです。 

貸付金の実在

 経営者と会社との間にきちんと金銭消費貸借契約書があればよいのですが、貸付金の額が中途半端な金額であったり、利息支払や弁済がされた形跡がなかったりすると、本当に貸付金があったのかその実在を否定することもできそうです。

 というのも、例えば経営者個人と会社の財布がほぼ共通というようなオーナー企業では、日々経理業務を行う経理担当者や税理士は、現金・預金勘定が合わなかった場合などに、経営者からの貸借で記帳することが多いからです。そこに経営者からの借入(つまり経営者貸付金。反対に、経営者への貸付と処理することもあります)が生じるのです。
 しかし、経営者が亡くなってしまってからでは、これを証明するのは非常に困難になります。

 ほかにも、経営者個人が会社の経費を立替払いして、それを精算していない場合も貸付金処理することがありますし、また、会社にキャッシュが足りないので、経営者個人に対する役員報酬を支払っていない場合も貸付金処理する場合があります。

 

貸付金を相続前に処理する方法

 このようにして発生した経営者貸付金(会社にとっての役員借入金勘定)は、真実、経営者個人の会社に対する債権であればよいのですが、そうでない場合があり、その貸付債権が帳簿に載った価額で相続財産としてカウントされてしまうのは本来おかしいはずです。
 この誤りは是正する必要がありますが、経営者が亡くなってしまってからでは、是正する機会を失ってしまいます。
 また、経営者個人の会社に対する債権であったとしても、生前に精算・返済して経営者の老後の資金にしてもらったほうがよかったのに、その機会も失われ、さらに余計な税金の負担まで発生しかねません。

 もっともよい処理の方法は、会社が経営者から債権を放棄してもらうことです(債権放棄)。しかし、そうすると会社には債務免除益が発生し、これに法人税がかかります。債権を放棄しなかった場合に想定される相続税額も見たうえで、債権を放棄してもらった場合の会社の財務状況(繰越欠損金があるかどうかなど)を見て、税額が少ないほうを採用すればよいことになります。また、債権放棄した経営者以外のほかの株主が、会社の財務状態が良くなったことを受けて、会社の株式の価額の増加した部分に相当する金額を、贈与されたとして取り扱われる場合があります(相続税基本通達9-2)。

 これは、もう一つの処理の方法であるデット・エクイティ・スワップ(DES)と呼ばれる債務と資本を交換する手法を採った場合も同じです。この方法では、経営者貸付金相当額を現物出資して資本(株式)にすることになりますが、例えば会社が債務超過の状態にあるなど、貸付金の額に比して、時価より著しく低い価額で現物出資があった場合には、やはり債務免除益や贈与税の問題が生じます(同通達)。

 

まとめ 

 経営者貸付金には二つの側面が含まれていることを解説しました。多額の経営者貸付金を抱える同族会社の経営者、他の役員、株主の方は、経営者が高齢化している場合は、早め早めに(相続税に詳しい)専門家に相談して対応を講じるべきでしょう。

 

【飲食業の税務】現金商売ならではの問題

はじめに

 飲食店を運営する中小企業や個人事業主にとって、税務とはどのように位置づけられるでしょうか?はじめは税金よりも運転資金で精いっぱいで、納税できる体制など二の次という店も少なくないかもしれません。
 しかし、税法上の処理をないがしろにしては、法定帳簿がないとして売上等を推計されたうえで課税され思わぬ痛手を被ったり、みすみす税制上のメリットを逃したりしてしまうことになりかねません。
 一例として、設立以来申告していなかった、ある飲食業について売上等が推計された事例について検討してみたいと思います。

 

名古屋高裁平成18年1月30日判決・税資256号

 本件は、納税者である原告が経営する飲食店に売上伝票の廃棄等があったため、課税庁から法定帳簿の備付け、記録又は保存がなかったことを理由として、売上伝票の破棄等による売上除外金額を推計する方法で、法人税や消費税の更正及び重加算税の賦課決定処分などの課税処分を受けたものです。

 裁判所は、推計課税を、実体上実額課税とは別個の所得算定方法であり、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、推計の結果は真実の所得と必ずしも一致する必要はないとして、推計課税という手法自体の合理性を認め、一定程度売上伝票の破棄等があったことを認めました。

 推計課税は、実際の所得に最も近似した数値を算出し得る合理的なものでなければなりませんが、裁判所は、具体的には、

  1. 推計の基礎事実が正確に把握されていること
  2. 様々な推計方法のうち、具体的な事案に応じて最適なものが選択されていること
  3. 採用された具体的な推計方法自体ができるだけ真実の所得に近似した数値が算出されうるような客観性を有していること

が必要と判断しており、いずれも妥当なものと考えられます。

 とはいえ、この裁判で、裁判所は、結論においては、売上除外に係る売上伝票破棄枚数という事実問題の認定をやり直して、処分を一部取り消しています。これは、事実認定の問題として、推計の基礎事実の把握に一部誤りがあったとして原告納税者の主張を容れたものでした。

 ですので、仮に、推計課税による処分を受けたとしても、事実認定の問題として、拾ってもらえるようなところは主張することによって、調査段階で、あるいは裁判所や審判所において拾ってもらうよう努力するのが、納税者や納税者代理人としての役割になります。

 

まとめ

 この裁判例のように、法定帳簿といえないような資料しか作っていなかったり、勝手に伝票を廃棄したり、またその記録を取っていなかったりすると、たとえ真っ当に事業を行っていて、正当な理由があったとしても、要らぬ目を向けられる場合があります。

  現金商売の飲食店であれば、つい出来心で・・・ということもあるかもしれません。しかし、積もり積もれば大きなものになりますし、悪質な場合には、不正に課税を逃れたとして重加算税を含めて多大な課税を被り、事業に大きなダメージを与えることになってしまいます。

 中小企業や個人運営の場合であっても、専門家の力を借りて、早い段階から経理や税務処理のできる体制を整え、仮に課税当局から税務調査において疑いの目を向けられそうな処理がある場合は、専門家に相談するべきでしょう。 また、もし、現在は当局に見つかっていないけれども、実際には不正に課税を免れているということであれば、早めに専門家に相談して、修正申告など適切な処理をすることで、経営に与えるダメージを最小限に食い止めるべきでしょう。

【書籍刊行】企業法務で知っておくべき税務上の問題点100

リーズ法律事務所の永井秀人弁護士・税理士が執筆に携わった「企業法務で知っておくべき税務上の問題点100」(清文社:リンク)が9月7日刊行しました(リンク:Amazonのページが開きます)。

執筆に際しては、永井弁護士が参画する、大阪を中心に活動する「関西タックスロイヤーズ」(リンク)の弁護士6名が共同執筆しました。

企業法務に携わる弁護士・税理士や、企業の法務担当者・税務担当者にとって有益な情報、考察が幅広く記載されておりますので、是非、お手に取っていただけますと幸いです。

目次
第1章 役員報酬
第2章 取引先・役員等に対する債権
第3章 事業承継
第4章 グループ会社間での取引等
第5章 外国人労働者に関する事項
第6章 信託
第7章 組織再編成
第8章 M&Aと海外取引・外国子会社管理
第9章 企業不祥事
第10章 破産・倒産
第11章 消費税
第12章 その他の問題

【法人税】同族会社の行為計算否認と第三者割当増資

はじめに

 今回は、グループ法人税制回避のために行われた第三者割当増資において、同族会社の行為計算否認規定(後述)が適用されたケース(国税不服審判所平成28年1月6日裁決・TAINSコードF0-2-629)を取り上げたいと思います。

 このケースでは、従業員に対して行った第三者割当増資が、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為であり、当該割当増資によって、法人税法61条の13の適用要件(完全支配関係)を不充足とすることで譲渡損失額を損金算入したことが、法人税法132条(同族会社の行為計算否認規定)に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となるものに該当するため、税法上、当該同族会社が行った行為は否認され、課税される結果になりました。

 このケースは、数年前の事案であり、その間、グループ法人税制もグループ通算制度へと推移しています。それでもなお、同族会社の行為計算否認規定の適否について考えるうえで有意義な裁決例であると考えられます。

事案の概要

 同族会社である審査請求人(請求人)は、A社との間に完全支配関係がありましたが、平成22年12月27日、従業員(1名)に対する第三者割当増資を行い、その結果、請求人との問に完全支配関係を有しないこととなったA社に対し、譲渡損益調整資産を譲渡し、当該譲渡に係る譲渡利益額と譲渡損失額の差額を損金の額に算入して申告しました。

 これに対して、原処分庁は、法人税法132条1項の規定(同族会社等の行為又は計算の否認規定)を適用して、上記第三者割当増資を否認し、請求人とA社との間には完全支配関係があるとして、同法61条の13第1項の規定に基づき、その損金算入額等を否認(損金算入額等の繰延処理)して更正処分等をしました。

 これに対し、請求人が、同法132条1項の適用要件を欠くとして、原処分の全部の取消しを求めた事案です。

 なお、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入され、法人税法61条の13第1項では、内国法人が(平成22年10月1日以後に)その有する譲渡損益調整資産を完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、当該譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額をないものとみなし、課税関係を繰り延べることとされていました。本件で、審査請求人は、譲渡実施時に、完全支配関係を有さない状況にあったため、このグループ法人税制から外れる取引をしたのです。

裁決の概要

 本裁決の判断内容においては、法人税法132条の適用に関する法令解釈がまずもって重要になってきます。

 この点について、本裁決は、先行して出された東京高裁平成27年3月25日判決(国側敗訴。最高裁平成28年2月18日不受理決定)において示された判示事項を踏まえて、法人税法132条の不当性の判断基準及びその判断要素(租税回避目的の必要性)について、次のとおり判断しています。

 すなわち、不当性の判断基準については、同条1項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」であるか否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解するのが相当であるとしました。

 そして、不当性の判断要素(租税回避目的の必要性)については、同条1項は、否認の要件として、同族会社の「行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ことを必要としているにとどまり、その文理上、否認対象となる同族会社の行為又は計算が専ら租税回避目的でされたことを必要としておらず、同項の趣旨に照らしても、同族会社の行為又は計算の目的ないし意図が考慮されることはあるが、他方で、請求人が主張するように、専ら租税回避目的と認められることを常に必要とすべき理由はない、としました。

 これに対し、審査請求人は、従業員に対して第三者割当増資(本件割当増資)したことにより取得条項付株式を発行したことに伴って、審査請求人との間に完全支配関係を有しないこととなった法人(A社)に対し、譲渡損益調整資産を譲渡し、これにより、当該譲渡に係る譲渡損失額を各事業年度の損金の額に算入したことについては、①請求人の税負担の軽減を講じつつ、種々の取引を行うこと自体は禁止されているものではないし、②本件割当増資は従業員の士気高揚という目的もあるなどとして、法人税法132条の規定の適用はできない旨主張しました。

 しかしながら、審判所は、詳細に事実を認定したうえで、まず、本件割当増資は、審査請求人の事業規模に照らして資金調達等の経済的効果はないに等しいと評価できるとしました。

 そもそも、第三者割当増資というものが、資金調達等の目的で行われるはずだという経済的な視点があり、その観点で見ると、本件割当増資における発行条件等(発行価額、取得条項)は、法人税法61条の13第1項の規定の適用を免れる観点から定められたものと認められるとしています。このことについて、経済的合理性の観点から、財産状況や経営状態等を具体的に勘案した形跡がうかがわれないことから不合理性が裏付けられるとしています。発行状況も、募集事項の立案検討に関与した従業員一人のみに当該株式が発行され、同人以外の従業員には募集の周知すらしていないことも認定しています。

 審判所は、このような観点から、本件割当増資を、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為であると言わざるを得ないと結論付け、本件割当増資によって、法人税法61条の13の適用要件である完全支配関係を不充足とすることにより、本来繰り延べられるべき譲渡損失額を損金の額に算入したと認定、このことは、法人税法132条に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となるものと認めることができるとしました。

寸評

 本裁決における事実認定については、第三者割当増資を行った目的や経緯及び実際に行った内容など、詳細に検討し、上記の法令解釈にあてはめて判断しています。結論としては妥当と言わざるを得ないでしょう。

 今回は第三者割当増資という形でしたが、同族会社間では節税策も考えつつ様々な取引に取り組もうとすることも多いと思います。同族会社における取引は、取引の条件や内容、更には財産状況や経営状態等を経済的合理性の観点から具体的に検討されることになりますので、税効果だけをみて取り組むことのないようにしたいものです。

 

~ 大阪、関西で中小企業の法務・税務でのご相談はリーズ法律事務所まで是非ご相談ください。

【国税不服審判所】令和2年度における審査請求の概要の公表

国税不服審判所が、令和2年度における審査請求の概要を公表しました(リンク)。

はじめに

国税不服審判所は、課税処分に不服のある納税者から審査請求を受け、公正な第三者的立場で、課税処分を取り消すか維持するか否かの判断をする裁決を行っています。
特に一般の相談ごとを受けていますと、まだまだ国税不服審判所という組織が一般に知られておらず、国税局などと同じ建物に入っていることもあり、裁判所と比較すると、果たして公正な立場で判断してくれるのか疑問を抱く方も少なくないようです。

国税不服審判所で勤務した経験のある元国税審判官という立場からすると、まだまだ周知・アピールが足りないのだなぁと再認識するとともに、裁判所が、一般には高い信頼が寄せられている組織なのだと改めて認識する次第です。一般には、おそらく租税裁判所という組織にしたほうが分かりやすいのかもしれません。

また、審査請求は、税務署長や国税局長などが行った処分に不服がある場合に、その処分の取消しや変更を求めて、不服を申し立てる制度ですが、これについても、1年内終局処理や印紙不要などのメリットがあることも十分に伝わっていないと感じます(ですので、弊所では、丁寧に説明したり、さまざまなところでメリットをアピールしたりしています)。

 

令和2年度の状況

ところで、国税不服審判所は、納税者の利益救済のため、標準審理期間を1年と定めていて、これをかなり重要視しています。
しかし、令和2年度(令和3年3月末度)は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、審査請求の1年以内の処理件数割合は83.5%となりました。これは、一般には大したニュースでもないのですが、国税不服審判所としては大きなニュースです。

コロナ禍ということから、担当職員が交代で自宅勤務をすることで職場での密集を避けていたため、内部の会議すらままならず、審理が停滞したのが見て取れます。国税不服審判所内では、外で見る以上に、案件処理のための内部検討手続きが多く、また所内でも所長をはじめキーパーソンが出勤しない、あるいはコロナにかかるとなると、一気に案件が停滞してしまいます。

審査請求の件数は2,229件で、前年度より13.0%減少となりましたが、これも、コロナ禍により、そもそも調査件数が減っていることが影響していると思われます(査察案件も、件数が大きく減ったという報道もありました)。この状況は、令和3年度も続くものと思われます。

他方、処理件数のうち、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた件数(認容件数)は233件(一部認容168件、全部認容65件)で、その割合は10.0%となりました。処理件数の母数の中には、ある意味で苦情めいた案件も含まれていることから、この割合は、概ね、例年通りといっていいでしょう(令和元年度は認容割合13.2%)。権利救済機関としての機能はコロナ禍にかかわらず(当たり前ですが・・・)きちんと果たしていたということでしょう。

 

令和3年度の状況

令和3年度においても、引き続き標準審理期間が低下することは大いに考えられます。年度後半には、ワクチンの接種も進み、徐々に自宅勤務体制も変わってくるものと思われ、どこまで令和4年3月末までに追い込みをかけられるかにかかっているといえるでしょう。

案件数は、さらに低下する可能性があります。これは調査件数が減っているためで、調査も少なければ不服の生じる処分も少なくなることから、やむを得ない帰結です。
他方で、色んな形で世の中に金がダブついており、不動産取引、金融取引も引き続き盛んであることからすると、これらに関する処分や、ここ近年盛んであったインバウンド関係の調査・処分は、調査件数の復調とともに、事件化してくるものと思われます。他方で、コロナ禍のあおりを受けた飲食・接客業や遊技場などについては(調査妙味が少なく)件数は減るように思われます。
また、税務署・国税局が、限られた人員で、手堅い案件をしっかり調査したうえで課税処分するうちは、税務署・国税局側の無理・拙速な調査による処分が減り、結果的に、案件数とともに認容件数が減ることにもつながりそうです。

 

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