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【相続税】経営者の「貸付金」を相続財産としないためには?

はじめに

 会社経営者に相続が発生した場合、特にオーナーが会社に貸し付けていた場合に、この貸付金が相続財産としてカウントされることがあります。
残された相続人は、この貸付金に関して過大な(そして、余分な)相続税を払わなければならないことが往々にして起こります。
 会社経営者としては、あるいは、相続人となる周囲の親族としては、この経営者貸付金を生前に処理することを頭に入れておいたほうがよいでしょう。
 しかし、会社経営者が高齢化しても(場合によっては引退したあとになっても、あるいは会社経営者が重度の認知障害になったがために)、これらの検討を放置したために、実際に相続が発生した場合に大変な課税を受けることが多々あります。

 

分析

 経営者貸付金には二つの側面が含まれている場合があります。
 一つは、「貸付金」が本当に貸付金か、という貸付の実在の問題です。もう一つは、死後、相続財産としてカウントされなくするよう処理する方法とです。 

貸付金の実在

 経営者と会社との間にきちんと金銭消費貸借契約書があればよいのですが、貸付金の額が中途半端な金額であったり、利息支払や弁済がされた形跡がなかったりすると、本当に貸付金があったのかその実在を否定することもできそうです。

 というのも、例えば経営者個人と会社の財布がほぼ共通というようなオーナー企業では、日々経理業務を行う経理担当者や税理士は、現金・預金勘定が合わなかった場合などに、経営者からの貸借で記帳することが多いからです。そこに経営者からの借入(つまり経営者貸付金。反対に、経営者への貸付と処理することもあります)が生じるのです。
 しかし、経営者が亡くなってしまってからでは、これを証明するのは非常に困難になります。

 ほかにも、経営者個人が会社の経費を立替払いして、それを精算していない場合も貸付金処理することがありますし、また、会社にキャッシュが足りないので、経営者個人に対する役員報酬を支払っていない場合も貸付金処理する場合があります。

 

貸付金を相続前に処理する方法

 このようにして発生した経営者貸付金(会社にとっての役員借入金勘定)は、真実、経営者個人の会社に対する債権であればよいのですが、そうでない場合があり、その貸付債権が帳簿に載った価額で相続財産としてカウントされてしまうのは本来おかしいはずです。
 この誤りは是正する必要がありますが、経営者が亡くなってしまってからでは、是正する機会を失ってしまいます。
 また、経営者個人の会社に対する債権であったとしても、生前に精算・返済して経営者の老後の資金にしてもらったほうがよかったのに、その機会も失われ、さらに余計な税金の負担まで発生しかねません。

 もっともよい処理の方法は、会社が経営者から債権を放棄してもらうことです(債権放棄)。しかし、そうすると会社には債務免除益が発生し、これに法人税がかかります。債権を放棄しなかった場合に想定される相続税額も見たうえで、債権を放棄してもらった場合の会社の財務状況(繰越欠損金があるかどうかなど)を見て、税額が少ないほうを採用すればよいことになります。また、債権放棄した経営者以外のほかの株主が、会社の財務状態が良くなったことを受けて、会社の株式の価額の増加した部分に相当する金額を、贈与されたとして取り扱われる場合があります(相続税基本通達9-2)。

 これは、もう一つの処理の方法であるデット・エクイティ・スワップ(DES)と呼ばれる債務と資本を交換する手法を採った場合も同じです。この方法では、経営者貸付金相当額を現物出資して資本(株式)にすることになりますが、例えば会社が債務超過の状態にあるなど、貸付金の額に比して、時価より著しく低い価額で現物出資があった場合には、やはり債務免除益や贈与税の問題が生じます(同通達)。

 

まとめ 

 経営者貸付金には二つの側面が含まれていることを解説しました。多額の経営者貸付金を抱える同族会社の経営者、他の役員、株主の方は、経営者が高齢化している場合は、早め早めに(相続税に詳しい)専門家に相談して対応を講じるべきでしょう。

 

【飲食業の税務】現金商売ならではの問題

はじめに

 飲食店を運営する中小企業や個人事業主にとって、税務とはどのように位置づけられるでしょうか?はじめは税金よりも運転資金で精いっぱいで、納税できる体制など二の次という店も少なくないかもしれません。
 しかし、税法上の処理をないがしろにしては、法定帳簿がないとして売上等を推計されたうえで課税され思わぬ痛手を被ったり、みすみす税制上のメリットを逃したりしてしまうことになりかねません。
 一例として、設立以来申告していなかった、ある飲食業について売上等が推計された事例について検討してみたいと思います。

 

名古屋高裁平成18年1月30日判決・税資256号

 本件は、納税者である原告が経営する飲食店に売上伝票の廃棄等があったため、課税庁から法定帳簿の備付け、記録又は保存がなかったことを理由として、売上伝票の破棄等による売上除外金額を推計する方法で、法人税や消費税の更正及び重加算税の賦課決定処分などの課税処分を受けたものです。

 裁判所は、推計課税を、実体上実額課税とは別個の所得算定方法であり、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、推計の結果は真実の所得と必ずしも一致する必要はないとして、推計課税という手法自体の合理性を認め、一定程度売上伝票の破棄等があったことを認めました。

 推計課税は、実際の所得に最も近似した数値を算出し得る合理的なものでなければなりませんが、裁判所は、具体的には、

  1. 推計の基礎事実が正確に把握されていること
  2. 様々な推計方法のうち、具体的な事案に応じて最適なものが選択されていること
  3. 採用された具体的な推計方法自体ができるだけ真実の所得に近似した数値が算出されうるような客観性を有していること

が必要と判断しており、いずれも妥当なものと考えられます。

 とはいえ、この裁判で、裁判所は、結論においては、売上除外に係る売上伝票破棄枚数という事実問題の認定をやり直して、処分を一部取り消しています。これは、事実認定の問題として、推計の基礎事実の把握に一部誤りがあったとして原告納税者の主張を容れたものでした。

 ですので、仮に、推計課税による処分を受けたとしても、事実認定の問題として、拾ってもらえるようなところは主張することによって、調査段階で、あるいは裁判所や審判所において拾ってもらうよう努力するのが、納税者や納税者代理人としての役割になります。

 

まとめ

 この裁判例のように、法定帳簿といえないような資料しか作っていなかったり、勝手に伝票を廃棄したり、またその記録を取っていなかったりすると、たとえ真っ当に事業を行っていて、正当な理由があったとしても、要らぬ目を向けられる場合があります。

  現金商売の飲食店であれば、つい出来心で・・・ということもあるかもしれません。しかし、積もり積もれば大きなものになりますし、悪質な場合には、不正に課税を逃れたとして重加算税を含めて多大な課税を被り、事業に大きなダメージを与えることになってしまいます。

 中小企業や個人運営の場合であっても、専門家の力を借りて、早い段階から経理や税務処理のできる体制を整え、仮に課税当局から税務調査において疑いの目を向けられそうな処理がある場合は、専門家に相談するべきでしょう。 また、もし、現在は当局に見つかっていないけれども、実際には不正に課税を免れているということであれば、早めに専門家に相談して、修正申告など適切な処理をすることで、経営に与えるダメージを最小限に食い止めるべきでしょう。

【書籍刊行】企業法務で知っておくべき税務上の問題点100

リーズ法律事務所の永井秀人弁護士・税理士が執筆に携わった「企業法務で知っておくべき税務上の問題点100」(清文社:リンク)が9月7日刊行しました(リンク:Amazonのページが開きます)。

執筆に際しては、永井弁護士が参画する、大阪を中心に活動する「関西タックスロイヤーズ」(リンク)の弁護士6名が共同執筆しました。

企業法務に携わる弁護士・税理士や、企業の法務担当者・税務担当者にとって有益な情報、考察が幅広く記載されておりますので、是非、お手に取っていただけますと幸いです。

目次
第1章 役員報酬
第2章 取引先・役員等に対する債権
第3章 事業承継
第4章 グループ会社間での取引等
第5章 外国人労働者に関する事項
第6章 信託
第7章 組織再編成
第8章 M&Aと海外取引・外国子会社管理
第9章 企業不祥事
第10章 破産・倒産
第11章 消費税
第12章 その他の問題

【法人税】同族会社の行為計算否認と第三者割当増資

はじめに

 今回は、グループ法人税制回避のために行われた第三者割当増資において、同族会社の行為計算否認規定(後述)が適用されたケース(国税不服審判所平成28年1月6日裁決・TAINSコードF0-2-629)を取り上げたいと思います。

 このケースでは、従業員に対して行った第三者割当増資が、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為であり、当該割当増資によって、法人税法61条の13の適用要件(完全支配関係)を不充足とすることで譲渡損失額を損金算入したことが、法人税法132条(同族会社の行為計算否認規定)に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となるものに該当するため、税法上、当該同族会社が行った行為は否認され、課税される結果になりました。

 このケースは、数年前の事案であり、その間、グループ法人税制もグループ通算制度へと推移しています。それでもなお、同族会社の行為計算否認規定の適否について考えるうえで有意義な裁決例であると考えられます。

事案の概要

 同族会社である審査請求人(請求人)は、A社との間に完全支配関係がありましたが、平成22年12月27日、従業員(1名)に対する第三者割当増資を行い、その結果、請求人との問に完全支配関係を有しないこととなったA社に対し、譲渡損益調整資産を譲渡し、当該譲渡に係る譲渡利益額と譲渡損失額の差額を損金の額に算入して申告しました。

 これに対して、原処分庁は、法人税法132条1項の規定(同族会社等の行為又は計算の否認規定)を適用して、上記第三者割当増資を否認し、請求人とA社との間には完全支配関係があるとして、同法61条の13第1項の規定に基づき、その損金算入額等を否認(損金算入額等の繰延処理)して更正処分等をしました。

 これに対し、請求人が、同法132条1項の適用要件を欠くとして、原処分の全部の取消しを求めた事案です。

 なお、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入され、法人税法61条の13第1項では、内国法人が(平成22年10月1日以後に)その有する譲渡損益調整資産を完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、当該譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額をないものとみなし、課税関係を繰り延べることとされていました。本件で、審査請求人は、譲渡実施時に、完全支配関係を有さない状況にあったため、このグループ法人税制から外れる取引をしたのです。

裁決の概要

 本裁決の判断内容においては、法人税法132条の適用に関する法令解釈がまずもって重要になってきます。

 この点について、本裁決は、先行して出された東京高裁平成27年3月25日判決(国側敗訴。最高裁平成28年2月18日不受理決定)において示された判示事項を踏まえて、法人税法132条の不当性の判断基準及びその判断要素(租税回避目的の必要性)について、次のとおり判断しています。

 すなわち、不当性の判断基準については、同条1項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」であるか否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解するのが相当であるとしました。

 そして、不当性の判断要素(租税回避目的の必要性)については、同条1項は、否認の要件として、同族会社の「行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ことを必要としているにとどまり、その文理上、否認対象となる同族会社の行為又は計算が専ら租税回避目的でされたことを必要としておらず、同項の趣旨に照らしても、同族会社の行為又は計算の目的ないし意図が考慮されることはあるが、他方で、請求人が主張するように、専ら租税回避目的と認められることを常に必要とすべき理由はない、としました。

 これに対し、審査請求人は、従業員に対して第三者割当増資(本件割当増資)したことにより取得条項付株式を発行したことに伴って、審査請求人との間に完全支配関係を有しないこととなった法人(A社)に対し、譲渡損益調整資産を譲渡し、これにより、当該譲渡に係る譲渡損失額を各事業年度の損金の額に算入したことについては、①請求人の税負担の軽減を講じつつ、種々の取引を行うこと自体は禁止されているものではないし、②本件割当増資は従業員の士気高揚という目的もあるなどとして、法人税法132条の規定の適用はできない旨主張しました。

 しかしながら、審判所は、詳細に事実を認定したうえで、まず、本件割当増資は、審査請求人の事業規模に照らして資金調達等の経済的効果はないに等しいと評価できるとしました。

 そもそも、第三者割当増資というものが、資金調達等の目的で行われるはずだという経済的な視点があり、その観点で見ると、本件割当増資における発行条件等(発行価額、取得条項)は、法人税法61条の13第1項の規定の適用を免れる観点から定められたものと認められるとしています。このことについて、経済的合理性の観点から、財産状況や経営状態等を具体的に勘案した形跡がうかがわれないことから不合理性が裏付けられるとしています。発行状況も、募集事項の立案検討に関与した従業員一人のみに当該株式が発行され、同人以外の従業員には募集の周知すらしていないことも認定しています。

 審判所は、このような観点から、本件割当増資を、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理、不自然な行為であると言わざるを得ないと結論付け、本件割当増資によって、法人税法61条の13の適用要件である完全支配関係を不充足とすることにより、本来繰り延べられるべき譲渡損失額を損金の額に算入したと認定、このことは、法人税法132条に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となるものと認めることができるとしました。

寸評

 本裁決における事実認定については、第三者割当増資を行った目的や経緯及び実際に行った内容など、詳細に検討し、上記の法令解釈にあてはめて判断しています。結論としては妥当と言わざるを得ないでしょう。

 今回は第三者割当増資という形でしたが、同族会社間では節税策も考えつつ様々な取引に取り組もうとすることも多いと思います。同族会社における取引は、取引の条件や内容、更には財産状況や経営状態等を経済的合理性の観点から具体的に検討されることになりますので、税効果だけをみて取り組むことのないようにしたいものです。

 

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【国税不服審判所】令和2年度における審査請求の概要の公表

国税不服審判所が、令和2年度における審査請求の概要を公表しました(リンク)。

はじめに

国税不服審判所は、課税処分に不服のある納税者から審査請求を受け、公正な第三者的立場で、課税処分を取り消すか維持するか否かの判断をする裁決を行っています。
特に一般の相談ごとを受けていますと、まだまだ国税不服審判所という組織が一般に知られておらず、国税局などと同じ建物に入っていることもあり、裁判所と比較すると、果たして公正な立場で判断してくれるのか疑問を抱く方も少なくないようです。

国税不服審判所で勤務した経験のある元国税審判官という立場からすると、まだまだ周知・アピールが足りないのだなぁと再認識するとともに、裁判所が、一般には高い信頼が寄せられている組織なのだと改めて認識する次第です。一般には、おそらく租税裁判所という組織にしたほうが分かりやすいのかもしれません。

また、審査請求は、税務署長や国税局長などが行った処分に不服がある場合に、その処分の取消しや変更を求めて、不服を申し立てる制度ですが、これについても、1年内終局処理や印紙不要などのメリットがあることも十分に伝わっていないと感じます(ですので、弊所では、丁寧に説明したり、さまざまなところでメリットをアピールしたりしています)。

 

令和2年度の状況

ところで、国税不服審判所は、納税者の利益救済のため、標準審理期間を1年と定めていて、これをかなり重要視しています。
しかし、令和2年度(令和3年3月末度)は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、審査請求の1年以内の処理件数割合は83.5%となりました。これは、一般には大したニュースでもないのですが、国税不服審判所としては大きなニュースです。

コロナ禍ということから、担当職員が交代で自宅勤務をすることで職場での密集を避けていたため、内部の会議すらままならず、審理が停滞したのが見て取れます。国税不服審判所内では、外で見る以上に、案件処理のための内部検討手続きが多く、また所内でも所長をはじめキーパーソンが出勤しない、あるいはコロナにかかるとなると、一気に案件が停滞してしまいます。

審査請求の件数は2,229件で、前年度より13.0%減少となりましたが、これも、コロナ禍により、そもそも調査件数が減っていることが影響していると思われます(査察案件も、件数が大きく減ったという報道もありました)。この状況は、令和3年度も続くものと思われます。

他方、処理件数のうち、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた件数(認容件数)は233件(一部認容168件、全部認容65件)で、その割合は10.0%となりました。処理件数の母数の中には、ある意味で苦情めいた案件も含まれていることから、この割合は、概ね、例年通りといっていいでしょう(令和元年度は認容割合13.2%)。権利救済機関としての機能はコロナ禍にかかわらず(当たり前ですが・・・)きちんと果たしていたということでしょう。

 

令和3年度の状況

令和3年度においても、引き続き標準審理期間が低下することは大いに考えられます。年度後半には、ワクチンの接種も進み、徐々に自宅勤務体制も変わってくるものと思われ、どこまで令和4年3月末までに追い込みをかけられるかにかかっているといえるでしょう。

案件数は、さらに低下する可能性があります。これは調査件数が減っているためで、調査も少なければ不服の生じる処分も少なくなることから、やむを得ない帰結です。
他方で、色んな形で世の中に金がダブついており、不動産取引、金融取引も引き続き盛んであることからすると、これらに関する処分や、ここ近年盛んであったインバウンド関係の調査・処分は、調査件数の復調とともに、事件化してくるものと思われます。他方で、コロナ禍のあおりを受けた飲食・接客業や遊技場などについては(調査妙味が少なく)件数は減るように思われます。
また、税務署・国税局が、限られた人員で、手堅い案件をしっかり調査したうえで課税処分するうちは、税務署・国税局側の無理・拙速な調査による処分が減り、結果的に、案件数とともに認容件数が減ることにもつながりそうです。

 

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【ベンチャー投資】J-KISSなどコンバーティブル・エクイティの法務と税務

はじめに

 ベンチャー企業、とくにスタートアップ企業が、シードマネーをコンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートで調達する場合があります。

 今回は、これらの発行に関する税務について触れてみたいと思います。

コンバーティブル・エクイティ/コンバーティブル・ノート

 コンバーティブル・エクイティもコンバーティブル・ノートも、米国のスタートアップ界を舞台に発展してきた資金調達手法ですが、日本法における整理としては、コンバーティブル・エクイティは新株予約権、コンバーティブル・ノートは新株予約権付社債となります。

 これらの資金調達手法は、近年、日本でも、ひな形が整ってきたことから(コンバーティブル・エクイティにおける「J-KISS」や「SAFE」など)、日本のスタートアップにおいてもしばしば用いられています 。

 コンバーティブル・ノートについては、転換社債やワラント債などとして古くからあるものですが、社債である以上、返済する義務がありますので、スタートアップなどベンチャー企業の文脈ではコンバーティブル・エクイティのほうが好まれます。

 コンバーティブル・エクイティもコンバーティブル・ノートも、発行後に会社が一定の条件を達成すれば、権利行使されて、普通株式等に転換されるという転換条項のあるもので、シードマネー調達の場合は、この条件は、発行後に行われる一定額以上の資金調達、すなわち適格資金調達とされます。

 シリーズAなどによる発行後の適格資金調達の金額が大きくなればなるほど、コンバーティブル・エクイティ等の投資家が得られる普通株式等(シリーズAの投資家が引き受ける種類と同じ種類の株式)は多くなります。また、投資家を誘引するため、転換価額にディスカウント率を設定し、転換時に株式数を多めに交付する条件とすることも行われています。

 なお、公表されているひな形を用いるなどして簡便な資金調達手段とみられるコンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートですが、会社法上の新株予約権または社債についての規制を受けるとともに、投資家が多くなる場合は、金融商品取引法上の開示規制も検討する必要があります。

コンバーティブル・エクイティ/コンバーティブル・ノートの税務

 発行体として、会社は、発行価額ないし払込価額を、コンバーティブル・エクイティについては純資産(新株予約権)として、コンバーティブル・ノートについては負債として認識します。

 発行時には資本等取引(法人税法22条5項)として法人税課税は生じません。
 権利行使時の会計処理としては、コンバーティブル・エクイティについては行使価額1円などと設定されるため、発行時に計上された払込金額相当のコンバーティブル・エクイティ(新株予約権)と現預金1円とを、資本金等に振り替え、コンバーティブル・ノートについては社債を同額の資本金等の額に振り替えます 。
 なお、発行時、転換時には登録免許税がかかります。

 コンバーティブル・エクイティ等の取得者としては、コンバーティブル・エクイティについてもコンバーティブル・ノートについても有価証券の取得、譲渡と同様に処理されます。発行時、行使時に課税はありません。転換後の株式を譲渡した時に、得られた譲渡益に課税がなされます。

 

執筆:弁護士・税理士 永井 秀人

【役員報酬の税務】D&O保険料を会社が払う場合

はじめに

 会社の取締役などが損害賠償請求を起こされた場合に備えて、保険に入りたいというニーズがあります。そんな時に、会社が、その取締役のために、役員賠償責任保険(D&O保険)に加入することがあります。
 取締役のために、会社が保険料を支払うということになりますので、これは役員等に対する給与として見られてしまうのでしょうか。

D&O保険とは

 D&O保険とは、会社を保険契約者、役員等を被保険者とする責任保険です。

 もし、会社の役員などがその地位に基づいて損害賠償請求を起こされた場合、その防御費用(訴訟費用や弁護士報酬など)と、敗訴したときの責任額を填補するものです。

 D&O保険の基本部分は、会社役員賠償責任保険普通保険約款です。この普通保険約款は、被保険者が会社の役員として行った業務上の行為に起因して、保険期間中に被保険者に対して損害賠償請求がなされた場合、それによって被保険者が被った損害(普通保険約款1条)のうち、法律上の損害賠償金および争訟費用をてん補するものです(普通保険約款2条)。

 D&O保険を利用することによって、会社の役員は、会社法429条の損害賠償責任を追及されることによる損害をてん補することができるようになります。

 なお、令和元年改正会社法430条の3(役員等がその職務の執行に関連して、損害賠償請求等の民事的請求や行政調査・刑事訴追等を受けた場合に、会社が役員等が被った損害賠償金や争訟費用等を負担する行為ーー会社補償ーーを定めたもの)は、施行前に既に締結済みのD&O保険に係る契約については適用されませんので注意が必要です(会社法の一部を改正する法律7条)。

D&O保険料の税法上の取扱い

 D&O保険料の税法上の取扱い、とりわけその保険料を会社が負担した場合の役員個人に対する課税については、法令解釈通達と文書回答事例で整理されています。

 まず、普通保険約款の部分については、第三者から役員に対し損害賠償請求がなされ、役員が損害賠償責任を負担する場合の、その危険を担保するための部分についても、また、役員勝訴の場合の争訟費用を担保する部分についても、これらに係る保険料を会社が負担したとしても、役員に対する経済的利益の供与はないといえると整理されています。このため、これらの部分については、役員個人に対する給与課税を行う必要はありません(通達)。

 これに対して、従来、株主代表訴訟の敗訴時担保特約を付けた場合の特約保険料については、会社が負担した場合には、役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税を要するとされていました(通達)。

 しかし、上記1で述べた改正もあり、①取締役会の承認、及び、②社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意または社外取締役全員の同意の取得という手続がなされていれ、会社が株主代表訴訟の敗訴時担保部分に係る保険料を負担したとしても、普通保険約款同様、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられると整理されました。このため、現在は、役員個人に対する給与課税を行う必要はなくなっています(回答事例)。

まとめ

 D&O保険を今後締結しようとする場合は、特約の内容に応じた処理をする必要があることは、従来通りですが、D&O保険の保険料を会社が支払っても、役員等に対する給与として見られてしまう場面は限定されています。通達や文書回答事例で整理された内容を踏まえ、税法上問題のない処理をする必要があります。

執筆: 弁護士・税理士 永井 秀人

【お知らせ】関西タックスロイヤーズへの参画

リーズ法律事務所・弁護士 永井 秀人は、主に関西地方で、税法を中心に取り組んでいる弁護士が事務所の垣根を越えてサービスを提供するための専門家集団「関西タックスロイヤーズ」に参画しています。

関西タックスロイヤーズでは、今般、ホームページを公開いたしました。

関西タックスロイヤーズ – 事務所の垣根を越えて専門知識、情報、経験、コネクションを集約し より的確でスピーディーな解決策を提供する、税理士・弁護士集団 (kansaitaxlawyers.com)

次のような事例で、とりわけ複雑・高度と思われる事案について、複数の専門家の見解を一度に聞いてみたいというご要望がありましたら、上記リンクのお問い合わせフォームからお知らせいただくか、弊所弁護士・永井秀人までご相談ください。

  • 組織再編
    不採算事業・資産について税務的なメリットを取って整理しつつ、次世代に譲りたい。
  • グループ会社間での取引等
    経営難に陥った子会社を売却し、残った債権を放棄したい。
  • 国際税務
    海外子会社の経費負担や開発した成果物の取り扱いについてどのように契約していいのか悩んでいる。
  • 税務訴訟・審査請求
    税務調査の結果行われた税務署の決定に納得がいかない。

是非「関西タックスロイヤーズ」にご期待ください。

【景品表示法】アフィリエイト広告を用いた販売業者への処分

はじめに

 景品表示法(景表法)は、事業者が、自己の供給する商品又は役務の取引について、実際よりも著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)や著しく有利であると誤認される表示(有利誤認表示)をしてはならないと定めています(法5条)。

 このため、表示してはならないとされる処分の対象者は、「事業者」であり、広告会社は該当しないとされていますが、アフィリエイト広告、つまりアフィリエイターの出す広告について、ASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)はともかく、事業者が景表法上の処分を受けるかどうか議論となっていました。

 これについて、消費者庁は、令和3年3月3日、株式会社T.Sコーポレーションに対し、アフィリエイターを用いた育毛剤の広告について優良誤認表示があったとして措置命令をした旨公表しました(https://www.caa.go.jp/notice/entry/023295/)。

 

T.Sコーポレーションに対する件(令和3年3月3日)

 消費者庁の認定によれば、

”(同社は)アフィリエイトプログラム を実現するシステムをサービスとして提供する「アフィリエイトサービスプロバイ ダー」と称する事業者を通じて、本件商品に係る本件アフィリエイトサイトの表示内容を自ら決定している。”(下線強調は執筆者)

とのことであり、事業者が表示内容を決定していたという点で、アフィリエイターの表示行為が、事業者の表示行為と同一視される事情があったことが決め手となり、消費者庁も、比較的容易に優良誤認を認めたといえそうです。

 なお、アフィリエイター自身は対象となっていません。もちろん、ASPも対象外です。

分析

総論

 過去には、消費者庁は、アフィリエイターは商品・サービスを自ら供給する者ではないので、景表法上の問題が生じることはないとしていたことがありました。

 しかし、近時、アフィリエイト広告の問題については、その広告手法が盛んになるにつれ、調査検討が進められてきていました。

 そのような折に、これまで消費者庁によるストレートな判断や処分が少ないところに発令された本件の措置命令は、今後の消費者庁の対応方針を見るうえで、一つの大きなヒントになると思われます。

 過去には、自社ウェブサイトの内容を踏まえた口コミ、ブログを作成させ、ウェブサイトへのハイパーリンクとともにアフィリエイトサイトに掲載させていたと認定して処分を行った事例があり、基本的に本件も同様の判断と思われますが、今回の件での記載ぶりは、「表示内容を自ら決定している」か否かがポイントである点を明確にしたように思われます。逆に、どのような点を捉えて、「表示内容を自ら決定している」としたのかは明らかではありません。

 なお、過去に埼玉県が発令した命令があります。

参考となる裁判例

 裁判所は、不当表示をした「事業者」について、何度か判断したことがあります。例えば、

”メーカー、卸売業者、小売事業者等いかなる生産・流通段階にある事業者かを問わず、一般消費者に伝達された表示内容を主体的に決定した事業者はもとより、当該表示内容を認識・認容し、自己の表示として使用することによって利益を得る事業者も、表示内容を間接的に決定した者として、これに含まれると解するのが相当である。” (ビームス事件:東京高裁平成19年10月12日判決)

としたり、また、「事業者」とは、表示内容の決定に関与した事業者としたうえで、

”「表示内容の決定に関与した事業者」とは、「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず、「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。そして、上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは、他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい、また、上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは、自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。”(ベイクルーズ事件:東京高裁平成20年5月23日判決)

としたものがありました。

今回の措置命令から分かること

 今回の措置命令の判断は、これらの高裁判決の規範内容に照らしても、問題なく、”アフィリエイターの表示=販売業者の表示”と言える実態があり、T.S社が不当表示をした「事業者」と言うことのできた事例だったと思われます。

 逆に言うと、このような実態があれば、消費者庁はアフィリエイト広告でも積極的に措置命令をするというメッセージであるように読めます。

 このため、本件と同じ処分が、例えば、アフィリエイト広告を使って販売する販売業者すべてに言えるわけでは到底ありません。また、今回、「表示内容を自ら決定している」として処分されたことの裏返しで、表示内容を自ら決定せず、アフィリエイターに決定させていれば大丈夫かというと、そこは判断されていないため、断言はできません。自ら決定していなくても、アフィリエイターによる著しく優良であると示す表示を、販売業者が知っていて積極的に放置した場合は、どうでしょうか。

 コンプライアンスを遵守しようとする販売業者は、実質的にも、アフィリエイターの表示イコール販売業者の表示とみられないように注意しておくべきなのでしょう。

 少なくとも、アフィリエイターの表示イコール販売業者の表示とみられるかどうかは、事実、実態に即して検討されるはずです。したがって、例えば、広告内容の指導、監督状況、アフィリエイターとの接触頻度や態様、報酬の決定方法などが検討されるものと思われます。

 具体的には、なかなか難しい点もありますが、アフィリエイターを監督しない、きちんとしたASPを通すなどして、広告内容に積極的に関与したといわれないようにする。あまりに著しい内容にならないように、契約上、釘を刺しておく、責任分配をしておく。可能なら、報酬も完全成果報酬のようにせずに固定や緩やかにしておく、などの事前に対策できるところもあるのではないでしょうか。

発展(インフルエンサーを用いた企業案件) 

 商品やサービスをユーチューバーやインスタグラマーなど、インフルエンサーを用いて宣伝しようとするいわゆる企業案件についても、基本的には、以上の内容と同じことがいえます。

 企業がインフルエンサーと直接契約する場合も少なくありませんし、商品提供もなされますから、よりインフルエンサーの表示イコール販売業者の表示とみられる可能性を含む行為が行われそうです。

 これらの点については、まだ処分基準が明確ではない新しい広告分野です。だからといって、コンプライアンス上問題とならないわけではありません。以上で述べたアフィリエイト広告と同じ問題が生じうることを認識のうえで、取り組む必要があると思われます。

執筆: 弁護士 永井 秀人

(一部加筆修正を行いました)

【役員報酬の税務】役員が役員報酬とは別に経営指導料等を貰う場合

はじめに

ある役員が、役員報酬とは別に会社から金員を貰いたいと思う場合や、ある会社が(儲けたために)定額で定まった役員報酬とは別に、役員に何らかの金員を支給して損金を計上したいと考える場合があります。

例えば、役員の一部が研究者も兼ねているなどして、会社から役員に対して、役員報酬とは別に、研究費や開発にかかるコンサルティング料を支給しようとする場合です。

認定賞与

役員の地位にある個人に対して、役員報酬や役員賞与以外の何らかの名目(経営指導料やコンサルティング料など)で報酬を出すことは技術的には考えられます。

しかし、役員の地位にある以上、会社の経営をしたり、職務上、事業部などに対して何らかの助言をしたりすることは当然です。
このため、通常、役員の地位にある個人が経営指導料やコンサルティング料などを受け取っていた場合、そのような金員は法人からの報酬そのものと考えられ、税務調査においては、税務当局から報酬や賞与と認定されることが多く見受けられます(いわゆる認定賞与)。

裁決にみる事例

国税不服審判所の裁決例を見ても、報酬や賞与と認定され、争った結果、棄却されている事例には事欠きません。

例えば、国税不服審判所昭和55年12月24日裁決(裁決事例集No.21・116頁)では、ゴルフ会員権の売買を事業とする法人において、役員に対して管理職給という名目で支払った金員について、審査請求人である法人は、役員個人に対し別途委任したゴルフ会員権の販売代理権の獲得等の業務の対価であると主張したものの、①まず、これらの業務を別途委任したことを証するに足りる証拠がないこと、②また、これらの業務に直接携わっていない管理職的地位にある使用人にも支給している事実があることから、これらの業務との対価性を欠く金員であると認められること、③仮に本件金員が業務の対価の名目で支払われたとしても、請求人の事業目的がゴルフ会員権の売買であることから、これらの業務そのものは、役員の業務執行の範囲に含まれ、これらの役員業務を含む役員業務一般に対する対価として支給されたとみられることから、本件金員は賞与と認定されています。

考え方

そうすると、役員の地位にある者が、役員報酬や役員賞与以外に何らかの名目で報酬を受け、損金算入が認められることはないのでしょうか。

結論としては、認められる可能性はあると考えます。例えば、弁護士や税理士資格を有する役員が、法人から役員報酬とは別に弁護士・税理士業務に係る報酬を受け取ることはありえますし、この場合賞与と認定されることはないように思われます。

問題は、認定賞与とされるか否かの限界点、閾値です。

私見では、その役員の経歴・経験及び属性、報酬を受けようとする事務内容(の横展開可能性)、法人の現在及び将来の事業内容、それら各内容の関連性ないし独立性などを基礎に、客観的視点から決せられるように思われます。つまり、外から見たとき、報酬を受けようとする事務内容が法人における役員の業務内容と見られるものか否かによって決せられるように思われるのです。

役員の地位にある者が、法人の現在進出している分野又は今後進出しようとする業務分野とは関連性の低い職域・分野に秀でており、その分野における知識や技能を基礎に、法人に対してサービスを提供するというような場合があれば、その者に対する報酬は、客観的にみて、単なる外部者から受けたサービスに対する報酬とみることができるでしょう。
もっとも、あまりにも法人と事業関連性が低いとして、経費性が否認されない程度のものである必要はあります。

発展

例えば、同族会社によくみられる認定賞与の問題もあります。

国税不服審判所平成4年11月18日裁決(裁決事例集No.44・234頁)では、審査請求人である同族会社が、代表取締役の長男(大学在学中)に対し、給料名義の金員を支給していたところ、税務当局から、代表取締役に対する役員報酬、役員賞与と認定された事案で、①請求人は長男に対して従業員としての管理等をしておらず、長男が請求人に勤務した事実も認められないこと、②請求人は代表取締役がその株式の過半数を所有する同族会社であり、代表取締役がその事業を主宰していること、③また、長男に対する給料名義の金員は、代表取締役の妻が受け取り、管理し、代表取締役の報酬等と併せて代表取締役の生活費等に充てられていたことなどから、本件金員は、代表取締役に対して支給された役員報酬、賞与であると認定しています。

同族会社では、より上記の認定賞与の閾値が問題となり、上記事例のように、受給者の経歴、経験、属性、業務内容等が証拠の有無とともに検討されることになると思われます。

まとめ

税務調査で指摘された場合は、多くの場合、立証や事実認定の問題となり、さらにはこれをどのように処理するといった問題が生じます。
このような報酬の支出を決定する場合には、あるいは税務調査で指摘された場合には、専門家に相談されることをお勧めします。

弁護士・税理士 永井 秀人