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【税務調査】調査で業務上横領等が発覚した場合(3・最終)

 税務調査について、概観してきましたが、最後に、税務調査を端緒にして役員や従業員の不正が発見された場合どうなるのか、という点について、突っ込んで検討してみたいと思います。非常に事案の多いところです。それだけ、調査担当者は、眼光紙背でよく調査先の資料を見ているということでもあります。

 従業員や役員による業務上横領等の不祥事に見舞われた会社・事業主は、その不祥事自体からも、心理的なダメージや社内の動揺など、相当マイナスの影響を受けているのですが、そのことのみならず、課税上も散々な目に遭う可能性があります

 

 

 

資産の流出

 本来会社に留保されていたであろう金員が流出したのですが、会社は本来得られるべきであった金員を得られなかったという資産の流出が大きな痛手となります。

 

本税

 なぜ横領が発生したのに税金がかかるのか、会社は損をしたのだから税金を返してもらえるのではないかと思う方もいると思います。

 しかし、税の世界ではそのようには考えません。横領された結果、本来申告されるべきであった所得が、過少に申告されていたと捉えられるのです。

 会社を例にとってみましょう。
 確かに、会社に横領による損失はあるでしょう。会社には「損金」が発生しています。
 しかし、その“見合い”で、会社は、従業員や役員に対する同額の損害賠償請求権を取得すると考え、その損害賠償請求権は「益金」としてカウントされてしまいます。つまり、横領損失というのはカウントされないのです。

 なお、損金と益金とを同時に計上することの是非がしばしば争点になります。
 この点について、裁判所や国税不服審判所、国税の考え方は、不法行為による損害賠償請求権については、通常、不法行為による損失が発生した時には同額の損害賠償請求権も発生、確定しているから、損金益金同時計上を原則としています。
 しかし、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難であるなどのため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような特段の事情(通常人を基準として、権利の存在、内容等を把握し得ず、権利行使ができないといえるような客観的状況といわれます)があれば、損害賠償請求権の額を損失が発生した事業年度の益金の額に算入しないとする例外的な取扱いも認めていますが(法人税基本通達2-1-43参照)、こと横領において、加害者を知ることが困難なような場合は少なく、権利内容も委任・雇用関係や不法行為に基づく損害賠償請求権であり、税務調査によって金額もはっきりしている。なかなか例外にあたるケースは少ないのではないでしょうか。

 したがって、原則的には、横領損失というのはカウントされず、本来申告されるべきであった所得を上乗せして、法人税を取られるだけ、ということになります。これは会社にとっては相当の痛手です。

 

過少申告加算税

 それだけではありません。会社は知らなかったにせよ、本来申告されるべきであった所得を、過少に申告していたことは事実です。ですので、過少申告加算税も取られます。

 

重加算税

 過少申告加算税にとどまりません。国税当局が重加算税をかけてくる場合が往々にしてあります(むしろ普通です)。

 オーナー兼代表取締役の会社や同族会社ではままあり得ることですが、代表自体が横領していた、会社了解のもとで役員が横領していた、会社が役員・使用人の横領を黙認していたような場合、会社は、隠ぺい又は仮装の行為により、本来申告されるべきであった所得を、きちんと申告していなかったのだからといわれて重加算税を課されることになります。会社(経営者)が気づいていなくても、経理担当の役員・従業員の横領行為であっても、重加算税を課されうる、というところがポイントです。

 特に、小規模な会社においては、監視監督機能を持たせるだけの人員を割くことができず、経理担当に対するウォッチが行き届かない場合があります。そうしたときに経理担当者の不正が税務調査で発覚し、その結果、重加算税まで課されるようなことがあるのです。それを気づいていなかった会社としては納得いかないことが多く、このため、紛争も多いところです。

 国税当局は、割とざっくりと、会社に監督義務懈怠があったことは、隠ぺい又は仮装があったと同視できる、というような見方をしてきます。

 もっとも、本来の理屈は、納税者が法人である場合、当該横領行為の行為者が代表者ではなく、法人の使用人であっても、その行為者(使用人)の業務実態によっては、その行為者の行為は法人の行為と同視できる。そうすると、仮に法人の代表者がその使用人の行為を知らなくとも、重加算税の対象となりえるというものです。

 この理屈は、裁判例・審判例でも認められていますので要注意です。仮に、争う場合は、その者の行為が法人の行為と同視できない事情(経理部門の重責になかったとか、)を積極的に主張していくことになります。

 例えば、公表事例から拾い上げると、次のような事例があります。

<同一視した事例>

  •  納税者本人の申告行為に重要な関係を有する部門(経理部門等)に所属し、相当な権限を有する地位(課長等)に就いている者の隠ぺい又は仮装の行為は、特段の事情がない限り、納税者本人の行為と同視すべきであり、重加算税の賦課決定処分は適法であるとした事例(国税不服審判所平成7年12月14日裁決)
  •  隠ぺい又は仮装の行為者は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、その役員又は家族等で経営に参画していると認められる者の行為は、法人の代表者がそれを知らなかった場合であっても、当該法人の行為と同一視されるべきところ、隠ぺい又は仮装の行為者である当該取締役は、請求人の取締役であり、かつ、仕入れに関する責任者と認められることから、請求人の代表者が隠ぺい又は仮装の事実を知っていたかどうかにかかわらず、当該取締役の行為は請求人の行為と同一視すべきであるとした事例(国税不服審判所平成13年11月1日裁決)
  •  経理担当者が金員を不正に利得するために行った架空減価償却費の計上や売上除外等の不正行為は、純粋に個人的な行為であり、納税者の行為と同視できないとの納税者主張に対して、従業員等の行為が納税者の行為と同視できるか否かの判断は、①その従業員等の地位・権限、②その従業員等の行為態様、③その従業員等に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断することが相当であるところ、経理担当者が重要な地位・権限を有していたなか、容易に判明する態様の不正を、代表者が請求書等を見ていたにもかかわらず看過していたという事情を総合考慮し、従業員等の行為を法人の行為と同視できるとして納税者に隠ぺい仮装を認めた事例(国税不服審判所平成29年12月1日裁決)。

<同一視しなかった事例>

  •  伝票操作をして消耗品費について架空計上していた法人について、詐取をした使用人は、工場資材課において職制上の重要な地位に従事したことがなく、経理帳簿の作成等の職務に従事したこともなかったから、単に資材の調達業務を分担する一使用人であった事情や、この使用人が、私的費用を詐取するために独断で取引先に依頼して伝票操作の元になった行為を実行し、法人側も偽装行為によってその行為を認識していなかった事情などを総合考慮して、法人(納税者)が取引内容の管理を怠って、仮装行為を発見できなかったことをもって、当該行為を請求人自身の行為と同視することはできないとした事例(国税不服審判所平成23年7月6日裁決)。

もし重加算税といわれたら

 後者のように処分が取り消された事例もあることですし、もし、従業員の行為が会社の行為と同視できないような事情があれば、積極的に争うべきでしょう。

 そのような事情がなければ・・・ペナルティとして、税額の35%又は40%が課されることになり、事業に大変な財政的ダメージを与えます。場合によっては、事業存続の危機にさらされることになります。

 

源泉徴収義務

 現預金の着服があった場合、会社が従業員・役員から回収しなければ、賞与(いわゆる認定賞与)や給与として見られ、その者の給与所得としてカウントされます。そうすると、会社は、その給与に関して源泉徴収義務を課されることもあります。

 例えば、社会福祉法人の理事長が理事会に無断で法人の資金を引き出して使い込んだ事案で、源泉所得税の納税告知処分と重加算税の賦課決定処分の適否が問題になった裁判例(仙台高裁平成16年 3月12日〔上告・不受理〕)があります。そこでは、

  •  法人代表者が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような法人代表者が、自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得、費消したと認められる場合には、その支出が当該法人代表者の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に、法人代表者がその地位及び権限(これに基づく法人に対する貢献などを含む。)に対して受けた給与であると推認することが許される。

とされており、会社に源泉徴収義務が課されるべき会社から役員に対する支出についても、

  •  いかなる源泉から生じたものであるか、適法な利得か不法な利得かを問わない包括的な利益移転行為をいうと解するべきである。

とされており、参考になります。

 

従業員・役員からの回収難

 また、従業員・役員に対する貸付として処理する場合もありますが、その場合にしても、往々にしてそのような従業員・役員は返済能力がなかったりしますので、貸倒れとして損失計上する場合もあります。貸倒れによる損失計上は、要件がありますので、その要件に当てはめて本当に損失計上できるかどうかについても、注意する必要があります。

 

報道

 横領などに限ったことではありませんが、重加算税が課せられると、マスコミ報道で「脱税」や「所得隠し」と表現されます。取引先や銀行、場合によってはマスコミ自体からの問い合わせに弁解する必要に迫られます。どのように対応するつもりなのか、資金繰りは大丈夫か、などさまざまな問いかけに応えなければなりません。

 

さいごに

 今回は、主に法人向けの税務調査で横領が発覚した場合を中心に解説してみました。

 上記のような事業基盤を揺るがすような大影響を避けるには、日ごろから、経営者自らも納税意識を高く持つことが大切であり、また、経理担当者に処理を委ねている場合でも、経理担当者に任せきりにせず、経営者自らその行為をチェックしたり、責任者に内部監査をさせたり、人事異動でローテーションしてみたり、さまざまな工夫を凝らして、チェック体制を構築して不正発見に努めることが大切となるでしょう。

 そして、万が一、税務調査で不正が見つかったような場合は、できるだけ早めに、調査対応に実績のある税理士や国税OB税理士、税務に詳しい弁護士などの専門家に相談するべきだと思われます。

(執筆:弁護士・税理士・元国税審判官 永井 秀人)

【税務調査】税務調査とはなにか(2)

 さて、国税局や税務署から納税者が受ける「税務調査」ですが、税務調査とはいったいなんでしょうか?

 今回は、前回に続き、税務調査について、とくに法人や個人事業主における税務調査の注意点について、深く堀りさげて解説していきたいと思います。

 

売上調査

 法人や個人事業主の所得に関する調査において、必ず問題となるのは、売上と原価、経費の問題です。

 

チェック項目

 このうち、売り上げについては、

 ・売上除外、計上漏れ、繰延べはないか。

 ・翌期に計上すべき赤字取引を当期に計上していないか。

 ・売上値引きの計上時期は妥当か。

といった点がチェックされることになります。そして、それらを確認するために、調査官は、受注から出荷、代金回収に至るまでの流れを質問したり、その流れに沿って、どのような帳簿にどのように記載し、どの時点で売上計上するのかを問いただしたりすることになります。

 その前提として、まずそもそも帳簿がきちんと出せることが重要です。消費税の観点からは特に重要です。調査時に帳簿や請求書等の提示がなければ、仕入税額控除が認められなくなる可能性があるからです(消費税法30条。参考:国税庁タックスアンサー(リンク))。そのうえで、調査官は、帳簿類を互いに突合したり、反面調査で他から把握した資料と突合したりして、正確性をチェックします。また、現金商売であれば、現金出納帳とレジの残高とをリアルに突合します。

 法人については、売上の計上時期が検討されることがあります。税法では、原則、製品等の引渡しがあった日とされていますので(法人税法22条の2第1項)、商品の移動状況(出荷、船積み、着荷、持ち込みなど)、相手方の検収の状況からみて、売上計上日が妥当か検討されます。
 もっとも、会計原則・会計慣行において、引渡しの日以外の日を基準として収益を認識する会計原則・会計慣行に従った処理を是認してきました。このような引渡し等の日以外の日に収益計上した場合への対応として、契約の効力が生ずる日もしくは資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日の属する事業年度において収益として経理したときは、これを認めることが明らかにされています(同第2項)。

 また、値引き、リベート、返金などがあれば、値引き等をしたあとの対価を引渡し時の価額として収益を計上しますが、それ以外にも、通達で細かく定められています。

 

対策

 調査を受ける法人は事前にどう対策をすればよいでしょうか?

 調査におけるチェック項目の裏返しですが、 帳簿類をきちんと備えておき、帳簿類などをもとに、発注から納品、代金決済までの流れを示し、その流れに即して実際の売上が計上されているかを説明できるようにしておくことです。

 また、売上計上に期ズレが生じていないか、常日頃から注意して見ておくのも良いでしょう。つまり翌期首付近の納品書等を確認しておくことで、納品日より前に前期の売上として計上すべきものを発見できます。

 

事例(棚卸調査)

 さて、ここからはより具体的な調査対象にフォーカスして、どういう調査がされるのかを検討していきたいと思います。

 取締役会などで経費削減、棚卸削減を指示されたとき、手っ取り早く過小な棚卸を報告することが行われてないでしょうか?(注:棚卸金額が少なくなると、売上原価が高く算出されますので、利益が少なくなることになり、所得金額を圧縮できます。)

 これは危険な行為です。にもかかわらず、経理部等に対して期末の棚卸報告する際に、数量を過少報告する行為は散見されます。

 

棚卸調査の進め方

 調査官は常に疑いの目で見ておりますので、期末棚卸に際して数量、その評価、評価損や廃棄損の計上の正確性や、廃棄されるべきものがきちんと廃棄されているかなどを常日頃からチェックする、チェックできる体制を作っておくことが大切です。

 棚卸調査にあたっては、棚卸の際の原始記録を確認するとともに、期末棚卸の実施方法、状況を聞いてきます。期末前後は特に要注意です。仕入の状況や単価もチェック項目です。

 税務当局は、法人の経理部だけではなく、必要と判断すれば、工場、支店等に臨場し現地確認するほか、従業員の方への聴き取り、棚卸の原票を確認するなどの調査を行います。

対策

 期末棚卸の際の原始記録は必ず保管する必要があります。原始記録から、決算書の期末棚卸高をどのように計算、集計したかというプロセスを説明できるようにすると良いでしょう。倉庫業者に預けている場合は、それもチェックしなければなりません。

 また、棚卸商品の単価の算定根拠、評価減の理由などを明らかにできるようにしておくとよいでしょう。

 

事例(機械類)

 大型プラント・機械などを導入する場合、減価償却、特別償却等の税の特典を受けられる場合があります。その場合には、税の特典に条件がありますので、機械の稼働状況など、その条件を満たしているか確認することが必要です。

 また、機械でいえば、修理・修繕の内容が改造になるような場合には、修理等にかかった費用を経費として認められず、資本的支出として減価償却を行う必要があるとされる場合もあります(参考:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm)。

 これらに通達等から外れた処理があれば、税務調査で指摘されることになります。

 

不正発見!

 さて、このようにして税務調査が行われ、不正が発見されることがあります。

 代表的なのは、

 ・売上金の着服(簿外取引、不自然な値引き・返品の処理)

 ・経費の水増し(架空経費計上、架空仕入、仕入の繰上げ計上)

です。

 例えば、交際費捻出のため、下請先と通謀して、架空の請求書、納品書を発行させ、いったん支払ったのち、一部を手数料として下請先に支払って、残りを現金で還流させる方法があります。また、架空ではなくても、実際の経費部分に水増しして請求をさせ、後日、現金で還流させる方法も同じです。

 調査担当者は、証憑類や請求書の不自然さ(手書き、番号の飛び、不自然に丸い数字など)や、不自然な現金払取引、単発の取引及び遠隔地との取引、期末に急に現れたりする取引などを、関心をもってみています。

  仮に、証拠書類の修正や改ざんなどを行った場合、たとえ修正・改ざんの当事者に悪意がなくても、隠ぺいや仮装とされることがあります。調査の際の資料提出にあたっては、安易に操作することなく提示、提出するべきでしょう。

 また、簿外取引・架空計上等は、役員や使用人の会社に対する業務上横領背任とみられることも少なくありません。「税務署のおかげで、社内不正が見つかった。それはそれでよかったかな・・・」と思うのもつかの間、会社を大変な事態が襲うことになるのです(業務上横領の大変な点については、次回に触れたいと思います)。

 

 今回は、やや掘り下げて税務調査について解説しました。税務調査でお悩みのかたは、当事務所の元国税審判官の弁護士・税理士までご相談ください。調査対応力に秀でた国税OB税理士とも連携し対応します。

(執筆:弁護士・税理士・元国税審判官 永井 秀人)

【税務調査】税務調査とはなにか(1)

 

 国税局や税務署から納税者が受ける「税務調査」ですが、税務調査とはいったいなんでしょうか?

 今回は税務調査の種類と内容について、なるべく分かりやすく説明したいと思います。

 

税務調査の種類と法的根拠

税務調査には、大きく分けて2種類あります。任意調査と強制調査です。

 

1 任意調査

 任意調査の法律上の根拠は、国税通則法74条の2にあります。国税局や税務署の職員は、質問調査権を認められています。

 質問調査権があるからといって、敷地内にドカドカと入ってきたり、金庫を開けたり、勝手にしてよいのでしょうか?任意調査の範囲は、どこまでなのかが問題となります。納税者側からいうと、どこまでが受忍義務なのかということになります。

 任意調査の範囲は、単に調査の対象となった納税者や、その帳簿等の書類などにとどまることなく、その関係者とその関係者の帳簿等の書類にも及んだり、その納税者の事業に関するものにも及んだりします。

 ですので、受忍義務は、比較的広い範囲にあるといえるでしょう。

 もっとも、強制調査とは異なります。意に反する場合、プライバシーが気になる場合には、いったん待ってもらって、税理士や弁護士の立会を求めるべきでしょう(※下記注)。

 よく目にするのは、任意で資料を取られ、パソコンのデータも一切合切取られるなど、存分に調査され、さらにはいろいろ事情も(有利不利含めて)聴取されてから、やっぱり疑問に思って専門家に依頼する、というパターンですが、場合によっては「手遅れ」という事態もあります。さらに、無駄に抵抗をしたり調査官と口論したりしたために、場合によっては手加減のない処分を打たれる事態もあります。

 あとで、あのような調査は任意の調査じゃないとか、処分がひどすぎるといって争っても、手遅れとなります。

 

2 強制調査

 強制調査の法律上の根拠は、国税犯則取締法1条にあります。憲法の保障がありますので、強制力の発動には、令状が必要です。

 令状があるので、強制的に、なんでも取っていきます。金庫も壊します。

 刑事事件化(罰金・懲役)が狙いですから、調べを受けるほうは大変です。

 しかし、刑事事件ということは、検察官が起訴するわけですから、刑事事件化するには、いわゆるマルサと呼ばれる税務職員(国税査察官)は、検察官を説得しないといけません。その意味で、非常に厳格に、脱税(ほ脱犯)の要件を充足しているかが、検討されることになり、査察官は、その要件充足性を検察官に示すために、大変な苦労(納税者からすると幅広く情報を収集されたり、資料・陳述を取られたり)をすることになります。要件充足性が厳格なため、刑事事件化できないこともあります。

 それゆえ、令状を持ったマルサよりも、令状なしの任意調査のもとで、大口・悪質事案を担当する資料調査課(いわゆるリョウチョウ)のほうが恐れられる場合があります(このあたりの詳細は、週刊ダイヤモンド2016年10/8号が分かりやすいでしょう)。

 

(注)執筆者の個人的な感覚では、税務署(調査担当者)の納税者本人に対する対応と、税理士に対する対応と、国税OB税理士に対する対応と、さらに弁護士に対する対応とには、明らかに違いがあります。国税庁が税理士の監督官庁でもあることに由来するのかもしれませんが、申告をした関与税理士に対する対応は、時に厳しいものがあります。他方、巷間言われるような、いわゆる試験組の税理士に対する対応と、国税の先輩であり、調査担当者も将来なるであろう国税OB税理士に対する対応とを比較すると、後者のほうが丁寧な気がするのは、執筆者だけではないでしょう。そして、弁護士に対する対応は、それらとはまた異なっていて、何をしでかすかわからない異質なものを見る目がある一方で、何を言われるかわからない紛争屋のイメージからでしょうか、丁寧かつ慎重な気がします。ちなみに、弁護士は、誰でも対応できるわけではなく、税理士登録をした弁護士か管轄国税局に通知をした弁護士(通知弁護士といいます)でなければ、税務調査対応や税務署での面談への同席などを拒否されます。したがって、執筆者個人としては、調査対応については、難しい事件であればあるほど、申告をした関与税理士のみならず、国税OB税理士や税務に長けた弁護士で応対するのが、一番効果的だと思っています。

 

任意調査の内容

 ここからは、納税者が一番遭遇しやすいであろう任意調査について、解説していきます。

 任意調査には、当たり前ですが、机上でやる調査と実地で行う調査があります。

 

1 机上調査

 国税当局の人的リソース、物的リソースには限りがあります。税務職員は、どこに調査に行くか決めなければなりません。

 オーソドックスな調査の端緒は、KSKシステム詳細)という、申告や納税に関するデータが入ったシステムから税務調査対象者の選定や滞納整理対象事案をピックアップするパターンです。ほかにも、匿名の投書が入ったり、一般のニュースをみたりしたなかから調査の端緒ができたりします。ですので、誰かに恨まれて国税に投書されるということは起こりうることです。

 このようにして、いろいろなところから集まってくる資料・情報(確定申告書や法人なら事業概況説明書など)を分析、検討して、調査対象を絞りこんでいきます。

 

2 実地調査

 一般には、きちんと予告したうえで納税者のもとに調査に入ります。悪質そうであれば、現金やマル秘資料を隠されたりすると困るので、無予告で調査に入ります。

 納税者が、複数の会社をいろいろな場所(納税地)に持っている場合など、必ずしも申告先の税務署ではなく、国税局や複数の税務署が連携して調査に入ります。銀行に行って、口座情報を調べたりもします。

 

任意調査のターゲット

 税務調査の目的は、不正発見です。不正とは何でしょうか。

 例えば、法人の場合は

  •  収益の除外
  •  費用の過大計上

 です。

 より具体的には、棚卸資産を除外していないか、仕入・人件費・経費等に架空計上がないか、役員関係の支出(交際費などは典型です。)に不自然なものがないか、などを見ていきます。

 なお、その過程で、従業員や役員の横領などの不正行為を見つけたり、組織ぐるみでリベートを支払ってそれを不正に処理していたことが見つかったりします(従業員等の不正の場合の問題点は、次回以降で触れたいと思います。)。

 

実地調査の方法(法人の場合)

 不正発見のために、どのように実地調査をするのでしょうか。実地調査は、どのように行われ、推移するのか、法人の例を挙げて見ていきます。

 法人の場合は、納税者の事務所に資料がたくさんありますから、内部証拠を基に調査を進めます。

 損益計算書や貸借対照表を分析したり、仕訳日記帳を分析したりして、前期との比較や、業種の平均値と比較して、イレギュラーな取引が見当たらないか、検討します。

 また、帳簿書類とその根拠となった書類とを突合したり、請求書などの証ひょう書類にあたったりして、取引記録が正確か、妥当かを検証し、不明な点については担当者に質問します。稟議書、会議資料、報告資料、メールなどの電子データ、メモ書き、付せんのチェックもあります。

 さらに、現物の在庫(倉庫)や、現預金などの数量(金庫)をチェックしたり質問したりします。

 これら法人内部での調査のみならず、取引先に行き、納税者との取引を確認する反面調査もします。

 

アドバイス(Takeaway)

 今回は、税務調査について概観しました。

 税務調査は、結構大変です。
 安易に納税者自らの力で対応しようとはせず、調査対応に実績のある税理士や国税OB税理士、税務に詳しい弁護士などの専門家に依頼するべきでしょう。

 特に、所得税・法人税では、

  •  複雑な取引をして申告していた場合
  •  仮想通貨・暗号資産、競馬など新規な取引や珍しい取引から所得を上げて申告していた場合
  •  経理処理や申告に経理代行会社や税理士を使っておらず、自社の経理担当が単独や少人数でそれらを行っている場合
  •  合併など組織再編を行った場合
  •  従業員や役員に不正があった場合
  •  海外との取引があって申告していた場合 など

 相続税・贈与税では、

  •  いわゆる富裕層に納税者が属している場合
  •  申告した税理士が相続税に詳しくなさそうであった場合
  •  海外資産を申告していた場合・していなかった場合
  •  故人が複雑な相続税対策をしていた場合
  •  故人がたくさんの預金口座を持っていた場合
  •  故人が同族会社を経営していた場合 など

には、当リーズ法律事務所の元国税審判官である弁護士・税理士 永井 秀人まで、ご遠慮なく、どんな不安でもご相談ください。
大阪、京都、神戸(兵庫)など関西エリアのみならず、東京・横浜など東京近郊、名古屋・東海エリア、西日本エリアにも対応実績を有しています。

(執筆 弁護士・税理士 永井 秀人)

【国際相続】ジョイント・アカウントの課税上の留意点(3)

 以前、ジョイント・テナンシーに関する課税上の留意点に触れました(第1回第2回)。今回は、国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・アカウントにかかわる相続時の課税上の留意点を取り上げます。

ジョイント・アカウント

 結論からいうと、ジョイント・アカウントも、生存者財産権や死亡時支払条項付である場合が多いと思います。その場合、ジョイント・テナンシーと同じです。
 順を追って説明します。
 
 さて、金融取引や人的交流の国際化によって、海外に銀行口座を残したまま死んだら、その相続はどうなるのでしょうか。
 特に、外国銀行のジョイント・アカウントの預金は、相続手続なしで、もう一人の共同名義人の財産となり、課税関係は生じないなんてことはあるのでしょうか。
 

日本における共有名義口座と民法(相続関係)の改正

 もし、日本法で共有名義の預金口座があった場合にはどうなるでしょうか。
 例えば、夫婦2名の共有である預金口座があり、夫が妻と娘を残して、遺言なく死亡した場合を想定してみましょう。
 まず、預金債権は可分債権なので、預金口座に入っている共有のお金のうち、1/2(夫の分)は、妻と娘がこれをそれぞれ1/2ずつ相続します。妻の分1/2は、そのまま妻のものです。
 その結果、預金全部のうち、妻が3/4、娘が1/4をとることになります。
 
 なお、預金も遺産分割対象となるということが、最高裁大法廷平成28年12月19日決定で判断され、これを前提とした民法(相続関係。いわゆる相続法)が改正されました。すなわち、相続人による預貯金債権の一部払い戻し(各債権×1/3×払戻人の法定相続分。金融機関当たり150万円まで)を可能とする改正です(改正後民法909条の2)。この改正は、令和元年7月1日に施行されます。
 

海外における共有名義口座

 閑話休題して、例えば、米国にあるジョイント・アカウントの預金について、検討してみたいと思います。
 預金口座がアメリカにあることで、故人は日本国籍で日本で亡くなっても、準拠法をどうするか、相続手続きをどうするかといった話になってきます。
 まず、日本国籍の被相続人が亡くなったとき、相続は、「被相続人の本国法によ(り)」(法適用通則法36)決せられ、本国法とは死亡時の国籍法であるため、日本法で規律されることになります。
もっとも、ジョイント・アカウントの預金債権が法的にどういうものと解するか、という財産的な側面は、アメリカの法律で解釈されることになります。
 
 では、例えば、アメリカの例えばUniform Probate Codeに準拠するハワイ州法などからすると、生存者財産権付ジョイント・アカウントの預金は、死んだら相手方が全部権利を有することになり、相続財産ではないことになりますが、日本人でもそういうことになるのでしょうか?
これについては、裁判例があります。
 

東京地判平26.7.8(請求棄却)

 故人(被相続人)が公正証書遺言で、金融資産の10分の6を先妻との子に、それ以外は後妻に相続させるとしていたところ、先妻の子(原告)が、後妻(被告)に対し、生存者財産権付ジョイントアカウントとなっている預金の10分の6を求めて訴えたものです。
 
 争点は、ハワイ州のジョイント・アカウントの預金が相続財産を構成するか?
というものでした。
 
 裁判所は、概要、次のように判断しています。
 被相続人が日本人なので、準拠法は日本である(法適用通則法36)が、預金契約という法律行為の準拠法はハワイ州法である(法適用通則法7、8)。
本件のジョイント・アカウントの預金は、銀行との預金契約やハワイ州の採用するUniform Probate Code(統一遺産管理法典)に照らして生存者財産権(survivorship)が認められ、相続の客体にならないものであるから、相続財産を構成しない。
 

相続手続き

 では、ハワイ州などアメリカでの相続手続はどうなるのでしょうか?
 一般に、ジョイント・アカウントで、生存者財産権付ジョイント・テナント(joint tenants with rights of survivorship; JTWROS)である旨の記載や、死亡時支払条項(POD)や死亡時移転条項(transfer on death; TOD)付のものは、生存者へ権利帰属することになります。Survivorshipのあるジョイント・テナンシー、トラスト(信託)と同様、プロベートは不要です。
 

日本での課税

 プロベートなしに無事相続した外国銀行の預金ですが、日本の相続税の申告は不要でしょうか?
 答えはおそらくノーです。
 
 すでに第2回(リンク)で述べたとおり、「対価を支払わないで利益を受けた場合」(相続税法9条)に該当し、みなし贈与と判断される可能性があります。
 国税不服審判所平27.8.4裁決において、生存者財産権付ジョイント・テナンシーで生存者(ジョイント・テナンツ)が受けた経済的利益をみなし贈与と判断されたこと、また、国税庁ウェブサイトの質疑応答事例(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/02/07.htm)において、みなし贈与と死因贈与とが併記されていることからすると、この例と同様に考え、いずれにせよ、相続税が課税される可能性があるのです。
 

まとめ

 したがって、例えば米国でこのようなジョイント・アカウントが問題になった場合の処理においても、生存者財産権付ジョイント・テナンシーと同様に処理するのが安全といえるでしょう。
 

(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)

 

~ リーズ法律事務所・永井秀人税理士事務所 では、海外投資、国際相続に関するお悩み、相談を受け付けております。お気軽にお尋ねください。~

【印紙税】印紙税の考え方(1)

はじめに

 印紙税法は、全部で24条しかない、短い法律です。しかし、実務上、文書の解釈もあり、時として実に悩ましい問題を生じさせます。

 今回から数回にわたり、なるべく分かりやすく、印紙税を解説したいと思います。

事例

 印紙は、高額の領収書などでよく目にすることが多いと思います。筆者の場合、M&Aのような取引においても目にすることがあります。合併や分割に関する契約書・計画書がそれです。ちなみに、かつて、たくさんのM&Aを手掛けている会社のデュー・ディリジェンス(法務精査)でこのような契約書を見たことがありますが、印紙が漏れていることに気づいた記憶があります。実は、弁護士も、税理士も、印紙についてはあまり詳しくない法分野なのです。

 もっとも、税務署の調査は、M&Aのような単発の取引に関する文書よりも、もっと反復性のある取引に関する契約書をターゲットにしてくることが多いです。日々の取引、業務で作られる文書で、何度も何度も印紙貼付を忘れていて、それが何年も続いているのが税務署にとっては望ましいのです。一つひとつの文書に貼るべきであった印紙は少額でも、何年分も同じ書類が、各地の支店や営業所で累積することによって、時に1,000万円単位の過怠税が課せられる結果になることがあります。

 ニュースでも、「葬儀申込書」という一見印紙が必要そうに見えない書類や、「住宅ローン契約の申込書」といった複写式書類のお客様控えにも印紙が必要とされて課税された事案が報じられています。

 こういった事例をみると、印紙税はとっつきにくく感じさせられます。そこで、改めて、印紙税法の構造からみていきたいと思います。

印紙税法の構造

 文書には、印紙税が課税される文書と課税されない文書があります。課税文書と非課税文書又は不課税文書です。

 課税文書と非課税文書は、法律上、それぞれ限定列挙されています。

 課税文書といえるためには、いくつかの要件があります。

  1. 印紙税法別表第一の表の、20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されており(課税事項の記載)、
  2. その文書が課税事項を証明する目的で作成されており(証明目的)、
  3. 非課税文書に該当しない文書であること(非課税文書非該当

です。
 しかし、課税文書に該当するかどうかの判断には、難しいものがあります(この判断を一般に課否判定と呼んでいます)。なぜ難しいかというと、文書のタイトルで決められるのではなく、文書の内容を見て個別具体的に決せられるからです(後述します)。

 なお、非課税文書とは、それも印紙税法別表第一の表に記載のあるもの(例えば、5万円未満の領収書)や、代表的には、国が作るような文書です(なぜなら、国から印紙代が出費され、国にまた納税されることになり、意味がないからです)。

納税義務の発生(「作成」要件)

 ところで、例えば、課税文書を受け取ったら印紙がなかった。受け取った人が印紙を貼らなければならないのでしょうか?

 どこかおかしい気がします。なぜおかしいのかは、法律に、印紙を貼らなければならない納税義務者について、「作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある」と書いてあり(印紙税法3条)、「受領者」とは書いていないためです。

 課税される(正確には、納税義務が生じる)ためには、このように法律上要件があります。印紙税の納税義務は、課税文書を作成したときに、作成者に生じます。

 この「作成」行為は、必ずしも、一般にイメージする文書を作る行為をいうのではなく、課税事項を記載して文書の目的に従って行使することをいいます。

 例えば、交付する目的で作成される課税文書(一番の典型例は、5万円以上の領収書です。法的には「受取書」といいます)は、文書の「交付」が「作成」となります。ですので、領収書を作って、交付しない段階では、文書の目的に従った行使がないことになりますので、「作成」がなく、印紙を貼っていなくてもよいことになりますが、交付時には印紙を貼っていないといけないことになります。

 また、例えば、契約当事者の意思の合致を証明するために作成される文書は、意思の合致の「証明」が「作成」となります。より具体的にいうと、契約書を締結する際、契約の署名欄の冒頭に、よく「上記契約成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保持する・・・」などという記載があると思いますが、意思の合致の証明が明確に表されている部分です。請負契約書などであれば、そのような文言に基づき、記名捺印したときに、文書の目的に従った行使があったといえるでしょう。

小括

 今回は、印紙税の課せられる要件を中心に解説しました。次回はより具体的に解説していたいと思います。

(弁護士・税理士 永井 秀人)

【お知らせ】経営革新等支援機関として認定されました(弁護士平松亜矢子)

お知らせ

 リーズ法律事務所の弁護士 平松亜矢子が経営革新等支援機関として認定されました(認定番号105327008405)。

経営革新等支援機関について

 経営革新等支援機関(単に認定支援機関ともいいます。)とは、国が、中小企業・小規模事業者のために、国が認めた、税務、金融及び企業の財務に関する専門的知識を有し、経営革新計画の策定等の業務について一定の経験年数を持っている弁護士、税理士、公認会計士、金融機関などを、いわば中小企業支援のプロとして認定するものです。

具体的な取り組みや助成金について

 認定支援機関は、経営の状況に関する調査・分析を行い、事業計画(経営改善計画、資金計画、マーケティング戦略計画等)の策定支援、事業計画の実行支援を行います。
 とくに、中小企業・小規模事業者の経営改善(売上増等)や創業、新事業展開、事業再生等の中小企業・小規模事業者の抱える課題全般に係る助言を行います。その際、認定支援機関は、中小企業等支援施策の効果の向上のため、補助金、融資制度等を活用したい中小企業の支援を行います。

 詳細な説明は、こちらをご覧ください。

リーズ法律事務所のかかわり

 事業承継税制の特例の認定のご相談、事業計画(経営改善計画、資金計画、マーケティング戦略計画等)の策定支援、事業計画の実行支援、事業売却やM&A業務、幅広い事業承継・相続のご相談は、リーズ法律事務所の弁護士・税理士までお気軽にご相談ください。なお、費用については、顧問契約による顧問料ないしタイムチャージで承っております(金額は顧客先の属性・環境に応じ定めさせていただきます)。

 詳細については、リーズ法律事務所の弁護士・税理士にお問い合わせください。

【税務訴訟・審査請求】租税訴訟と租税不服申立(4・最終)


 今回も、前回に続き税務訴訟について解説したいと思います。

税務訴訟(後編)

(5)専門家意見書

 税務訴訟の場合、複雑な税法の解釈が問題となることも少なくありません。そのような場合、大学教授などの専門家の法律意見書の提出をすることがあります。
 被告国側は、比較的潤沢な予算と指定代理人陣営(法曹出身者や国税出身者がチームを組んで応対します。)を抱えており、(一見)強固な主張をしてきます。
 これに応対するためにも、原告納税者側も、強い武器を持たなければなりません。
 そのような場合、著名な専門家の法律意見書を用いるのです(筆者も、大学教授などに対して法律意見書を依頼したことがありますが、非常に快く引き受けてくださる先生方が多いです。)。
 ただ、学界でも意見が分かれるような争点に係る事案になると、被告側陣営も、著名な専門家の意見書で対峙することもあります(いわば意見書合戦となります。)。

(6)証拠

 税務訴訟の場合、裁判官は、審査請求における国税不服審判所の国税審判官と異なり、実務上、職権調査をすることはありません(行政事件訴訟の場合、裁判所は、行政事件訴訟法24条の規定のように、規定上は、当事者の証拠の申し出を待たずに職権で必要な証拠調べをすることはできます。)。

 このことが何を意味するのかといいますと、証拠は、原告納税者(あるいはその訴訟代理人)が集めなければならないということです。その意味でも、審査請求中の証拠閲覧と謄写手続は、訴訟を見据えても重要になるといえるでしょう。

 原告納税者が証拠を集める方法で、もちろん大切なのは、自ら収集するということです。例えば、不動産の評価が問題になるような事例で、いわば鑑定合戦になるような場合があります。そのような場合、原告納税者側も、不動産鑑定士に依頼するなどして、鑑定を得るようなことがあります(なお、裁判所が独自に不動産鑑定士に依頼して鑑定をすることは、あまりないようです。)。

 また、証拠には物証と人証(証人や当事者本人に対する尋問です。)がありますが、人証調べは、事実関係が争われている場合や、課税処分取消訴訟でしばしばみられるのですが、調査手続の違法性が争われている場合に行われます。租税訴訟の場合、税法の解釈が争われるだけの場合がありますので、その場合には人証調べが行われないことも多いです。

 それ以外に、証拠収集のメニューとして、次の3つの方法があります。

  • まず、銀行の取引履歴や官公署の保管書類などを入手したいとき、裁判所に対して申し立てることによって、裁判所に職権で調査を嘱託したり、文書の送付嘱託をすることです。
  • 2つ目は、しばしば相手方に対して行うことも多いのですが、裁判所から文書の所持者に対して、文書提出命令を発するよう申し立てることです。 
  • 3つ目は、裁判所の行う釈明処分(行政事件訴訟法23条の2)として、審査請求事件の記録を提出するように求めたり、送付嘱託したりするよう、裁判所に申し立てることです。

(7)判決

 1年、2年と戦ったあと、判決となります。一部でも納税者側が勝訴した勝訴率は10.0%(平成29年度国税庁発表。リンク)です。勝訴率5%を切る年(平成28年度)もあり、近年の最高勝訴率が13.4%(平成23年度)ですから、苦情めいた主張の訴訟が分母に含まれていることや、審査請求手続等で納税者勝訴(10%前後)があることを含め考慮したとしても、やはり課税庁(国)側は手ごわいといえるでしょう。

まとめ

 今回は、税務訴訟(租税訴訟)を検討しました。
 確かに、納税者勝訴率はさほど高くありませんが、よくあるのは、それまでの審査請求手続などでは納税者側が気付いていなかった点を指摘したり、まったく新しい切り口から迫ったりすることで、勝訴への道を切り拓くことは可能であると思います。本当に勝てるかどうかは専門家が精査して、見積もりや勝訴への筋道も考えたうえで、訴訟を提起したほうがいいでしょう。
 結局のところ、やはり、費用と時間は掛かるけれども、早期に専門家に委ねるのがベストであると思っています。

(弁護士・税理士 永井秀人)


【リーズ法律事務所では、国税不服審判所に国税審判官として勤務した弁護士・税理士が、納税者の方々の権利のために、税務訴訟や審査請求などの税務紛争、争いのある税務調査に積極的に関与しております。税務事件は実績ある専門家の早期関与が大切です。お気軽にご相談ください。】

【税務訴訟・審査請求】租税訴訟と租税不服申立(3)


 前回(こちら)、前々回(こちら)では行政不服申立手続、特に審査請求手続について解説しました。今回と次回とで、税務訴訟について解説したいと思います。

 

税務訴訟の手続(前編)

(1)訴えの提起

 税務訴訟(租税訴訟ともいいます。)は、納税者を原告、国を被告とする行政訴訟です。納税者は、国を被告とする訴状を管轄する地方裁判所に提出します。
 税務訴訟は、典型的には課税処分の取消訴訟であり、この取消訴訟は、審査請求手続を経たものである場合、国税不服審判所の裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければなりません(これを出訴期間といいます。行政事件訴訟法14条1項本文)。通常、「知った日」とは、裁決書謄本の送達を受けた日です。災害などにあって、正当な理由で出訴期間を徒過した場合は、出訴が許される場合もあります(同項ただし書)。

 訴訟は、東京地裁か、課税処分をした行政庁(税務署長等)の所在地を管轄する地方裁判所や、そこを管轄する高裁の所在地を管轄する地方裁判所に提起できます(行政事件訴訟法12条1項、4項)。なお、東京地裁には行政専門部があり、大阪地裁をはじめ全国主要都市の地裁には行政事件の集中部があります(参考リンク)。
 
 訴訟を担当する地裁の担当部では、形式的な審査がなされます。審査項目は、訴状に必要な印紙が貼ってあるか、出訴期間が過ぎていないか、審査請求がされたか、などです。

(2)訴状

 訴状に必ず記載されなければならないものには、請求の趣旨と請求の原因があります。

 請求の趣旨では、訴えによって求める判決内容を記載します。

 請求の原因では、訴えの対象となる課税処分の存在と、その取消しを求めることを記載したり、そのほか、請求を根拠づける様々な事実、事情を記載します。

 このほか、訴状には、印紙を貼らなければなりません。
 課税処分取消訴訟では、本税額を訴額として、これを基礎に印紙の金額を計算することになります。加算税に関する賦課決定取消請求については、印紙の金額の計算上、訴額に含まれないとされています。また、青色申告承認取消処分については、訴額の算定が困難なものですので、法律上、訴額を160万円とすることになっています。

(3)税理士補佐人 

 税務訴訟では、税理士が、裁判所において補佐人として弁護士である訴訟代理人とともに、出頭し、陳述をすることができます(税理士法2条の2第1項)。
 税理士は、租税に関するエキスパートですし、税務訴訟は、税法の解釈のみならず不動産などの資産の評価が問題になる場面も多く、裁判所において、専門的見地から陳述(主張)することが認められているのです。

(4)答弁書と口頭弁論期日

 訴状が送達されると、被告である国は、指定代理人と呼ばれる被告の代理人を指定し、指定代理人らは答弁書を作成、提出します。答弁書提出後、第1回口頭弁論期日が開かれます。第1回口頭弁論期日は、だいたい、訴状受理から1か月~2か月後になります。

 口頭弁論期日は、審査請求手続と異なり、公開の法廷で行われます。もっとも、事実関係や法律関係が複雑なものについては、非公開の弁論準備手続に付されることがあります。
 このようにして、第1回口頭弁論期日から、何度かにわたり期日が開かれることになります。

 再調査の請求手続や国税不服審判所における審査請求手続では、標準審理期間として、それぞれ3か月、1年の期間が設けられ、基本的にこれらの期間は守られていることは、以前解説しました(リンク)。
 しかし、裁判手続では、このような期間の目安はありません。税務問題、税務訴訟は、税法の難しさや計算過程が関連することなどから、しばしば1年超、複雑な事件では3、4年と長期化する傾向にあります。


 次回も続けて、税務訴訟(後編)について取り上げたいと思います。

(弁護士・税理士 永井秀人)


【リーズ法律事務所では、国税不服審判所に国税審判官として勤務した弁護士・税理士が、納税者の方々の権利のために、税務訴訟や審査請求などの税務紛争、争いのある税務調査に積極的に関与しております。税務事件は実績ある専門家の早期関与が大切です。お気軽にご相談ください。】

【国際相続】ジョイント・テナンシー等の課税上の留意点(2)

 前回同様、国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・テナンシーにかかわる相続時の課税上の留意点を取り上げます。

ジョイントテナンシーの相続時の留意点

 例えば、故人(被相続人)が、米国の例えばニューヨーク州やハワイ州にある土地を、right of survivorship(生存者財産権)付ジョイント・テナンシーの形態で所有していた場合、死後、土地に関する権利は、他方のジョイント・テナンツ(典型的には配偶者)に帰属することになります。
 では、故人の配偶者など、他方のジョイント・テナンツが、相続人だったときに、日本の相続税法上、どのように課税関係が発生するのでしょうか。
 結論的には、相続税の課税対象になるといえます(次のような国税不服審判所における判断や国税庁の見解からすると、なかなか争っても難しいでしょう。)。

国税不服審判所平27.8.4裁決

 被相続人が、長女とともに、米国某州にジョイントテナンシーの形態で不動産を所有していたところ、被相続人の死亡により、長女に権利が帰属することになりました(なお、その後の遺産分割協議書には、当該不動産の記載はありませんでした。)。原処分庁(課税庁)は、死因贈与がなされたとして、当該不動産の現地鑑定評価による価額に長女の相続分2分の1を掛けて、相続税の課税価格に加算する更正処分をしたため、長女側が、相続税の課税価格に算入されるのはおかしいなどとして、争いになりました。

争点: 米国某州所在のジョイント・テナンシーの形態で所有していた不動産が相続税の課税価格に算入されるか

 審判所は、次のように判断しました。
 ジョイント・テナンシーの形態で所有は、日本民法における「合有」的ではあるがそのものではない。
 ジョイント・テナンツの一人が死亡したら、相続されず、サバイバーシップの原則(right of survivorship・生存者財産権)により生存者へ権利帰属する。
 それゆえ、「対価を支払わないで利益を受けた場合」(相続税法9条)に該当し、みなし贈与、となる。

分析: 

 審判所は、国税庁の従来見解(死因贈与)と異なる見解で判断しました。
 なお、この点、審判所が国税庁の通達と異なる判断をする場合には、国税通則法99条に規定されるように、審判所・国税庁間の”調整”が行われるのですが、従来見解は通達ではなく質疑応答事例であったため、このような調整は不要であったものと思われます。

 もっとも、みなし贈与であるとしても、いわゆる3年内贈与加算(相続税法19条1項)で、相続開始前3年以内の贈与については、贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額をもって、相続税の課税価格とみなすことになってしまいます。ですので、結局は、相続税が課税されてしまいます。

実務上の処理

 かつて国税庁は、ハワイ州におけるジョイント・テナンシーによる不動産所有について、ハワイ州法上の制度に基づく処理を尊重して、「当該資産は相続により取得したものとはいえないものの、その当初の取得時に実質的な死因贈与契約を締結したものとみることができるから、相続税が課税されるべき」としていました(上記審査請求における原処分庁側主張も同様です。)。
 しかし、上記国税不服審判所の裁決において、みなし贈与と判断されたことを受けてか、現在国税庁ウェブサイトで見ることのできる質疑応答事例(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/02/07.htm)においては、みなし贈与と死因贈与とが併記され、いずれにせよ相続税が課税されるとしています。
 この見解は、質問された事例に関して国税庁が回答したものにすぎませんが、実務上大きな指針となっているといえるでしょう。したがって、例えば米国のほかの州でジョイント・テナンシーが問題になった場合の処理においても、同様に処理するのが安全といえます。

ジョイント・テナンシーのまとめ

 このように、ジョイント・テナンシーの形態での不動産投資ないし不動産所有の際には、外国の制度上の便宜(プロベート手続の回避)にだけ目を向けるのではなく、日本側で、投資時にも相続時にも課税される可能性にも留意して、専門家のアドバイスのもと取り組まれたほうが良いでしょう。

 次回は、ジョイント・アカウントに関する留意点を検討したいと思います。

(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)

 

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【国際相続】ジョイント・テナンシー等の課税上の留意点(1)

 今回は、いわゆる国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・テナンシーやジョイント・アカウントにかかわる課税上の留意点を取り上げます。

はじめに

 近年、海外が身近になるにつれ、海外投資家や海外在住経験者(筆者もそうですが)などが、日本に住みながら、英米系の国、特に米国に対する不動産投資をするようになっています。その際、家族や夫婦で共有する場合が多く見られます。

 典型的なものは、ジョイント・テナンシー(合有不動産権)で不動産を購入したり、ジョイント・アカウントで銀行口座を作ったりすることかと思います。夫婦や親子で取り組むことで、相続時の、費用も時間も掛かる検認裁判(Probate)を避けるための法技術です。

 しかし、これらをめぐる課税については、別途少し慎重に考える必要があります。Probateの煩を避けたために、贈与税がかかるとしたら望ましくありません。今回は、課税上、どういうところに留意したらいいのか、公表された裁判例や国税不服審判所の裁決例から、簡単に検討してみたいと思います。

ジョイント・テナンシー

 ジョイント・テナンシー(joint tenancy)は、right of survivorship(生存者財産権)付き、すなわち一方が死亡した場合、他方が自動的に全部支配することになる権利の付いた不動産権です。ジョイント・テナントとしての権利は、譲渡可能ですが、遺贈や相続はできないとされています。

投資時の留意点

  1. 名古屋地判平成29年10月19日

     ジョイント・テナンシーの形式で不動産を購入した際に、妻(原告)に、半分の金銭的負担がなかったから、夫から妻に対して、経済的利益の移転があったとして、みなし贈与(相続税法9条)該当性が問題となったごく最近の事例です。

     裁判所は、課税庁の贈与税課税を極めてあっさりと認めました。論理は、こうです。

     夫妻はジョイント・テナンツとして、それぞれ2分の1の持分を有する。
     そうすると、不動産取得に際し、購入代金の全額を夫が出したことになるので、妻は、対価の支払なく、2分の1相当の経済的利益を得たということができる。
     このことからすると、「対価を支払わないで・・・利益を受けた場合」(相続税法9条)にあたるため、みなし贈与に該当する。

  2. 東京高判平成19年10月10日(一審:静岡地判平成19年3月23日の多くを引用)
     夫婦がカリフォルニアでジョイント・テナンシーの形式で不動産を購入し、その後、現地在住の子ども夫婦に贈与。3年以内に夫が死亡。夫が代金全部を出していたため、夫から妻への2分の1相当の贈与と、その後の子ども夫婦に対する贈与について、3年内贈与加算が問題となった事例です。
     裁判所は、名古屋地判と同じ論理で夫婦間のみなし贈与を認定し、さらに子ども夫婦に対する贈与についても認めています。

簡単なまとめ

 このように、投資にあたっては、両方がお金を出しあって購入するという(ある意味当たり前ですが)権利の内容と整合した資金の手当てが必要といえるでしょう。夫婦の一方など、共有相手に資金がない場合は、資金を貸し付けて実施することも考えられますが、その際には、金銭消費貸借契約書を整えて利息をもらうなどしておく必要があるでしょう。資力や返済能力以上に貸してしまうと、贈与ではないかとの印象を与えかねません。

 次回は、相続時の留意点を検討したいと思います。

(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)

 

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