【税務訴訟・審査請求】税務訴訟と租税不服申立(1)

 
 一般にはどちらも馴染みがない税務訴訟(租税訴訟)と租税不服申立制度ですが、国税不服審判所の国税審判官として執務した経験から、個人の納税者と企業の法務部員や経理部員などでもわかりやすいように、何回かに分けて、解説してみたいと思います(私見、私的感想に基づく記述を含んでいます)。
 

はじめに

 普段はあまり気にしたこともない課税の処分ですが、納税者として、税金問題で争いたいことが出てくることがあります。納税者が納得いかないものには、例えば、次のようなパターンがあります。
①きちんと申告したのに、修正申告を促された

 これは、自分の申告がなんで間違っているのか、納得できない場合です。

②申告しなかった。すると処分を受けた
③申告をいつかはしようと思っていたが気にしていなかった。すると処分を受けた
④適当に申告した。また、ちょっとゴマかして申告した。すると処分を受けた
 これらは、自分のやったことはやったこととして、それでも処分がやり過ぎ、行き過ぎで納得できない場合です。
 

争い方のメニュー

 課税処分に納得できない納税者が争う場合、争い方のメニューは、3つあります。

①再調査の請求

 処分をした税務署長、国税局長などを相手に、税務署長、国税局長などに申し立てます。
 税務署長らは、その処分の適否を見直し、再調査決定をして、「再調査決定書」を納税者に通知します。なお、これにより、納税者にとって不利となるよう処分が変更されることはありません。

②審査請求

 原処分庁(処分をした税務署長や国税局長)を相手に、国税不服審判所長に申し立てます。

 国税不服審判所は、税務行政部内の公正な第三者「的」機関(「的」の意味は、後で触れます)として、税務署長らの処分の適否を調査、審理したうえで、その調査審理の結果、裁決をします。そして、「裁決書」を納税者と税務署長らに通知します。なお、ここでも裁決により、税務署長らが行った処分よりも納税者に不利益になることはありません。

③税務訴訟

 課税庁を相手に、管轄する裁判所に申し立てます(一般に税務訴訟や租税訴訟と呼びます)。
 裁判所は、独立した第三者機関として、両当事者(納税者と課税庁)の主張内容、立証内容を検討し、その結果判決を下します。行政事件ですが、基本的には普通の民事訴訟と同じです。
 

メニュー選択のポイント

 これら3つのメニューのどれを選択すればよいのでしょうか。メニューを検討するうえで、大事なポイントがいくつかあります。

A. 期間制限

 処分の通知を受けた納税者は、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、①再調査請求か②審査請求のどちらかの方法により争うことができます。
 つまり、①税務署長に対して「再調査の請求」を行うことができ、また、②この再調査の請求を経ずに、直接、国税不服審判所長に対して審査請求を行うこともできます。なお、このことは、処分の通知書にも書いてあります。
 いきなり、③訴訟に持ち込むことはできません。
 ①再調査請求を選んだ場合、再調査の決定後なお不服がある場合には、再調査決定書謄本の送達があった日の翌日から1か月以内に審査請求をすることができます。

B.審査請求前置

 いきなり、③税務訴訟に持ち込むことはできないのはなぜでしょうか。
 
 法律上、国税不服審判所の裁決があったことを知った日(通常は裁決書の送達受領になると思います)の翌日から6か月以内に裁判所に対して処分の取消しを求める訴えを提起することができるようになっており(これを審査請求前置主義といいます)、法律は、国税や税務についてより経験の蓄積がある国税不服審判所に、場合によっては大量、画一的に生じうる税務紛争について「前さばき」をさせて、訴訟に移行する前に、行政部内で解決できることは解決させることとし、国税不服審判所における裁決を訴訟の要件としているのです(無視して訴訟に行くと、即却下されます)。
 
 もっとも、行政を信用せず、裁判所をとても信用している方には、審査請求を挟むことはまどろっこしいかもしれません。また、早く終局判決が欲しいという方もいます。
 そういう方のために、審査請求がされた日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がない(普通はそんなに早く裁決は出ません)ときは、裁決を経ないで訴訟を提起することができます。
 

再調査請求と審査請求のどちらを選ぶか

 では、まず、具体的に、①再調査請求と②審査請求とどちらを選べばよいのでしょうか?
 結論としては、どちらもメリット・デメリットがあり、事件の内容に応じて、再調査請求ルートを採ったほうがいい場合、直接審査請求を選んだほうが良い場合があると思います。
 

不服申立や税務訴訟をすると税務署ににらまれる?

 ところで、不服申立や税務訴訟をして税務署と争うと、税務署ににらまれて、毎年税務調査を受けるなどの「嫌がらせ」を受けるのではないか、という心配をする納税者や(場合によっては)弁護士・税理士がいます。本当でしょうか?
 いわゆる都市伝説の類と考えてよいと思います。
 税務署としては必要があれば毎年であっても調査するのは当たり前です(大規模法人では毎年角度を変えて調査があります。なお、例外的にコンプライアンスがしっかりしている会社については、調査間隔の延長もあります)。
 しかし、不服申立や税務訴訟の原因となった課税処分について、税務署は一旦調査をしています。それを、毎年間隔を置かずに調査に入るのは、極めて非効率であり、人員不足に悩む税務署がそのような成果の上がらない非効率なことをするとは思われません。どうせ調査に入るなら、5年寝かせて、加算税をたくさん取れるようになってから、調査に入るでしょう。
  ですので、争うべきと思われる課税処分については、ビジネスライクに争うべきであろうと思います。
 
 
次回は、審査請求と再調査請求のメリット・デメリットを検討したいと思います。
 

(弁護士・税理士 永井秀人)

【リーズ法律事務所では、国税不服審判所に国税審判官として勤務した弁護士・税理士が、納税者の方々の権利のために、税務訴訟や審査請求などの税務紛争、争いのある税務調査に積極的に関与しております。メールにてご相談ください。】