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【組織再編の税務】 適格合併における繰越欠損金の引継ぎ(2)


 今回は、適格合併における繰越欠損金の引継ぎについて、解説してみたいと思います。

繰越欠損金とは?

 法人には事業年度がありますが、その各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が、当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額を「欠損金額」といいます(法人税法2条19号)。
 法人税法上、ある事業年度に出た欠損金を、翌事業年度以降に繰り越すことが認められており、この繰り越された欠損金が「繰越欠損金」です。

 欠損金を使おうとする(益金が出ている)ある事業年度の開始前10年以内の事業年度に生じた欠損金であれば、損金として使うことができます。つまり欠損金は、欠損金額が生じた翌事業年度から10年間繰り越すことができます(法人税法57条1項)。ただし、青色欠損金の繰戻し還付を受けていれば除かれます(同法80条。※注1)。

※注1: 欠損金といえば、今般のコロナ禍の対策として、青色欠損金の繰戻し還付制度(青色申告書を提出する法人に、確定申告書を提出する事業年度に生じた欠損金額がある場合には、その事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に欠損金額を繰り戻して法人税の還付を受けられる制度です)が、中小企業者等(資本金の額が1億円以下の法人など)のみならず、資本金の額が1億円超 10 億円以下の法人も利用可能となっています(→リンク)。

 

適格合併における繰越欠損金の引継ぎ

 なぜこのように繰越欠損金の引継ぎが認められたのでしょうか?

 誤解を恐れず、一言でいうと、大企業を中心とした企業グループのための優遇施策です。組織再編税制が整備されてきた一方で、企業側にグループで効率的な経営(やバブル崩壊後の負の遺産の解消)が求められるようになってきました。組織再編をより使いやすくし、欠損金を抱えたグループ会社を組織再編をする動機を与えようという目的から、合併後も繰越欠損金を引き継げるようにしよう、ということになりました。

 これにより、内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合,被合併法人が有する繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことが可能となりました(法人税法57条2項)。あくまで、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継ぐという形になっています(正確には、合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされます)。合併法人が繰越欠損金を抱えていた場合には認められませんので、要注意です(これには、税理士賠償請求訴訟が起きた事例がありますので追って解説します)。

 このように、他社の繰越欠損金を引き継ぐことができるのは合併だけであり、組織再編の中で合併を用いる大きなメリットの一つとなっています。親会社と子会社の合併、共通の親会社を有する子会社同士の合併で多く用いられています。

 

引継ぎのための要件

 繰越欠損金の引継には、要件が課されています。これらを満たせば、合併法人と被合併法人は、あたかも昔から一つの会社であったかのように見て、被合併法人の抱えていた繰越欠損金を引き継ぐことを認めることにしたのです(いわゆる、みなし共同事業要件)。

 具体的には、適格要件とは別に、下表のいずれかの要件を満たす必要があります。

 それぞれの要件について、さらなる要件や定義があります(例えば、事業、相互関連性、事業規模や継続性の図り方、特定役員の範囲あたりがポイントとなります)。ですので、具体的に取り組む場合には、上記各要件の中身について、当てはまっているかどうかを検討することになります。

 

引継ぎ制限規定

 以上のような繰越欠損金の引継ぎを無制限に認めると、合併を利用した租税回避が起こりえます。例えば、繰越欠損金を有する法人をグループ傘下に入れて、直ぐに合併をし、益金を圧縮するということが行われます。

 これを防ぐために、支配関係(50%超の資本関係)発生後5年経過していない法人との適格合併については、繰越欠損金の引継は制限されています(法人税法57条3項)(※注2)。

※注2: なお、これとは別途、租税回避防止策として、50%超の特定の株主によって支配される関係(特定支配関係)にある欠損等法人の欠損金を使おうとしても、繰越不適用とする制度があります。これは、広く欠損金の繰越控除の仕組みを利用し、欠損金を有する法人を買収した上で利益の見込まれる事業をその法人に移転することによって課税所得を圧縮するという租税回避行為を防止するため、欠損金を利用するための買収と認められる場合、5年支配関係がないなどの一定の事由に該当するときは、その買収された法人の欠損金の繰越控除を認めず、また資産の含み損を実現した場合の譲渡損失の損金算入についても制限しようとするものです(法人税法57条の2。財務省「平成18年度税制改正の解説」参照)


 次回は、これまで述べた点に関する事例を見ていきたいと思います。

 

~リーズ法律事務所では、M&A/組織再編について、法律的な視点のみならず税務的な視点からも、お客様のニーズに合わせたスキーム構築について助言しています。~

(執筆: 弁護士・税理士 永井 秀人)

【組織再編の税務】 適格合併における繰越欠損金の引継ぎ(1)

はじめに

ある企業グループにおいて、A社という会社の繰越欠損金を、別のグループ会社であるB社に取り込んで、B社の節税に使いたいというニーズが生じることがあります。

このときに使われるのが、「適格合併」です。

今回は、この適格合併を含む合併について、法律的な視点から、また税務的な視点から簡単に解説してみたいと思います。

合併とは

まず、合併とはなんでしょうか?

合併とは2以上の会社が一つの会社になることであり、合併には吸収合併と新設合併があります。
吸収合併は、消滅する会社が、その資産、負債、契約上の地位など権利義務の全部を、合併後存続する会社に承継させる合併をいい、新設合併は、2つ以上の会社が、その権利義務の全部を新設する会社に承継させる合併をいいます(会社法2条参照)。

合併は、1つの会社が消滅すると同時に、存続する会社にも多大な影響を与える重大な事項ですから、各会社においてきちんと会社法上の手続を踏まなければなりません。それぞれの株主の意向も基本的には無視できません。

また、業種によっては、許認可の問題も出てきますし、もっと規模の大きな会社同士の合併などになりますと独占禁止法の問題も出てきます。

さらに、合併の対価を決める必要があります。金銭とするのか、存続会社の株式とするのかなど、以下で触れる税法上の取り扱いも考慮しながら検討します。対価を決めるに際して、会社の価値を評価する必要があります。つまり、会社(の資産、負債などの権利義務関係)をどのように評価するのか、といった計数上の問題も生じます。

このように、合併は、他の組織再編同様、法的にも税務・会計的にも高度なものといえるでしょう。比較的大きな法律事務所や税理士法人などでM&Aの専門チームがあるのは、このためです。

合併の税法上の扱い

税法上、適格合併非適格合併があります。

原則は、非適格合併です。適格合併とされるには、税法上の一定の要件を満たしている必要があります。

非適格合併の場合(法人税法62条1項、2項)

合併による資産等は、時価によって譲渡されたものとして計算されます。

シンプルな事例を出すと次のとおりです。

非適格合併の効果は、租税を課される対象者毎に検討すると、次のとおりとなります。

  • 被合併法人
    合併により承継させる資産、負債を時価で譲渡したものとして、最終事業年度における譲渡損益を計算し、課税を受けることになります。
  • 合併法人
    合併により承継する資産、負債、契約上の地位など権利義務の全部について、時価で受け入れたことになります(法人税法62条1項)。
    ※ なお、被合併法人の利益積立金は承継されず、同法人の繰越欠損金の引継も認められません(後述)。
    ※ 合併法人の資本金等の額は、被合併法人の株主に交付した合併対価の時価の合計額分増加します。その際、のれん(法人税法上は、資産調整勘定)、負ののれん(同じく負債調整勘定)が生じる場合は、60か月定額法・残存価額ゼロで損金、益金に計上することになります(法人税法62条の8)。
  • 被合併法人の株主
    旧株式を失う代わりに、合併対価を取得します。この取得につき、みなし配当課税を受けます(所得税法25条1項1号、法人税法24条1項1号)。
    合併対価に合併法人の株式以外の財産が含まれる場合には、旧株式が、合併対価の額からみなし配当金額を控除した金額を、譲渡対価として譲渡されたものとして課税されます(法人税法61条の2第1項・第2項、租税特別措置法37条の10第3項)。

適格合併の場合(法人税法62条の2第1項)

非適格合併が原則とすると、適格合併は例外ということができます。

合併後も、移転資産に対する支配が(株式保有の形で)継続していること、すなわち移転資産に対する法人支配の継続を要件として、合併法人の資産・負債を帳簿価格のまま引き継ぐことができるとする制度、これが税法上「適格合併」とされる取り扱いです。

前述のシンプルな事例に基づくと、次のとおりです。

適格合併の具体的な要件は、次のとおりです。

  1. 100%グループ内(完全支配関係)で行われる合併
    ・金銭等不交付要件: すなわち株式以外の資産の交付がない合併であることが要件となります。
  2. 50%超100%未満グループ内(支配関係)で行われる合併
    ・金銭等不交付要件
    ・従業者引継要件 、従業者の80%以上が引き継がれていること
    ・事業継続要件:主要な事業が継続されること

適格合併の効果は、租税を課される対象者毎に検討すると、次のとおりとなります。

  • 被合併法人
    合併法人に対し、資産・負債を簿価で移転したものとして取り扱われ、合併に係る譲渡損益は発生しませんので(法人税法62条の2第1項)、課税は発生しません。
  • 合併法人
    課税は発生しません。
    資産及び負債を簿価で引き継がなければなりません(強制規定となっています。なお、一部の資産の含み損を利用した租税回避を行わせないために、特定資産譲渡等損失の損金不算入規制もあります(法人税法62条の7))。
    合併法人に資産調整勘定や負債調整勘定が計上されることはありません。
  • 被合併法人の株主
    課税は発生しません。

これらの効果をざっとまとめると、下記表のようになります。

 

ここまでが、合併の法律上・税法上の簡単な解説です。

次回は、適格合併における繰越欠損金の引継ぎについて、解説してみたいと思います。

 

~リーズ法律事務所では、M&A/組織再編について、法律的な視点のみならず税務的な視点からも、お客様のニーズに合わせたスキーム構築について助言しています。~

(執筆: 弁護士・税理士 永井 秀人)

令和元年度補正【事業承継補助金】

はじめに

令和元年度補正 事業承継補助金について、中小企業庁から発表がありました(特設サイト→こちら)。

基本的な要件は、過去の年度のものと変わりません。

対象となる「事業承継」

対象となる「事業承継」は、2つに分類されます。

Ⅰ型 後継者承継支援型

事業承継(事業再生を伴うものを含む)を行う個人及び中小企業等を対象としており、以下の全ての要件を満たすことが求められています。

  • 経営者の交代を契機として、経営革新等に取り組む、または事業転換に挑戦する者であること。
  • 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援等事業者により特定創業支援等事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者であること。
  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業を行う者であること。

なお、後継者承継支援型における承継者が法人の場合、事業譲渡や株式譲渡等による承継は対象となりません。

Ⅱ型 事業再編・事業統合支援型

事業再編・事業統合等を行う中小企業等を対象としており、以下の全ての要件を満たすことが求められています。

  • 事業再編・事業統合等を契機として、経営革新等に取り組む、または事業転換に挑戦する者であること。なお、後継者不在により、事業再編・事業統合等を行わなければ事業継続が困難になることが見込まれている者に限ります。
  • 産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援等事業者により特定創業支援等事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者であること。
  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業を行う者であること。

対象となる中小企業者等

以下の定義にあたる「中小企業者等」を対象としています。

業種分類 定 義
製造業その他(注1) 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社 又は 常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人事業主
卸売業 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社
又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主
小売業 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社
又は 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人事業主
サービス業(注2) 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社
又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主

(中小企業とはいえ、大企業の傘下になるなど大企業とみなされる場合の例外あり)
注1:ゴム製品製造業(一部を除く)は資本金3億円以下又は従業員900人以下
注2:旅館業は資本金 5 千万円以下又は従業員 200 人以下、ソフトウエア業・情報処理サービス業は資本金 3 億円以下又は従業員 300 人以下

補助対象者の代表的な要件

  1. 補助対象者は、上記「中小企業者等」である必要があります。
  2. 補助対象者は、日本国内に拠点もしくは居住地を置き、日本国内で事業を営む者である必要があります。
    ※個人事業主は、青色申告者であり、税務署の受領印が押印された確定申告書 B と所得税青色申告決算書の写しを提出できること
    ※外国籍でも可
  3. 補助対象者は、地域経済に貢献している中小企業者等であること。地域の雇用の維持、創出や地域の強みである技術、特産品で地域を支えるなど、地域経済に貢献している中小企業者等である必要があります。
    ※地域経済に貢献している例
    ・ 地域の雇用の維持、創出などにより地域経済に貢献している。
    ・ 所在する地域又は近隣地域からの仕入(域内仕入)が多い。
    ・ 地域の強み(技術、特産品、観光、スポーツ等)の活用に取り組んでいる。
    ・ 所在する地域又は近隣地域以外の地域への売上(域外販売)が多い(インバウンド等による域内需要の増加に伴う売上も含む)。
    ・ 新事業等に挑戦し、地域経済に貢献するプロジェクトにおいて中心的な役割を担っている。
    ・ 上記によらずその他、当該企業の成長が地域経済に波及効果をもたらし、地域経済の活性化につながる取組を行っている

補助対象経費

補助事業実施するために必要となる経費で、事務局が必要かつ適切と認めたものが補助対象経費と して対象となります。

以下の1~3の条件をすべて満たす経費である必要があります。

  1. 使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
  2. 承継者が交付決定日以降、補助事業期間内に契約・発注をおこない支払った経費(原則として、 被承継者が取り扱った経費は対象外)
  3. 補助事業期間完了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費

※交付決定日以前に発注(契約)を行っている経費は原則補助対象となりません。
※売上原価に相当すると事務局が判断する経費は補助対象となりません。
※M&A(事業再編・事業統合)費用、M&A(事業再編・事業統合)仲介手数料・デューデリジェンス 費用・コンサルティング費用等に相当すると事務局が判断する経費は補助対象となりません。

上記ホームページに詳細な例が掲げてあります。

補助上限額、補助率

補助対象者に交付する補助額は、補助対象経費の3分の2以内または2分の1以内とされています。

しかも、以下の表のとおりとなっています。なお、今年度は、I型の後継者承継支援型の補助金上限額が、例えば補助率2/3以内の場合、平成30年度第2次補正事業承継補助金200万円に比べて300万円にアップしています。


                           (出所:事業承継補助金事務局HP)

補助率を2/3以内にするには、以下の1又は2の要件を満たす申請である必要があります(形式的に要件を満たしても必ず2/3以内の補助率となるとは限りません)

  ①ベンチャー型事業承継枠にて2/3以内となる補助率要件→以下の要件を全て満たす場合

  • 新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、もしくは事業転換による新分野への進出を行う計画であること
  • 事務局が定める期間において従業員数を一定以上増加させる計画であること
  • 補助事業実施期間内において補助事業に直接従事する従業員を 1名以上雇い入れた事実が確認できること(なお、有期の雇用契約は本要件の対象としない。)

  ②生産性向上枠にて2/3以内となる補助率要件→以下の要件を満たす場合

  • 承継者が2017年4月 1日以降から交付申請日までの間に本補助事業において申請を行う事業と同一の内容で「先端設備等導入計画」又は「経営革新計画」いずれかの認定を受けてい ること

なお、補助金の交付は事業完了後の精算後の支払い(実費弁済)となりますので、補助事業は一次的には借入金等で必要な資金を自己調達するなどの対応をとる必要があります。

まとめ

以上に記載した各要件のほかにも、さまざまな要件や例外が設けられています。詳細は、上記ホームページに記載のある事業承継補助金事務局や、経営革新等認定支援機関(リーズ法律事務所の弁護士は支援機関となっています)に問い合わせください。

 

「資産承継セミナー」実施のご報告

リーズ法律事務所では、去る12月3日に、限定されたクライアント様・提携先士業様向けに「資産承継セミナー」を実施いたしました。

セミナーでは、世界的なファミリーオフィス・アドバイザーをお招きし、シンガポールを拠点とするファミリーオフィス・トラスト(信託)・資産承継について知見を深めました。

リーズ法律事務所では、引き続き、クライアントの皆さまやそのご家族の発展のために、海外投資、国内外で組成する信託・家族信託、事業承継、税務アドバイスを含む広範なプロフェッショナル・サービスを提供してまいります。

(代表弁護士・税理士 永井 秀人)

【税務調査】調査で業務上横領等が発覚した場合(3・最終)

 税務調査について、概観してきましたが、最後に、税務調査を端緒にして役員や従業員の不正が発見された場合どうなるのか、という点について、突っ込んで検討してみたいと思います。非常に事案の多いところです。それだけ、調査担当者は、眼光紙背でよく調査先の資料を見ているということでもあります。

 従業員や役員による業務上横領等の不祥事に見舞われた会社・事業主は、その不祥事自体からも、心理的なダメージや社内の動揺など、相当マイナスの影響を受けているのですが、そのことのみならず、課税上も散々な目に遭う可能性があります

 

 

 

資産の流出

 本来会社に留保されていたであろう金員が流出したのですが、会社は本来得られるべきであった金員を得られなかったという資産の流出が大きな痛手となります。

 

本税

 なぜ横領が発生したのに税金がかかるのか、会社は損をしたのだから税金を返してもらえるのではないかと思う方もいると思います。

 しかし、税の世界ではそのようには考えません。横領された結果、本来申告されるべきであった所得が、過少に申告されていたと捉えられるのです。

 会社を例にとってみましょう。
 確かに、会社に横領による損失はあるでしょう。会社には「損金」が発生しています。
 しかし、その“見合い”で、会社は、従業員や役員に対する同額の損害賠償請求権を取得すると考え、その損害賠償請求権は「益金」としてカウントされてしまいます。つまり、横領損失というのはカウントされないのです。

 なお、損金と益金とを同時に計上することの是非がしばしば争点になります。
 この点について、裁判所や国税不服審判所、国税の考え方は、不法行為による損害賠償請求権については、通常、不法行為による損失が発生した時には同額の損害賠償請求権も発生、確定しているから、損金益金同時計上を原則としています。
 しかし、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難であるなどのため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような特段の事情(通常人を基準として、権利の存在、内容等を把握し得ず、権利行使ができないといえるような客観的状況といわれます)があれば、損害賠償請求権の額を損失が発生した事業年度の益金の額に算入しないとする例外的な取扱いも認めていますが(法人税基本通達2-1-43参照)、こと横領において、加害者を知ることが困難なような場合は少なく、権利内容も委任・雇用関係や不法行為に基づく損害賠償請求権であり、税務調査によって金額もはっきりしている。なかなか例外にあたるケースは少ないのではないでしょうか。

 したがって、原則的には、横領損失というのはカウントされず、本来申告されるべきであった所得を上乗せして、法人税を取られるだけ、ということになります。これは会社にとっては相当の痛手です。

 

過少申告加算税

 それだけではありません。会社は知らなかったにせよ、本来申告されるべきであった所得を、過少に申告していたことは事実です。ですので、過少申告加算税も取られます。

 

重加算税

 過少申告加算税にとどまりません。国税当局が重加算税をかけてくる場合が往々にしてあります(むしろ普通です)。

 オーナー兼代表取締役の会社や同族会社ではままあり得ることですが、代表自体が横領していた、会社了解のもとで役員が横領していた、会社が役員・使用人の横領を黙認していたような場合、会社は、隠ぺい又は仮装の行為により、本来申告されるべきであった所得を、きちんと申告していなかったのだからといわれて重加算税を課されることになります。会社(経営者)が気づいていなくても、経理担当の役員・従業員の横領行為であっても、重加算税を課されうる、というところがポイントです。

 特に、小規模な会社においては、監視監督機能を持たせるだけの人員を割くことができず、経理担当に対するウォッチが行き届かない場合があります。そうしたときに経理担当者の不正が税務調査で発覚し、その結果、重加算税まで課されるようなことがあるのです。それを気づいていなかった会社としては納得いかないことが多く、このため、紛争も多いところです。

 国税当局は、割とざっくりと、会社に監督義務懈怠があったことは、隠ぺい又は仮装があったと同視できる、というような見方をしてきます。

 もっとも、本来の理屈は、納税者が法人である場合、当該横領行為の行為者が代表者ではなく、法人の使用人であっても、その行為者(使用人)の業務実態によっては、その行為者の行為は法人の行為と同視できる。そうすると、仮に法人の代表者がその使用人の行為を知らなくとも、重加算税の対象となりえるというものです。

 この理屈は、裁判例・審判例でも認められていますので要注意です。仮に、争う場合は、その者の行為が法人の行為と同視できない事情(経理部門の重責になかったとか、)を積極的に主張していくことになります。

 例えば、公表事例から拾い上げると、次のような事例があります。

<同一視した事例>

  •  納税者本人の申告行為に重要な関係を有する部門(経理部門等)に所属し、相当な権限を有する地位(課長等)に就いている者の隠ぺい又は仮装の行為は、特段の事情がない限り、納税者本人の行為と同視すべきであり、重加算税の賦課決定処分は適法であるとした事例(国税不服審判所平成7年12月14日裁決)
  •  隠ぺい又は仮装の行為者は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、その役員又は家族等で経営に参画していると認められる者の行為は、法人の代表者がそれを知らなかった場合であっても、当該法人の行為と同一視されるべきところ、隠ぺい又は仮装の行為者である当該取締役は、請求人の取締役であり、かつ、仕入れに関する責任者と認められることから、請求人の代表者が隠ぺい又は仮装の事実を知っていたかどうかにかかわらず、当該取締役の行為は請求人の行為と同一視すべきであるとした事例(国税不服審判所平成13年11月1日裁決)
  •  経理担当者が金員を不正に利得するために行った架空減価償却費の計上や売上除外等の不正行為は、純粋に個人的な行為であり、納税者の行為と同視できないとの納税者主張に対して、従業員等の行為が納税者の行為と同視できるか否かの判断は、①その従業員等の地位・権限、②その従業員等の行為態様、③その従業員等に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断することが相当であるところ、経理担当者が重要な地位・権限を有していたなか、容易に判明する態様の不正を、代表者が請求書等を見ていたにもかかわらず看過していたという事情を総合考慮し、従業員等の行為を法人の行為と同視できるとして納税者に隠ぺい仮装を認めた事例(国税不服審判所平成29年12月1日裁決)。

<同一視しなかった事例>

  •  伝票操作をして消耗品費について架空計上していた法人について、詐取をした使用人は、工場資材課において職制上の重要な地位に従事したことがなく、経理帳簿の作成等の職務に従事したこともなかったから、単に資材の調達業務を分担する一使用人であった事情や、この使用人が、私的費用を詐取するために独断で取引先に依頼して伝票操作の元になった行為を実行し、法人側も偽装行為によってその行為を認識していなかった事情などを総合考慮して、法人(納税者)が取引内容の管理を怠って、仮装行為を発見できなかったことをもって、当該行為を請求人自身の行為と同視することはできないとした事例(国税不服審判所平成23年7月6日裁決)。

もし重加算税といわれたら

 後者のように処分が取り消された事例もあることですし、もし、従業員の行為が会社の行為と同視できないような事情があれば、積極的に争うべきでしょう。

 そのような事情がなければ・・・ペナルティとして、税額の35%又は40%が課されることになり、事業に大変な財政的ダメージを与えます。場合によっては、事業存続の危機にさらされることになります。

 

源泉徴収義務

 現預金の着服があった場合、会社が従業員・役員から回収しなければ、賞与(いわゆる認定賞与)や給与として見られ、その者の給与所得としてカウントされます。そうすると、会社は、その給与に関して源泉徴収義務を課されることもあります。

 例えば、社会福祉法人の理事長が理事会に無断で法人の資金を引き出して使い込んだ事案で、源泉所得税の納税告知処分と重加算税の賦課決定処分の適否が問題になった裁判例(仙台高裁平成16年 3月12日〔上告・不受理〕)があります。そこでは、

  •  法人代表者が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような法人代表者が、自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得、費消したと認められる場合には、その支出が当該法人代表者の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に、法人代表者がその地位及び権限(これに基づく法人に対する貢献などを含む。)に対して受けた給与であると推認することが許される。

とされており、会社に源泉徴収義務が課されるべき会社から役員に対する支出についても、

  •  いかなる源泉から生じたものであるか、適法な利得か不法な利得かを問わない包括的な利益移転行為をいうと解するべきである。

とされており、参考になります。

 

従業員・役員からの回収難

 また、従業員・役員に対する貸付として処理する場合もありますが、その場合にしても、往々にしてそのような従業員・役員は返済能力がなかったりしますので、貸倒れとして損失計上する場合もあります。貸倒れによる損失計上は、要件がありますので、その要件に当てはめて本当に損失計上できるかどうかについても、注意する必要があります。

 

報道

 横領などに限ったことではありませんが、重加算税が課せられると、マスコミ報道で「脱税」や「所得隠し」と表現されます。取引先や銀行、場合によってはマスコミ自体からの問い合わせに弁解する必要に迫られます。どのように対応するつもりなのか、資金繰りは大丈夫か、などさまざまな問いかけに応えなければなりません。

 

さいごに

 今回は、主に法人向けの税務調査で横領が発覚した場合を中心に解説してみました。

 上記のような事業基盤を揺るがすような大影響を避けるには、日ごろから、経営者自らも納税意識を高く持つことが大切であり、また、経理担当者に処理を委ねている場合でも、経理担当者に任せきりにせず、経営者自らその行為をチェックしたり、責任者に内部監査をさせたり、人事異動でローテーションしてみたり、さまざまな工夫を凝らして、チェック体制を構築して不正発見に努めることが大切となるでしょう。

 そして、万が一、税務調査で不正が見つかったような場合は、できるだけ早めに、調査対応に実績のある税理士や国税OB税理士、税務に詳しい弁護士などの専門家に相談するべきだと思われます。

(執筆:弁護士・税理士・元国税審判官 永井 秀人)

【税務調査】税務調査とはなにか(2)

 さて、国税局や税務署から納税者が受ける「税務調査」ですが、税務調査とはいったいなんでしょうか?

 今回は、前回に続き、税務調査について、とくに法人や個人事業主における税務調査の注意点について、深く堀りさげて解説していきたいと思います。

 

売上調査

 法人や個人事業主の所得に関する調査において、必ず問題となるのは、売上と原価、経費の問題です。

 

チェック項目

 このうち、売り上げについては、

 ・売上除外、計上漏れ、繰延べはないか。

 ・翌期に計上すべき赤字取引を当期に計上していないか。

 ・売上値引きの計上時期は妥当か。

といった点がチェックされることになります。そして、それらを確認するために、調査官は、受注から出荷、代金回収に至るまでの流れを質問したり、その流れに沿って、どのような帳簿にどのように記載し、どの時点で売上計上するのかを問いただしたりすることになります。

 その前提として、まずそもそも帳簿がきちんと出せることが重要です。消費税の観点からは特に重要です。調査時に帳簿や請求書等の提示がなければ、仕入税額控除が認められなくなる可能性があるからです(消費税法30条。参考:国税庁タックスアンサー(リンク))。そのうえで、調査官は、帳簿類を互いに突合したり、反面調査で他から把握した資料と突合したりして、正確性をチェックします。また、現金商売であれば、現金出納帳とレジの残高とをリアルに突合します。

 法人については、売上の計上時期が検討されることがあります。税法では、原則、製品等の引渡しがあった日とされていますので(法人税法22条の2第1項)、商品の移動状況(出荷、船積み、着荷、持ち込みなど)、相手方の検収の状況からみて、売上計上日が妥当か検討されます。
 もっとも、会計原則・会計慣行において、引渡しの日以外の日を基準として収益を認識する会計原則・会計慣行に従った処理を是認してきました。このような引渡し等の日以外の日に収益計上した場合への対応として、契約の効力が生ずる日もしくは資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日の属する事業年度において収益として経理したときは、これを認めることが明らかにされています(同第2項)。

 また、値引き、リベート、返金などがあれば、値引き等をしたあとの対価を引渡し時の価額として収益を計上しますが、それ以外にも、通達で細かく定められています。

 

対策

 調査を受ける法人は事前にどう対策をすればよいでしょうか?

 調査におけるチェック項目の裏返しですが、 帳簿類をきちんと備えておき、帳簿類などをもとに、発注から納品、代金決済までの流れを示し、その流れに即して実際の売上が計上されているかを説明できるようにしておくことです。

 また、売上計上に期ズレが生じていないか、常日頃から注意して見ておくのも良いでしょう。つまり翌期首付近の納品書等を確認しておくことで、納品日より前に前期の売上として計上すべきものを発見できます。

 

事例(棚卸調査)

 さて、ここからはより具体的な調査対象にフォーカスして、どういう調査がされるのかを検討していきたいと思います。

 取締役会などで経費削減、棚卸削減を指示されたとき、手っ取り早く過小な棚卸を報告することが行われてないでしょうか?(注:棚卸金額が少なくなると、売上原価が高く算出されますので、利益が少なくなることになり、所得金額を圧縮できます。)

 これは危険な行為です。にもかかわらず、経理部等に対して期末の棚卸報告する際に、数量を過少報告する行為は散見されます。

 

棚卸調査の進め方

 調査官は常に疑いの目で見ておりますので、期末棚卸に際して数量、その評価、評価損や廃棄損の計上の正確性や、廃棄されるべきものがきちんと廃棄されているかなどを常日頃からチェックする、チェックできる体制を作っておくことが大切です。

 棚卸調査にあたっては、棚卸の際の原始記録を確認するとともに、期末棚卸の実施方法、状況を聞いてきます。期末前後は特に要注意です。仕入の状況や単価もチェック項目です。

 税務当局は、法人の経理部だけではなく、必要と判断すれば、工場、支店等に臨場し現地確認するほか、従業員の方への聴き取り、棚卸の原票を確認するなどの調査を行います。

対策

 期末棚卸の際の原始記録は必ず保管する必要があります。原始記録から、決算書の期末棚卸高をどのように計算、集計したかというプロセスを説明できるようにすると良いでしょう。倉庫業者に預けている場合は、それもチェックしなければなりません。

 また、棚卸商品の単価の算定根拠、評価減の理由などを明らかにできるようにしておくとよいでしょう。

 

事例(機械類)

 大型プラント・機械などを導入する場合、減価償却、特別償却等の税の特典を受けられる場合があります。その場合には、税の特典に条件がありますので、機械の稼働状況など、その条件を満たしているか確認することが必要です。

 また、機械でいえば、修理・修繕の内容が改造になるような場合には、修理等にかかった費用を経費として認められず、資本的支出として減価償却を行う必要があるとされる場合もあります(参考:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm)。

 これらに通達等から外れた処理があれば、税務調査で指摘されることになります。

 

不正発見!

 さて、このようにして税務調査が行われ、不正が発見されることがあります。

 代表的なのは、

 ・売上金の着服(簿外取引、不自然な値引き・返品の処理)

 ・経費の水増し(架空経費計上、架空仕入、仕入の繰上げ計上)

です。

 例えば、交際費捻出のため、下請先と通謀して、架空の請求書、納品書を発行させ、いったん支払ったのち、一部を手数料として下請先に支払って、残りを現金で還流させる方法があります。また、架空ではなくても、実際の経費部分に水増しして請求をさせ、後日、現金で還流させる方法も同じです。

 調査担当者は、証憑類や請求書の不自然さ(手書き、番号の飛び、不自然に丸い数字など)や、不自然な現金払取引、単発の取引及び遠隔地との取引、期末に急に現れたりする取引などを、関心をもってみています。

  仮に、証拠書類の修正や改ざんなどを行った場合、たとえ修正・改ざんの当事者に悪意がなくても、隠ぺいや仮装とされることがあります。調査の際の資料提出にあたっては、安易に操作することなく提示、提出するべきでしょう。

 また、簿外取引・架空計上等は、役員や使用人の会社に対する業務上横領背任とみられることも少なくありません。「税務署のおかげで、社内不正が見つかった。それはそれでよかったかな・・・」と思うのもつかの間、会社を大変な事態が襲うことになるのです(業務上横領の大変な点については、次回に触れたいと思います)。

 

 今回は、やや掘り下げて税務調査について解説しました。税務調査でお悩みのかたは、当事務所の元国税審判官の弁護士・税理士までご相談ください。調査対応力に秀でた国税OB税理士とも連携し対応します。

(執筆:弁護士・税理士・元国税審判官 永井 秀人)

【税務調査】税務調査とはなにか(1)

 

 国税局や税務署から納税者が受ける「税務調査」ですが、税務調査とはいったいなんでしょうか?

 今回は税務調査の種類と内容について、なるべく分かりやすく説明したいと思います。

 

税務調査の種類と法的根拠

税務調査には、大きく分けて2種類あります。任意調査と強制調査です。

 

1 任意調査

 任意調査の法律上の根拠は、国税通則法74条の2にあります。国税局や税務署の職員は、質問調査権を認められています。

 質問調査権があるからといって、敷地内にドカドカと入ってきたり、金庫を開けたり、勝手にしてよいのでしょうか?任意調査の範囲は、どこまでなのかが問題となります。納税者側からいうと、どこまでが受忍義務なのかということになります。

 任意調査の範囲は、単に調査の対象となった納税者や、その帳簿等の書類などにとどまることなく、その関係者とその関係者の帳簿等の書類にも及んだり、その納税者の事業に関するものにも及んだりします。

 ですので、受忍義務は、比較的広い範囲にあるといえるでしょう。

 もっとも、強制調査とは異なります。意に反する場合、プライバシーが気になる場合には、いったん待ってもらって、税理士や弁護士の立会を求めるべきでしょう(※下記注)。

 よく目にするのは、任意で資料を取られ、パソコンのデータも一切合切取られるなど、存分に調査され、さらにはいろいろ事情も(有利不利含めて)聴取されてから、やっぱり疑問に思って専門家に依頼する、というパターンですが、場合によっては「手遅れ」という事態もあります。さらに、無駄に抵抗をしたり調査官と口論したりしたために、場合によっては手加減のない処分を打たれる事態もあります。

 あとで、あのような調査は任意の調査じゃないとか、処分がひどすぎるといって争っても、手遅れとなります。

 

2 強制調査

 強制調査の法律上の根拠は、国税犯則取締法1条にあります。憲法の保障がありますので、強制力の発動には、令状が必要です。

 令状があるので、強制的に、なんでも取っていきます。金庫も壊します。

 刑事事件化(罰金・懲役)が狙いですから、調べを受けるほうは大変です。

 しかし、刑事事件ということは、検察官が起訴するわけですから、刑事事件化するには、いわゆるマルサと呼ばれる税務職員(国税査察官)は、検察官を説得しないといけません。その意味で、非常に厳格に、脱税(ほ脱犯)の要件を充足しているかが、検討されることになり、査察官は、その要件充足性を検察官に示すために、大変な苦労(納税者からすると幅広く情報を収集されたり、資料・陳述を取られたり)をすることになります。要件充足性が厳格なため、刑事事件化できないこともあります。

 それゆえ、令状を持ったマルサよりも、令状なしの任意調査のもとで、大口・悪質事案を担当する資料調査課(いわゆるリョウチョウ)のほうが恐れられる場合があります(このあたりの詳細は、週刊ダイヤモンド2016年10/8号が分かりやすいでしょう)。

 

(注)執筆者の個人的な感覚では、税務署(調査担当者)の納税者本人に対する対応と、税理士に対する対応と、国税OB税理士に対する対応と、さらに弁護士に対する対応とには、明らかに違いがあります。国税庁が税理士の監督官庁でもあることに由来するのかもしれませんが、申告をした関与税理士に対する対応は、時に厳しいものがあります。他方、巷間言われるような、いわゆる試験組の税理士に対する対応と、国税の先輩であり、調査担当者も将来なるであろう国税OB税理士に対する対応とを比較すると、後者のほうが丁寧な気がするのは、執筆者だけではないでしょう。そして、弁護士に対する対応は、それらとはまた異なっていて、何をしでかすかわからない異質なものを見る目がある一方で、何を言われるかわからない紛争屋のイメージからでしょうか、丁寧かつ慎重な気がします。ちなみに、弁護士は、誰でも対応できるわけではなく、税理士登録をした弁護士か管轄国税局に通知をした弁護士(通知弁護士といいます)でなければ、税務調査対応や税務署での面談への同席などを拒否されます。したがって、執筆者個人としては、調査対応については、難しい事件であればあるほど、申告をした関与税理士のみならず、国税OB税理士や税務に長けた弁護士で応対するのが、一番効果的だと思っています。

 

任意調査の内容

 ここからは、納税者が一番遭遇しやすいであろう任意調査について、解説していきます。

 任意調査には、当たり前ですが、机上でやる調査と実地で行う調査があります。

 

1 机上調査

 国税当局の人的リソース、物的リソースには限りがあります。税務職員は、どこに調査に行くか決めなければなりません。

 オーソドックスな調査の端緒は、KSKシステム詳細)という、申告や納税に関するデータが入ったシステムから税務調査対象者の選定や滞納整理対象事案をピックアップするパターンです。ほかにも、匿名の投書が入ったり、一般のニュースをみたりしたなかから調査の端緒ができたりします。ですので、誰かに恨まれて国税に投書されるということは起こりうることです。

 このようにして、いろいろなところから集まってくる資料・情報(確定申告書や法人なら事業概況説明書など)を分析、検討して、調査対象を絞りこんでいきます。

 

2 実地調査

 一般には、きちんと予告したうえで納税者のもとに調査に入ります。悪質そうであれば、現金やマル秘資料を隠されたりすると困るので、無予告で調査に入ります。

 納税者が、複数の会社をいろいろな場所(納税地)に持っている場合など、必ずしも申告先の税務署ではなく、国税局や複数の税務署が連携して調査に入ります。銀行に行って、口座情報を調べたりもします。

 

任意調査のターゲット

 税務調査の目的は、不正発見です。不正とは何でしょうか。

 例えば、法人の場合は

  •  収益の除外
  •  費用の過大計上

 です。

 より具体的には、棚卸資産を除外していないか、仕入・人件費・経費等に架空計上がないか、役員関係の支出(交際費などは典型です。)に不自然なものがないか、などを見ていきます。

 なお、その過程で、従業員や役員の横領などの不正行為を見つけたり、組織ぐるみでリベートを支払ってそれを不正に処理していたことが見つかったりします(従業員等の不正の場合の問題点は、次回以降で触れたいと思います。)。

 

実地調査の方法(法人の場合)

 不正発見のために、どのように実地調査をするのでしょうか。実地調査は、どのように行われ、推移するのか、法人の例を挙げて見ていきます。

 法人の場合は、納税者の事務所に資料がたくさんありますから、内部証拠を基に調査を進めます。

 損益計算書や貸借対照表を分析したり、仕訳日記帳を分析したりして、前期との比較や、業種の平均値と比較して、イレギュラーな取引が見当たらないか、検討します。

 また、帳簿書類とその根拠となった書類とを突合したり、請求書などの証ひょう書類にあたったりして、取引記録が正確か、妥当かを検証し、不明な点については担当者に質問します。稟議書、会議資料、報告資料、メールなどの電子データ、メモ書き、付せんのチェックもあります。

 さらに、現物の在庫(倉庫)や、現預金などの数量(金庫)をチェックしたり質問したりします。

 これら法人内部での調査のみならず、取引先に行き、納税者との取引を確認する反面調査もします。

 

アドバイス(Takeaway)

 今回は、税務調査について概観しました。

 税務調査は、結構大変です。
 安易に納税者自らの力で対応しようとはせず、調査対応に実績のある税理士や国税OB税理士、税務に詳しい弁護士などの専門家に依頼するべきでしょう。

 特に、所得税・法人税では、

  •  複雑な取引をして申告していた場合
  •  仮想通貨・暗号資産、競馬など新規な取引や珍しい取引から所得を上げて申告していた場合
  •  経理処理や申告に経理代行会社や税理士を使っておらず、自社の経理担当が単独や少人数でそれらを行っている場合
  •  合併など組織再編を行った場合
  •  従業員や役員に不正があった場合
  •  海外との取引があって申告していた場合 など

 相続税・贈与税では、

  •  いわゆる富裕層に納税者が属している場合
  •  申告した税理士が相続税に詳しくなさそうであった場合
  •  海外資産を申告していた場合・していなかった場合
  •  故人が複雑な相続税対策をしていた場合
  •  故人がたくさんの預金口座を持っていた場合
  •  故人が同族会社を経営していた場合 など

には、当リーズ法律事務所の元国税審判官である弁護士・税理士 永井 秀人まで、ご遠慮なく、どんな不安でもご相談ください。
大阪、京都、神戸(兵庫)など関西エリアのみならず、東京・横浜など東京近郊、名古屋・東海エリア、西日本エリアにも対応実績を有しています。

(執筆 弁護士・税理士 永井 秀人)

【国際相続】ジョイント・アカウントの課税上の留意点(3)

 以前、ジョイント・テナンシーに関する課税上の留意点に触れました(第1回第2回)。今回は、国際相続の課税の問題、なかでも、ジョイント・アカウントにかかわる相続時の課税上の留意点を取り上げます。

ジョイント・アカウント

 結論からいうと、ジョイント・アカウントも、生存者財産権や死亡時支払条項付である場合が多いと思います。その場合、ジョイント・テナンシーと同じです。
 順を追って説明します。
 
 さて、金融取引や人的交流の国際化によって、海外に銀行口座を残したまま死んだら、その相続はどうなるのでしょうか。
 特に、外国銀行のジョイント・アカウントの預金は、相続手続なしで、もう一人の共同名義人の財産となり、課税関係は生じないなんてことはあるのでしょうか。
 

日本における共有名義口座と民法(相続関係)の改正

 もし、日本法で共有名義の預金口座があった場合にはどうなるでしょうか。
 例えば、夫婦2名の共有である預金口座があり、夫が妻と娘を残して、遺言なく死亡した場合を想定してみましょう。
 まず、預金債権は可分債権なので、預金口座に入っている共有のお金のうち、1/2(夫の分)は、妻と娘がこれをそれぞれ1/2ずつ相続します。妻の分1/2は、そのまま妻のものです。
 その結果、預金全部のうち、妻が3/4、娘が1/4をとることになります。
 
 なお、預金も遺産分割対象となるということが、最高裁大法廷平成28年12月19日決定で判断され、これを前提とした民法(相続関係。いわゆる相続法)が改正されました。すなわち、相続人による預貯金債権の一部払い戻し(各債権×1/3×払戻人の法定相続分。金融機関当たり150万円まで)を可能とする改正です(改正後民法909条の2)。この改正は、令和元年7月1日に施行されます。
 

海外における共有名義口座

 閑話休題して、例えば、米国にあるジョイント・アカウントの預金について、検討してみたいと思います。
 預金口座がアメリカにあることで、故人は日本国籍で日本で亡くなっても、準拠法をどうするか、相続手続きをどうするかといった話になってきます。
 まず、日本国籍の被相続人が亡くなったとき、相続は、「被相続人の本国法によ(り)」(法適用通則法36)決せられ、本国法とは死亡時の国籍法であるため、日本法で規律されることになります。
もっとも、ジョイント・アカウントの預金債権が法的にどういうものと解するか、という財産的な側面は、アメリカの法律で解釈されることになります。
 
 では、例えば、アメリカの例えばUniform Probate Codeに準拠するハワイ州法などからすると、生存者財産権付ジョイント・アカウントの預金は、死んだら相手方が全部権利を有することになり、相続財産ではないことになりますが、日本人でもそういうことになるのでしょうか?
これについては、裁判例があります。
 

東京地判平26.7.8(請求棄却)

 故人(被相続人)が公正証書遺言で、金融資産の10分の6を先妻との子に、それ以外は後妻に相続させるとしていたところ、先妻の子(原告)が、後妻(被告)に対し、生存者財産権付ジョイントアカウントとなっている預金の10分の6を求めて訴えたものです。
 
 争点は、ハワイ州のジョイント・アカウントの預金が相続財産を構成するか?
というものでした。
 
 裁判所は、概要、次のように判断しています。
 被相続人が日本人なので、準拠法は日本である(法適用通則法36)が、預金契約という法律行為の準拠法はハワイ州法である(法適用通則法7、8)。
本件のジョイント・アカウントの預金は、銀行との預金契約やハワイ州の採用するUniform Probate Code(統一遺産管理法典)に照らして生存者財産権(survivorship)が認められ、相続の客体にならないものであるから、相続財産を構成しない。
 

相続手続き

 では、ハワイ州などアメリカでの相続手続はどうなるのでしょうか?
 一般に、ジョイント・アカウントで、生存者財産権付ジョイント・テナント(joint tenants with rights of survivorship; JTWROS)である旨の記載や、死亡時支払条項(POD)や死亡時移転条項(transfer on death; TOD)付のものは、生存者へ権利帰属することになります。Survivorshipのあるジョイント・テナンシー、トラスト(信託)と同様、プロベートは不要です。
 

日本での課税

 プロベートなしに無事相続した外国銀行の預金ですが、日本の相続税の申告は不要でしょうか?
 答えはおそらくノーです。
 
 すでに第2回(リンク)で述べたとおり、「対価を支払わないで利益を受けた場合」(相続税法9条)に該当し、みなし贈与と判断される可能性があります。
 国税不服審判所平27.8.4裁決において、生存者財産権付ジョイント・テナンシーで生存者(ジョイント・テナンツ)が受けた経済的利益をみなし贈与と判断されたこと、また、国税庁ウェブサイトの質疑応答事例(リンク)において、みなし贈与と死因贈与とが併記されていることからすると、この例と同様に考え、いずれにせよ、相続税が課税される可能性があるのです。
 

まとめ

 したがって、例えば米国でこのようなジョイント・アカウントが問題になった場合の処理においても、生存者財産権付ジョイント・テナンシーと同様に処理するのが安全といえるでしょう。
 

(執筆:弁護士・税理士 永井 秀人)

 

~ リーズ法律事務所・永井秀人税理士事務所 では、海外投資、国際相続に関するお悩み、相談を受け付けております。お気軽にお尋ねください。~

【印紙税】印紙税の考え方(1)

はじめに

 印紙税法は、全部で24条しかない、短い法律です。しかし、実務上、文書の解釈もあり、時として実に悩ましい問題を生じさせます。

 今回から数回にわたり、なるべく分かりやすく、印紙税を解説したいと思います。

事例

 印紙は、高額の領収書などでよく目にすることが多いと思います。筆者の場合、M&Aのような取引においても目にすることがあります。合併や分割に関する契約書・計画書がそれです。ちなみに、かつて、たくさんのM&Aを手掛けている会社のデュー・ディリジェンス(法務精査)でこのような契約書を見たことがありますが、印紙が漏れていることに気づいた記憶があります。実は、弁護士も、税理士も、印紙についてはあまり詳しくない法分野なのです。

 もっとも、税務署の調査は、M&Aのような単発の取引に関する文書よりも、もっと反復性のある取引に関する契約書をターゲットにしてくることが多いです。日々の取引、業務で作られる文書で、何度も何度も印紙貼付を忘れていて、それが何年も続いているのが税務署にとっては望ましいのです。一つひとつの文書に貼るべきであった印紙は少額でも、何年分も同じ書類が、各地の支店や営業所で累積することによって、時に1,000万円単位の過怠税が課せられる結果になることがあります。

 ニュースでも、「葬儀申込書」という一見印紙が必要そうに見えない書類や、「住宅ローン契約の申込書」といった複写式書類のお客様控えにも印紙が必要とされて課税された事案が報じられています。

 こういった事例をみると、印紙税はとっつきにくく感じさせられます。そこで、改めて、印紙税法の構造からみていきたいと思います。

印紙税法の構造

 文書には、印紙税が課税される文書と課税されない文書があります。課税文書と非課税文書又は不課税文書です。

 課税文書と非課税文書は、法律上、それぞれ限定列挙されています。

 課税文書といえるためには、いくつかの要件があります。

  1. 印紙税法別表第一の表の、20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されており(課税事項の記載)、
  2. その文書が課税事項を証明する目的で作成されており(証明目的)、
  3. 非課税文書に該当しない文書であること(非課税文書非該当

です。
 しかし、課税文書に該当するかどうかの判断には、難しいものがあります(この判断を一般に課否判定と呼んでいます)。なぜ難しいかというと、文書のタイトルで決められるのではなく、文書の内容を見て個別具体的に決せられるからです(後述します)。

 なお、非課税文書とは、それも印紙税法別表第一の表に記載のあるもの(例えば、5万円未満の領収書)や、代表的には、国が作るような文書です(なぜなら、国から印紙代が出費され、国にまた納税されることになり、意味がないからです)。

納税義務の発生(「作成」要件)

 ところで、例えば、課税文書を受け取ったら印紙がなかった。受け取った人が印紙を貼らなければならないのでしょうか?

 どこかおかしい気がします。なぜおかしいのかは、法律に、印紙を貼らなければならない納税義務者について、「作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある」と書いてあり(印紙税法3条)、「受領者」とは書いていないためです。

 課税される(正確には、納税義務が生じる)ためには、このように法律上要件があります。印紙税の納税義務は、課税文書を作成したときに、作成者に生じます。

 この「作成」行為は、必ずしも、一般にイメージする文書を作る行為をいうのではなく、課税事項を記載して文書の目的に従って行使することをいいます。

 例えば、交付する目的で作成される課税文書(一番の典型例は、5万円以上の領収書です。法的には「受取書」といいます)は、文書の「交付」が「作成」となります。ですので、領収書を作って、交付しない段階では、文書の目的に従った行使がないことになりますので、「作成」がなく、印紙を貼っていなくてもよいことになりますが、交付時には印紙を貼っていないといけないことになります。

 また、例えば、契約当事者の意思の合致を証明するために作成される文書は、意思の合致の「証明」が「作成」となります。より具体的にいうと、契約書を締結する際、契約の署名欄の冒頭に、よく「上記契約成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保持する・・・」などという記載があると思いますが、意思の合致の証明が明確に表されている部分です。請負契約書などであれば、そのような文言に基づき、記名捺印したときに、文書の目的に従った行使があったといえるでしょう。

小括

 今回は、印紙税の課せられる要件を中心に解説しました。次回はより具体的に解説していたいと思います。

(弁護士・税理士 永井 秀人)

【お知らせ】経営革新等支援機関として認定されました(弁護士平松亜矢子)

お知らせ

 リーズ法律事務所の弁護士 平松亜矢子が経営革新等支援機関として認定されました(認定番号105327008405)。

経営革新等支援機関について

 経営革新等支援機関(単に認定支援機関ともいいます。)とは、国が、中小企業・小規模事業者のために、国が認めた、税務、金融及び企業の財務に関する専門的知識を有し、経営革新計画の策定等の業務について一定の経験年数を持っている弁護士、税理士、公認会計士、金融機関などを、いわば中小企業支援のプロとして認定するものです。

具体的な取り組みや助成金について

 認定支援機関は、経営の状況に関する調査・分析を行い、事業計画(経営改善計画、資金計画、マーケティング戦略計画等)の策定支援、事業計画の実行支援を行います。
 とくに、中小企業・小規模事業者の経営改善(売上増等)や創業、新事業展開、事業再生等の中小企業・小規模事業者の抱える課題全般に係る助言を行います。その際、認定支援機関は、中小企業等支援施策の効果の向上のため、補助金、融資制度等を活用したい中小企業の支援を行います。

 詳細な説明は、こちらをご覧ください。

リーズ法律事務所のかかわり

 事業承継税制の特例の認定のご相談、事業計画(経営改善計画、資金計画、マーケティング戦略計画等)の策定支援、事業計画の実行支援、事業売却やM&A業務、幅広い事業承継・相続のご相談は、リーズ法律事務所の弁護士・税理士までお気軽にご相談ください。なお、費用については、顧問契約による顧問料ないしタイムチャージで承っております(金額は顧客先の属性・環境に応じ定めさせていただきます)。

 詳細については、リーズ法律事務所の弁護士・税理士にお問い合わせください。