【役員報酬の税務】D&O保険料を会社が払う場合

はじめに

 会社の取締役などが損害賠償請求を起こされた場合に備えて、保険に入りたいというニーズがあります。そんな時に、会社が、その取締役のために、役員賠償責任保険(D&O保険)に加入することがあります。
 取締役のために、会社が保険料を支払うということになりますので、これは役員等に対する給与として見られてしまうのでしょうか。

D&O保険とは

 D&O保険とは、会社を保険契約者、役員等を被保険者とする責任保険です。

 もし、会社の役員などがその地位に基づいて損害賠償請求を起こされた場合、その防御費用(訴訟費用や弁護士報酬など)と、敗訴したときの責任額を填補するものです。

 D&O保険の基本部分は、会社役員賠償責任保険普通保険約款です。この普通保険約款は、被保険者が会社の役員として行った業務上の行為に起因して、保険期間中に被保険者に対して損害賠償請求がなされた場合、それによって被保険者が被った損害(普通保険約款1条)のうち、法律上の損害賠償金および争訟費用をてん補するものです(普通保険約款2条)。

 D&O保険を利用することによって、会社の役員は、会社法429条の損害賠償責任を追及されることによる損害をてん補することができるようになります。

 なお、令和元年改正会社法430条の3(役員等がその職務の執行に関連して、損害賠償請求等の民事的請求や行政調査・刑事訴追等を受けた場合に、会社が役員等が被った損害賠償金や争訟費用等を負担する行為ーー会社補償ーーを定めたもの)は、施行前に既に締結済みのD&O保険に係る契約については適用されませんので注意が必要です(会社法の一部を改正する法律7条)。

D&O保険料の税法上の取扱い

 D&O保険料の税法上の取扱い、とりわけその保険料を会社が負担した場合の役員個人に対する課税については、法令解釈通達と文書回答事例で整理されています。

 まず、普通保険約款の部分については、第三者から役員に対し損害賠償請求がなされ、役員が損害賠償責任を負担する場合の、その危険を担保するための部分についても、また、役員勝訴の場合の争訟費用を担保する部分についても、これらに係る保険料を会社が負担したとしても、役員に対する経済的利益の供与はないといえると整理されています。このため、これらの部分については、役員個人に対する給与課税を行う必要はありません(通達)。

 これに対して、従来、株主代表訴訟の敗訴時担保特約を付けた場合の特約保険料については、会社が負担した場合には、役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税を要するとされていました(通達)。

 しかし、上記1で述べた改正もあり、①取締役会の承認、及び、②社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意または社外取締役全員の同意の取得という手続がなされていれ、会社が株主代表訴訟の敗訴時担保部分に係る保険料を負担したとしても、普通保険約款同様、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられると整理されました。このため、現在は、役員個人に対する給与課税を行う必要はなくなっています(回答事例)。

まとめ

 D&O保険を今後締結しようとする場合は、特約の内容に応じた処理をする必要があることは、従来通りですが、D&O保険の保険料を会社が支払っても、役員等に対する給与として見られてしまう場面は限定されています。通達や文書回答事例で整理された内容を踏まえ、税法上問題のない処理をする必要があります。

執筆: 弁護士・税理士 永井 秀人