【税務調査】調査で業務上横領等が発覚した場合(3・最終)

 税務調査について、概観してきましたが、最後に、税務調査を端緒にして役員や従業員の不正が発見された場合どうなるのか、という点について、突っ込んで検討してみたいと思います。非常に事案の多いところです。それだけ、調査担当者は、眼光紙背でよく調査先の資料を見ているということでもあります。

 従業員や役員による業務上横領等の不祥事に見舞われた会社・事業主は、その不祥事自体からも、心理的なダメージや社内の動揺など、相当マイナスの影響を受けているのですが、そのことのみならず、課税上も散々な目に遭う可能性があります

 

 

 

資産の流出

 本来会社に留保されていたであろう金員が流出したのですが、会社は本来得られるべきであった金員を得られなかったという資産の流出が大きな痛手となります。

 

本税

 なぜ横領が発生したのに税金がかかるのか、会社は損をしたのだから税金を返してもらえるのではないかと思う方もいると思います。

 しかし、税の世界ではそのようには考えません。横領された結果、本来申告されるべきであった所得が、過少に申告されていたと捉えられるのです。

 会社を例にとってみましょう。
 確かに、会社に横領による損失はあるでしょう。会社には「損金」が発生しています。
 しかし、その“見合い”で、会社は、従業員や役員に対する同額の損害賠償請求権を取得すると考え、その損害賠償請求権は「益金」としてカウントされてしまいます。つまり、横領損失というのはカウントされないのです。

 なお、損金と益金とを同時に計上することの是非がしばしば争点になります。
 この点について、裁判所や国税不服審判所、国税の考え方は、不法行為による損害賠償請求権については、通常、不法行為による損失が発生した時には同額の損害賠償請求権も発生、確定しているから、損金益金同時計上を原則としています。
 しかし、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難であるなどのため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような特段の事情(通常人を基準として、権利の存在、内容等を把握し得ず、権利行使ができないといえるような客観的状況といわれます)があれば、損害賠償請求権の額を損失が発生した事業年度の益金の額に算入しないとする例外的な取扱いも認めていますが(法人税基本通達2-1-43参照)、こと横領において、加害者を知ることが困難なような場合は少なく、権利内容も委任・雇用関係や不法行為に基づく損害賠償請求権であり、税務調査によって金額もはっきりしている。なかなか例外にあたるケースは少ないのではないでしょうか。

 したがって、原則的には、横領損失というのはカウントされず、本来申告されるべきであった所得を上乗せして、法人税を取られるだけ、ということになります。これは会社にとっては相当の痛手です。

 

過少申告加算税

 それだけではありません。会社は知らなかったにせよ、本来申告されるべきであった所得を、過少に申告していたことは事実です。ですので、過少申告加算税も取られます。

 

重加算税

 過少申告加算税にとどまりません。国税当局が重加算税をかけてくる場合が往々にしてあります(むしろ普通です)。

 オーナー兼代表取締役の会社や同族会社ではままあり得ることですが、代表自体が横領していた、会社了解のもとで役員が横領していた、会社が役員・使用人の横領を黙認していたような場合、会社は、隠ぺい又は仮装の行為により、本来申告されるべきであった所得を、きちんと申告していなかったのだからといわれて重加算税を課されることになります。会社(経営者)が気づいていなくても、経理担当の役員・従業員の横領行為であっても、重加算税を課されうる、というところがポイントです。

 特に、小規模な会社においては、監視監督機能を持たせるだけの人員を割くことができず、経理担当に対するウォッチが行き届かない場合があります。そうしたときに経理担当者の不正が税務調査で発覚し、その結果、重加算税まで課されるようなことがあるのです。それを気づいていなかった会社としては納得いかないことが多く、このため、紛争も多いところです。

 国税当局は、割とざっくりと、会社に監督義務懈怠があったことは、隠ぺい又は仮装があったと同視できる、というような見方をしてきます。

 もっとも、本来の理屈は、納税者が法人である場合、当該横領行為の行為者が代表者ではなく、法人の使用人であっても、その行為者(使用人)の業務実態によっては、その行為者の行為は法人の行為と同視できる。そうすると、仮に法人の代表者がその使用人の行為を知らなくとも、重加算税の対象となりえるというものです。

 この理屈は、裁判例・審判例でも認められていますので要注意です。仮に、争う場合は、その者の行為が法人の行為と同視できない事情(経理部門の重責になかったとか、)を積極的に主張していくことになります。

 例えば、公表事例から拾い上げると、次のような事例があります。

<同一視した事例>

  •  納税者本人の申告行為に重要な関係を有する部門(経理部門等)に所属し、相当な権限を有する地位(課長等)に就いている者の隠ぺい又は仮装の行為は、特段の事情がない限り、納税者本人の行為と同視すべきであり、重加算税の賦課決定処分は適法であるとした事例(国税不服審判所平成7年12月14日裁決)
  •  隠ぺい又は仮装の行為者は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、その役員又は家族等で経営に参画していると認められる者の行為は、法人の代表者がそれを知らなかった場合であっても、当該法人の行為と同一視されるべきところ、隠ぺい又は仮装の行為者である当該取締役は、請求人の取締役であり、かつ、仕入れに関する責任者と認められることから、請求人の代表者が隠ぺい又は仮装の事実を知っていたかどうかにかかわらず、当該取締役の行為は請求人の行為と同一視すべきであるとした事例(国税不服審判所平成13年11月1日裁決)
  •  経理担当者が金員を不正に利得するために行った架空減価償却費の計上や売上除外等の不正行為は、純粋に個人的な行為であり、納税者の行為と同視できないとの納税者主張に対して、従業員等の行為が納税者の行為と同視できるか否かの判断は、①その従業員等の地位・権限、②その従業員等の行為態様、③その従業員等に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断することが相当であるところ、経理担当者が重要な地位・権限を有していたなか、容易に判明する態様の不正を、代表者が請求書等を見ていたにもかかわらず看過していたという事情を総合考慮し、従業員等の行為を法人の行為と同視できるとして納税者に隠ぺい仮装を認めた事例(国税不服審判所平成29年12月1日裁決)。

<同一視しなかった事例>

  •  伝票操作をして消耗品費について架空計上していた法人について、詐取をした使用人は、工場資材課において職制上の重要な地位に従事したことがなく、経理帳簿の作成等の職務に従事したこともなかったから、単に資材の調達業務を分担する一使用人であった事情や、この使用人が、私的費用を詐取するために独断で取引先に依頼して伝票操作の元になった行為を実行し、法人側も偽装行為によってその行為を認識していなかった事情などを総合考慮して、法人(納税者)が取引内容の管理を怠って、仮装行為を発見できなかったことをもって、当該行為を請求人自身の行為と同視することはできないとした事例(国税不服審判所平成23年7月6日裁決)。

もし重加算税といわれたら

 後者のように処分が取り消された事例もあることですし、もし、従業員の行為が会社の行為と同視できないような事情があれば、積極的に争うべきでしょう。

 そのような事情がなければ・・・ペナルティとして、税額の35%又は40%が課されることになり、事業に大変な財政的ダメージを与えます。場合によっては、事業存続の危機にさらされることになります。

 

源泉徴収義務

 現預金の着服があった場合、会社が従業員・役員から回収しなければ、賞与(いわゆる認定賞与)や給与として見られ、その者の給与所得としてカウントされます。そうすると、会社は、その給与に関して源泉徴収義務を課されることもあります。

 例えば、社会福祉法人の理事長が理事会に無断で法人の資金を引き出して使い込んだ事案で、源泉所得税の納税告知処分と重加算税の賦課決定処分の適否が問題になった裁判例(仙台高裁平成16年 3月12日〔上告・不受理〕)があります。そこでは、

  •  法人代表者が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような法人代表者が、自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得、費消したと認められる場合には、その支出が当該法人代表者の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に、法人代表者がその地位及び権限(これに基づく法人に対する貢献などを含む。)に対して受けた給与であると推認することが許される。

とされており、会社に源泉徴収義務が課されるべき会社から役員に対する支出についても、

  •  いかなる源泉から生じたものであるか、適法な利得か不法な利得かを問わない包括的な利益移転行為をいうと解するべきである。

とされており、参考になります。

 

従業員・役員からの回収難

 また、従業員・役員に対する貸付として処理する場合もありますが、その場合にしても、往々にしてそのような従業員・役員は返済能力がなかったりしますので、貸倒れとして損失計上する場合もあります。貸倒れによる損失計上は、要件がありますので、その要件に当てはめて本当に損失計上できるかどうかについても、注意する必要があります。

 

報道

 横領などに限ったことではありませんが、重加算税が課せられると、マスコミ報道で「脱税」や「所得隠し」と表現されます。取引先や銀行、場合によってはマスコミ自体からの問い合わせに弁解する必要に迫られます。どのように対応するつもりなのか、資金繰りは大丈夫か、などさまざまな問いかけに応えなければなりません。

 

さいごに

 今回は、主に法人向けの税務調査で横領が発覚した場合を中心に解説してみました。

 上記のような事業基盤を揺るがすような大影響を避けるには、日ごろから、経営者自らも納税意識を高く持つことが大切であり、また、経理担当者に処理を委ねている場合でも、経理担当者に任せきりにせず、経営者自らその行為をチェックしたり、責任者に内部監査をさせたり、人事異動でローテーションしてみたり、さまざまな工夫を凝らして、チェック体制を構築して不正発見に努めることが大切となるでしょう。

 そして、万が一、税務調査で不正が見つかったような場合は、できるだけ早めに、調査対応に実績のある税理士や国税OB税理士、税務に詳しい弁護士などの専門家に相談するべきだと思われます。

(執筆:弁護士・税理士・元国税審判官 永井 秀人)