【役員報酬】不相当に高額な場合の損金不算入について

はじめに

京都市の有限会社京醍醐味噌が月額2.5億円等の役員報酬を支払っていたことについて、国税当局は、これを不相当に高額な役員報酬とし、高額な部分の金額の損金算入を認めない課税処分をしました。納税者は争いましたが、東京地裁は、令和5年3月23日、納税者の請求を棄却しました(詳細はこちら)。

役員給与の損金不算入とは

法人税法は、その34条や法人税法施行令69条において、役員の給与の原則損金不算入と、例外的な、①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与についての損金算入とを定めています。
これは、給与の全額損金算入を認めてしまった場合、所得を出したくない法人は、最大限給与を計上してしまうことになり、法人税法を確保できなくなるため、原則は損金不算入としたものです。他方、上記①ないし③のものは、一定の金額に収まることが予見されるので、損金算入もよしとされたのです。

不相当に高額な給与とは

そうすると、例えば、①の定期同額給与を用いて、可能な限り月額報酬額を高くして、予想される利益にぶつけることによって所得を下げようとする動きが生じます。
そこで、法人税法34条2項は、不相当に高額な役員報酬は、その不相当に高額な部分の金額を損金算入不可とすることで、このような動きを制約しています。

では、いったいどの金額から不相当に高額といわれるのでしょうか?

その金額について、法人税法施行令70条1項は、「不相当に高額な部分の金額」を、支給した報酬の金額のうち、定款の規定、株主総会の決議等により定められている役員報酬の限度額を基準とするもの(形式基準)、又は、法人が各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額が、①当該役員の職務の内容、②その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、③その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(同業類似法人)の役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を基準とするもの(実質基準)に区分し、支給した報酬の額のうち、形式基準又は実質基準に係る金額を超える部分の金額のいずれか多い金額とする旨規定しています。

冒頭に掲げた味噌会社の件では、同業類似法人の選定が問題となり、国税当局が「卸売業」の分類において類似法人を選定したことの是非が争われました。
納税者は、この味噌会社は、ファブレス経営として自社設備を持たないことから、国税当局が決めたような伝統的な卸売業といえるのかと疑問を呈したようです。

考察

判決は、卸売業であるとして、納税者の主張を退けていますが、裁判所の立場からするとやむを得ない判断なのかもしれません。ファブレス工場やファブレス型企業に該当する分類がない状況で、当てはまり得るのが「卸売業」くらいしかなかったのであれば、国税当局のした処分はやむを得ないものだったといえるからです。

しかし、果たしてそうでしょうか。

そもそもこの高額報酬を受け取った役員は、多額の所得税を払わなければならず、トータルで支払われる国税は、法人税法の税率が低い現状からすると、場合によってはむしろ多くなったはずです。つまり、高額報酬を受け取る役員は、安い法人税法の税率を享受する道を選ばず、高い税率の所得税を納める道を選んだわけです。所有と経営が分離されていない会社であればなおさらです。

私企業の利益処分は、株主等の所有者が行うことで、国があまり介入してその決め方を誘導するのもいかがなものでしょうか。ましてや基準が分からない(類似同業者基準など分からない)のに、後で、税務調査において、“後出しじゃんけん” で、当該会社のものではない基準を無理やり適用して課税するのは、適正納税をしようとしている企業にとって望ましい形ではないでしょう。これを、例えば、会社の業績に比例させたり、会社の過去の水準から導き出すなどして計算するするのであれば、株主等の意向に沿うでしょうし、基準も明確であるように思います。加えて、上記裁判において、納税者も主張したようですが、国税の基準に、新しいビジネスモデルの区分がないことも問題です。その法令の不整備のしわ寄せを納税者が被るのは、バランスを失しています。

他方、東京地裁は、判決で、「企業の意思決定として合理的とはいい難い」と述べたようですが、果たしてそうでしょうか。高額の報酬支出を決定したことは、税負担の軽減を目指す企業としては当然だったのではないでしょうか。

いずれにしても、納税者は控訴しているとのことですので、今後の裁判の推移には注視していきたいと思います。

(執筆: 弁護士・税理士 永井秀人)